Aerodynamik - 航空力学

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中田ヤスタカの考えるエレクトロの隆盛と、エレクトロとの決別@Marquee Vol.74

http://www.marquee-mag.com/


やっと出た中田ヤスタカの超ロングインタビュー。
ほとんどが「ヤスタカの考える戦略構想」についてで、そっちの視点から彼を見ているファンにとってはたまらない内容。




エレクトロはなぜここまで広がったのか。

中:リズムじゃないんですよね、エレクトロって。音色なんで使いやすいんですよね。感覚的には「新しい楽器ができた」って感じに近いと思うんですよ。で、そういう意味で、僕が思うにエレクトロって、デジタルの人がやっと自分のアイデンティティを楽器として持てたと思うんですよね。(中略)
エレクトロのああいうバリバリしたシンセの音は、やっと音色としてディストーションギターとかに対抗できるくらいのパワーを持った存在になりえた感じがあるんですよ。つまり、そういうパワー感を求めた時に、ギターに行かなくて済むというか。

シンセだけで構築されたテクノは別として、ポップスにおけるシンセの立ち位置は、これまでずっと結局バッキングにすぎず、ギターと同等に前面に出るほどのアイデンティティはエレクトロの出現で初めて持ちえたという解釈。そして、ハウスやドラムンベースのような「リズム」ではなく、「音色」の概念であるため、様々なジャンル、様々なミュージシャンが取り入れやすかったという指摘。
これは重要な指摘で、ほとんどの商業的なエレクトロやエレクトロ歌謡のフォロアー、いわゆるエレクトロを取り入れたJ-POPが全く面白くないのは、単にディストーションギターをハードな音色のシンセに置き換えただけのものでしかない、シンセの音色魂がそこに入っていないからだということを説明することもできるだろう。


一方でハウス歌謡を目指すフォロアーも沢山いるわけだが、これはこれで総じてつまらないと思うのは、トラックメイカーが揃いも揃ってグルーヴに欠けた緩い和物ハウスの人ばかりだから。というのは個人の好みの話ですが。




LDK」からエレクトロに至った経緯、そもそもなぜエレクトロだったのか。

中:精神的に日本人が得意ではなさそうなジャンルだと思ったからっていうのもあるんですよ(笑)。打ち込みしている人のイメージって、どっか内向的っていうか。バンドマンみたいなパワーを精神的に持ってないから、結果的に打ち込みやってるっていう人たちのほうが、割合的には多そうじゃないですか、やっぱり。で、もともと打ち込みでやってきて。そこで頑張らないといけないとも思ったし。やるからには打ち込みのイメージが変わるようなことをやりたい、と。(中略)
やりたいなって思う人を増やすには、やっている人がかっこよく映らないといけないとも思ったし。そのハードルは面白いと思ったんですよね。

内向的で「ピコピコ」だった日本の打ち込みシーン自体を覆すという意図。かつてビックビートが流行った時、日本人でそこに対応できていた人はほとんどいなかったような記憶が。パワーやかっこいいかどうかの違いもあるけれど、日本人のグルーヴ感の違いも大きく介在しているような気がする。



そしてヤスタカの交渉術について。

−なぜCapsuleはここまでうまくこれていると思う?


中:僕は”発売される”ってことが大事だと思う。”発売するための曲”じゃなくて、”やりたい曲が発売される”っていうこと。多分、ミュージシャンって会議が苦手なんですよ。「ダメ」って言われたら、「なんでだよ」ってなると思うんですよ。「あいつらわかってねーよ」って、そこで終わっちゃうじゃないですか。「これ、そのまま何とか出せないか?」っていう方法をあんまり探さないっていうか。でも、僕は粘るタイプなんで。今までに「ダメ」っていわれたものでも、結果的に出る場合が多かったと思います。

木の子氏による、「中田ヤスタカはミュージシャンというよりビジネスマン」という言葉を思い出す。彼の交渉テクニックの代表的な例として「ポリループ」が挙がる。

−俺はそこで”押し通せる”っていうことだと思うんだよ。それが今のCapsuleの自由を勝ち得ている根拠だって。


中:そうです。だから”話す”っていうことです。「ダメ」って言われた時に、最後の最後まで粘るわけです。でも時間がかかりました、あれは。


−実際にどう説明したの?


中:「今の人はこれくらい普通に聴くよ。僕はそれはリアルに感じる」って。


−そう言われても、言われた方は現場を知らないから納得しないでしょ。


中:だから「多分思ってるよりも、こういう音楽は奇抜じゃないと思いますよ」って。
ホントに。後は「やっぱりカッコイイことをやる時っていうのは、安心感がないわけで。勇気が必要なんですよね」っていう話をした(笑)。「みんなが”これは絶対に大丈夫”って思っているところには新鮮なものは入りにくいじゃないですか。新鮮じゃないから安心するんですもん。だから新鮮だったりとか刺激的なものっていうのは不安なものなんですよね。だから勇気だそうよ」って(笑)。

そして、ここまでヤスタカが自信を持って推せるのは、ヤスタカ自身が単に「口がうまい」だけでなく、彼の「いい物はいい」とするセンスの源が、彼自身でないことだという。

中:自分が「凄くセンスがいいな」と思っているやつらが、揃いも揃って「これいいよね」って共通する瞬間って凄く強いと思うんですよ。少なくとも全然会った事もない人たちを想像して、「ああいう人たちにこういうのウケそうだよね」って感じで作るよりも自信は持てると思う。(中略)
僕が根拠にしてるのは自分が見てきたリアルなので。やっぱり、そのリアルさ加減だと思いますよ。その代わりに広くは分からないけれど。身の回りの価値観でやってます。

センスのいいやつらに囲まれて、その人たちが推すものをいいものと捉える。そこだけ聞くと、なんだか自分の芯がなくて、脆弱なものにも見える。仲間内の盛り上がりの範疇を出ることが出来ない、となるはずだが、そのセンスを完全に自分のフィールドであるCapsuleから、Perfumeというマスに向けても発信し、通してしまうのがヤスタカの凄いところだ。




そして次の新作の方向性について。

中:ライブは考えないですね。DJでかける事も、もうあんま考えてないですけど。(中略)
「次のアルバムはクラブのDJでそのまま使えるか?」って言ったら、全く使えないと思うんですよね。かといって「コンサートやるか?」って言ったら、コンサートするための曲でもないし。だから、とりあえず「音楽作るの楽しいな」って感じにはなると思いますよね。みんなが「音楽作りたいな」って思う方が面白いかもしれない。

今更エレクトロをやる必要もないと言い、クラブのDJで使えるようなものでもないとも言う。


自分ももうエレクトロに完全に飽きていたので、この流れはとても興味深い。クラブで使えないけど自分でもやってみたくなるって言ったら、自分にとってはNew Waveみたいな、テクニックよりも気迫とアイディア勝負的なものをイメージする。しかしヤスタカはそっちへは行かなそうだ。


Capsule「MORE! MORE! MORE!」とPerfumeDream Fighter」の発売は08/11/19同日。多分もうこれを出した頃には自分なりのエレクトロはやり切った、もう終わり、そういう感触があったのだろう。だからなのか、「ワンルーム・ディスコ」には中途半端感が付きまとい、アルバムの中でも浮いた存在になっている。
Capsuleの変化は、すなわちPerfumeの変化でもあって、「トライアングル」で新曲群が旧来のエレクトロから脱皮したのは、既にその過程なのだろう。あのアルバムは「過渡期」なのだと前にも書いたけれど、やはりそういうことなのか。また、Capsuleの新しい方向が、Perfumeファンの求める方向と一致するとは限らないところが、なんとももやもやするところでもある。




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AutoTuneの普及に興奮する中田ヤスタカ@Sound & Recording Magazine 09年9月号

http://www.rittor-music.co.jp/hp/sr/


サンレコにも登場。こちらではやはり機材によった話など。
興味のある所だけざっくりまとめるとこんな感じ。

  • 初音ミクになる前のVocaloidのテスターをしていた。ここまでヒットするとは思わなかったが、Vocaloidの技術というよりもパッケージのアニメがブームになったと思う。
  • 自分はボーカリストに歌ってもらった方が速いので初音ミクは使わない。正直面倒くさい。
  • YAMAHA NS-10M(テンモニ)を相変わらず使ってる、慣れているので基準になる
  • ヘッドフォンはあくまで確認用。iPodや携帯で音楽を聴く習慣がないので、そこで聴いてもいい音が鳴るようにするような配慮は無視している。
  • 使うシンセは何でもいい。エレクトロに複雑なパラメータは不要。単純な音でかっこいいノリの方が必要。
  • エレクトロは音はチープだが、デジタルひずみを使った、デジタル的にぎりぎりのヤバさで作られているので、過去の音楽を前提としているエンコーダーでは全然違う音になってしまう。圧縮に向いていない音楽。


ボーカルの加工についてはこんなコメントを。

−中田さんがボーカル加工をしたトラックのヒット以降、日本でもフォロワーが続々と登場するようになりましたよね。


中:僕としては、歌の加工が当たり前になるまでの過程に凄く興奮しましたね。(中略)
たとえば、今流行している普通の歌謡曲やポップスが”何コレ?”といわれるような時代もあったと思うんですよ。僕はそういう流れを見るのが好きなんです。ミュージシャンの立場から言えば、このボーカル加工のように”これはアリ”という要素が増えれば、サウンドの幅は広がりますよね。レコード会社との会議で、”これやったらダメ”って言われなくなる(笑)。いろんな手法が大衆的になっていけば、使えるサウンドが増えるということです。そういうことに貢献していきたいですね。

この件については本当に貢献者だと思う。




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