Aerodynamik - 航空力学

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帰って来た高速スイッチングのダイナミズム「Perfume 直角二等辺三角形TOUR」DVD


「GAME Tour」のDVDがリリースされた時に、当時ファンは手放しで拍手喝采的な雰囲気だったのだけれど、自分にとってはどう見てもつまらない作品で、批判的なエントリを書いたりもした。*1 あのDVDは、あくまで記録映像的なものであって、それは武道館DVDも同様だ。振りコピの練習にはいいのかもしれないが、Perfumeに振り回されるような、あの独特の「ライブ」の体感的なところは伝えようも無い。「bitter」はブレイク前夜の興奮の一瞬を切り取った、ある種ドキュメンタリー作品だった。ライブ映像を、記録映像と見るか映像作品と見るか、この壁は厚い。もう好き嫌いのレベルでしかないのだろう。


そして、「bitter」以来再び関和亮氏がディレクションを手がけた「直角二等辺三角形TOUR」DVD。Amazonのレビューでは、「発売前にもかかわらず」5点を付けまくる救いようの無い馬鹿が大量発生していたが、発売後には低評価のレビューが出てきて、賛否両論さもありなんといった感じだ。


だらだらと長いあの客いじりが収められていない、ブルーレイでないといった部分を除けば、このDVDを不満とする意見は「カット割が多すぎてダンスを注視することができない」という1点に集約されているのだろう。かつて「bitter」がリリースされた時も、同様の意見に埋め尽くされた。こんなものを観させられるのであれば、正面からの固定カメラで十分だと。もちろん関さんもその意見を理解しているだろうし、その解は特典映像として初めて収録された2曲のマルチアングルであり、また幸いにも記録映像としての淡々とした編集が施されたM-ON放送もあった。*2


3人のダンスを映す正面引きのショットはほとんど使われておらず、「bitter」ばりの高速スイッチングに加えて、観客と同じ目線の手持ちカメラ*3や、バックからのショット、腰や足などの極端なアップなどが多用され、躍動するPerfumeの三人、ライブ会場の興奮とテンション、照明や舞台装置の空間演出、それらの「臨場感」を再現することに徹しており、「bitter」以上に、Perfme、演出、観客、総体としてのライブをパッケージ化することに注力している。結果それは現場で観た感覚にとても近いものになっており、この表現を好むか好まないかは、ライブを観たことの無い人がこの作品を観た時には理解しえぬ共感の前提の有無、という側面もあるのだろう。


初めて「bitter」を観た時に、それまでこんな形のライブ映像を観た事が無かったので、非常に衝撃を受けた。これこそが、「加速するPerfume」そのものだと。今作でも、そのスピード感を味わう事が出来るし、視点はPerfumeの3人から、演出全てに広がっている。「GAME Tour」が好評にもかかわらず、あえて記録映像にしなかった「覚悟」というものが、全体から伝わってくる。




舞台のスケールが巨大になった今現在のPerfumeのライブというものは、演者の圧倒的な演奏力や歌唱力、あるいはカリスマ性によって支えられる類のものではないし、3人のパフォーマンスだけが支えられるようなものでもない。「Team Perfume」、単なる徳間ジャパンの名目上の組織名ではなく、ツアーに関わる全てのスタッフの存在に負うところがますます大きくなっている。*4 その要素を補完するように収められた、1枚目のメニュー画面としての舞台設営風景、2枚目の舞台・音響・照明スタッフや舞台装置の紹介は、とても重要なコンテンツだ。そしてなによりも「GAME Tour」「武道館」DVDからは省かれた、本編最後のスタッフロールの復活。このスタッフロールこそが端的にPerfumeにおけるスタッフのスタンスを雄弁に物語る。*5 一点注文を付けさせてもらうならば、やはりスタッフロールの人名表記は「bitter」同様に「漢字」でお願いしたい。ローマ字にこだわりがあるならせめて併記で。




このツアーの横浜アリーナ公演を、DVDに収録されている2009/10/15を含めて計3回現場で観たのだが、映像作品を観て改めて思うのは、結局のところ、Perfumeのライブを楽しむのに横浜アリーナは大きすぎるということだ。アリーナを飛び交うレーザーは確かに壮観だけれども、センター席でもない限り、遥か遠くの米粒ほどの大きさではダンスも表情も楽しみようが無い。大音量で流されるCD音源と凝った照明を味わうだけだ。家でDVDを観ている方がましとは言わないが、「Zero Gravity」「Kiss and Music」については、楽曲自体がライブ向きでもないし、ライブ会場の遠く後ろの方で観ていても全く面白くない演出であって(なにが行われているのかよく分からなかった)、こうして映像作品となって初めて楽しめるものとなった。
また、常々「Perfumeの主体はライブ」と主張しているだけあって、やはりライブの面白さは突き抜けており、この作品を見ても分かるように、視覚的要素は挑戦的で素晴らしい、しかし音に関しては、かっちりと組まれた振り付けもあってか極端に柔軟性に欠け、挑戦がしにくい部分でもある。これからも試行錯誤を期待したい。




振りコピのテキストとしては使えないけれど*6、久しぶりに背筋にぞくっときたライブDVDだった。




*1:http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20081017/p1

*2:肝心の新曲はカットされたが

*3:観客の挙げる手にステージが遮られる

*4:だから、個人的には対バンやフェス系のライブにはあまり興味が無い

*5:「bitter」に至ってはライブの公演本編にスタッフロールが被っているほど、監督はスタッフロールに拘りがあるようだ。

*6:どっちにしろ自分は振りコピしない/できないけれど