今のAira Mitsukiを受け入れる土壌はどこにあるのだろうか
Aira Mitsukiの最初のアルバム「Copy」。発売日前日に、特典の未発表曲を入手するためにHMVで初回盤を、YAKENOHARAによるMEGAMIX特典を入手するためにタワレコで通常盤を購入、そして翌日のリリースイベントでご祝儀代わりにとまた一枚を購入。しかし、聴けば聴くほど虚無感に襲われる。「これはとても熱いものだ」ということは嫌というほどに伝わってくるのだが、自分の中で置き場所が定まらない。ただ、「こんなものを皆に聴いてもらえるのだろうか」という不安が先に立つのだ。
初めて公開されたときにとてつもない衝撃を与えてくれたPerfume「エレクトロワールド」は、「こんな凄い曲売れないわけがない！」と非常に期待させながら、実際は全く売れなかった。あの時の失望を思い出させるのだ。*1
所属事務所のデートピアは、彼女をPerfumeのフォロアーとして売ることをもう止めてしまっている。今やPerfumeは、「音楽ファンにも愛されるお茶の間アイドル」という場所へ行ってしまった。Perfumeに時代が追いついたとばかりに「テクノポップ」というキーワードに業界が食いつき、第二のPerfumeを探している。それはGenki Rocketsかもしれないし、Sweet Vacationであるかもしれない。ハウスを基調としながら、なによりキュートでポップな佇まいであることが、これまでのPerfumeフォロアーに求められたものだった。そして、一年前のAira Mitsukiも、自ら「テクノポップアイコン」と名乗った（名乗らされた）ように、キュートでポップな存在であった。
しかし、今回のアルバムでは、Aira Mitsukiはまるで異なった様相を呈している。デートピアは道楽で音楽をやっている会社ではない。むしろえげつないくらいの会社だ。えげつない事をしても売らなきゃいけないのに、売らなきゃいけないのに、アルバムはよりカルトな方向へと進んでしまっている。それは、「ポリリズム」で中田ヤスタカがAmuseを説得して成し遂げた、キャッチーでポップな曲に尖ったブレイクを入れるような、「ファンが新しいものを求めているのだからその先を行かねば」的行為ではない。
PerfumeがBugglesやScritti Polittiを思わせるような80's的にライトでポップな曲でオリコンの1位を獲得した一方で、Airaのアルバムは、KitsuneやEd BangerにJ-POPを足して、煮詰めて煮詰めてどろどろになったものを掬ってCDに詰めたような、胃に重く残るアルバムだ。アルバムの為の新曲はどれもロシア製の海賊盤を思わせるほどに音の分離は悪く、切れの悪いキックとシンセベースが禍々しくがなり立ててくる。
3度目のリニューアルで今更New Raveを志向して、これまでの熱心なガールズロックファンをどん底に突き落とした80_pan（同じくデートピア所属）と同様、これは「良心的な音楽ファン」向けの代物ではなく、ましてやお茶の間向けのポップソングではない。乙女ハウス以降大量に乱造されているオサレ和物ハウスのブーム（ブーム？）にも乗れないだろう。これはもはや好事家の為のアルバムでしかない。アルバムのタイトルは「Copy」で、これは相当に皮肉が利いているものだと思ったが、いざ音を聴いてみれば、それは「Perfumeの劣化コピー」などと気安く呼べるような代物ではなく、もはやコピー元に相当する物が何なのかも判らない。
Perfumeはこの夏に「良心的な音楽ファン」の集まるロックフェスを席巻したが、おそらく今後、Perfumeがレイブイベントに出ることはないだろう。それが徳間のスタンスだ。
一方でAiraは新島（！）で開催されるレイブイベントに出演する。アキバのイベントスペースを中心に活動する地下アイドルとは全く別の方向で、彼女（の事務所）は地下を志向してしまっている。ファンは彼女に何を求めているのか？PerfumeのようにTVのスポットライトを浴びてお茶の間向けに歌うことか？それとも普段Justiceを好んで聴くような人たちの玩具であって欲しいのか？ガチなアイドルマニアはこれで満足なのか？
このアルバムで、「かっこいい曲」を作ってもらえたことに、Aira本人はとても満足しているようだ。なら、それでいいのかもしれない。
ハードなフレンチエレクトロを基調としたアルバムの中で一曲だけ、異彩を放つ曲がある。こんな音を聴いたのは、多分1996年以来だ。ここには僕の青春時代が透けて見える。
Aira Mitsuki「イエロー・スーパーカー」
http://vids.myspace.com/index.cfm?fuseaction=vids.individual&videoid=41429145
