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Aerodynamik - 航空力学

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人工的なのに人の心を打つPerfumeのノドに感嘆@週刊文春2010年12月2日号「考えるヒット」


「ジェニー」の生みの親、近田春夫の「考えるヒット」680回。
Love the World」から「不自然なガール」まで毎回メインで取り上げてくれていたので、「VOICE」で一旦スルーだったのには「あれ?」と思ったが、今回「ねぇ」で再び掲載。

人工的なのに人の心を打つPerfumeのノドに感嘆!!


Perfumeの「ねぇ」でまず感じたのが声の事だった。前は人工的というだけで早晩飽きてくるんじゃないかと思っていた。それが飽きるどころではない、今回は何だか一層切なく聴こえてきて素直に「これ実は単にマジいい声なのでは?」と思ってしまった。


そこで「歌声の魅力」は天然であるかどうか(実体の有り無し)とは別の問題なのかもしれないということに気付いた。つまり人の心を打つのに、声が生身の人間のものである必要は別に無い・・・


当初は物珍しさから入ってきた、それこそ不思議な印象しか持ち得なかった聴き手も、いつしか(自覚も無いまま)その声の耳心地のよさに心を許すようになっていったのではないか。作り物の声とはいえ一般の −例えば聖子ちゃんのような− 歌手の場合と同じにうっとりし、感情移入することが可能なのだと理解すると「テクノ」という文脈だけでは説明が難しい”何故彼女達はここまで人気者になったか”が少し見えてくるかもしれない。


Perfumeには歌手としての普遍的な物差しで測りうる部分でのちゃんとした優位性がある。要するに(ああ見えて)普通に、何度でも聴いてみたくなる”いいノドをしたアーティスト”といえるのだ。この”いいノド”は中田ヤスタカがいなければ絶対に成立しない”いいノド”なのも確かなのである。問題はそこだ。


ま、問題は大袈裟ですけどね。遡って過去から今日へと聴けば聴くほど、彼女達の歌声はことさらなエフェクトヴォイスからありえないナチュラルさを持つものへと進化している風にも映る。その眺めはバーチャルな調教のようでもあり、未来には一体どんな音響が約束されているのか。想像するとワクワクもしてしまうが、なんにせよこのプロデューサーとアーティストの関係がずーっと続いてくれることを願うしかないのかな、リスナーは。




とか言いつつもう一つ思ったのは、やっぱ歌詞がいいということだ。冒頭に述べた切ない気分も


♪信号が青に変われば/あとはこの先に/待ってるのは広い海


などの表現に代表されるイメージの豊かさが無ければ、そこまで実感することは無かったろう。


そんなこんなで中田ヤスタカを改めて凄い!と思ってしまう「ねぇ」なのだったが、ホントに女の子は売れるとどんどん綺麗になるんだねぇ。今ジャケットを見てしみじみそう思いましたです。

これまでと同様に、近田氏のPerfume評は、声と歌詞に重きが置かれている。


ワンルーム・ディスコ」の頃には、近田氏は「アーティフィシャルな歌声には早晩みんな飽きてくるだろう」と予測していたが、エフェクトの方向性に変化が現れた「不自然なガールナチュラルに恋して」では、「突然例の声から始まるが、そのチューニングはまさに塩梅というかさすがだった。もうそろそろこの声に飽きたかなと思わせない何かがあるのだ。以前と同じようで実は微妙に−心地よさも−進化しているのだろう」と評している。そして今回は、最近のエフェクトに顕著な「切なさと心地よさ」の観点から一歩踏み出し、「天然であるかどうか」「声が生身の人間のものである必要は別に無い」という所まで進んでいる。


しかし、「人の心を打つのに生身の人間の声である必要は無い」と言われても、往年のテクノポップリスナーどころか、近年の初音ミク厨ですら、「何を今更」と突っ込みを入れたくなるだろう。この点に限って言えば、椅子からずり落ちるくらいに余りにも今更過ぎる話ではある。


ただ、テクノポップマニアが喜ぶヴォコーダーや、初音ミクのような合成音声は、あくまで生歌と同じフィールドで語られることの無い、「イロモノ」扱いであることにいまだ変わりは無い。Perfumeがブレイクした時、彼女達の声を初めて聞いた層が、どれだけPerfumeを「無個性」「誰が歌っても変わらない」などと検討外れの言葉で叩いたか、どれだけイロモノ扱いしたかを思い出すのも面倒くさい位だ。しかし、ようやく今年からの音源では、近田氏の言うように「歌手としての普遍的な物差しで測りうる部分でのちゃんとした優位性」という観点から、まともにそれが評価される風潮さえ出てきていてもおかしくないサウンドへ移行している。


中田ヤスタカがいなければ成立しない”いいノド”」がよりナチュラルに変化してきている、ということについては、一時期のAutoTuneの過剰なブームも過ぎ去り、中田ヤスタカもそれに依存した変調を行わなくなり、Pitch Correctなどのよりナチュラルなエフェクトに移行しつつあるという事でもあり、 *1 また同時に、Harmony Engineによる重層コーラスのテクニックが、他者の追随を寄せ付けないほどの職人技の域に到達しているという事も理由に挙げられるだろう。


さらに、ヤスタカの使うエフェクトの変化に加えて、Perfume自体の声の使い方も変化してきている。プラスティックで倍音の多い樫野さんの声が、Perfumeのコーラスの主成分であることには、これまでと同様に変わりは無い。しかし、硬質なエレクトロ色を前面に出していた近未来三部作から「GAME」「Dream Fighter」期まで、ストレートでアタックの強い大本さんの声は、硬質なエフェクトを得意とするAutoTuneとの相性もよく、実際に音源でも彼女の声が前に出るようなミックスが施された曲が非常に多い印象がある。一方で、柔らかく広がりのある声を持つ西脇さんは、どちらかといえば当時のPerfumeサウンドでは目立たない存在であった。それに変化が訪れたのは「トライアングル」制作過程の後半からで、西脇さんが自身の歌に対するスタンスを大きく変更させ、ヤスタカの「フラットに、無感情で」という指示の枠を外れて「自分が歌いたい様に歌う」*2という意思表示をしてからだ。その成果が「Zero Gravity」「Kiss and Music」などで、それまでの音源では聴かれなかったほどの西脇さんの「スイート」な音が前面に現れている。おそらくこれが転機だったのだろう。先の脱AutoTune志向と重なるように、2010年に入ってからのPerfumeのヴォーカルは、裏で常に西脇さんのコーラスが広がるような演出が施され、よりナチュラルに、スイートに変化してきている。


兎に角、このエフェクトによる独特の存在感と、透明でありながらもスイートな魅力をともに獲得した、「2010年のPerfumeの声」は、Perfumeの三人でなくてはならないし、とはいえ三人が集まっただけでは為し得ないし、また、中田ヤスタカがいなければ絶対に成立しない。近田氏の言うように、「このプロデューサーとアーティストの関係がずーっと続いてくれることを願う」ばかりだ。




参考:
Perfumeの声って何なの? 声を加工するいくつかの手法
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20100623/p1


考えるヒット「不自然なガールナチュラルに恋して
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20100430/p1
考えるヒット「ワンルーム・ディスコ
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20090410/p1
考えるヒット「Dream Fighter
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20081211/p1
考えるヒット「Love The World
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20080825/p1
考えるヒット「ポリリズム
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20071116/p1
Perfume×近田春夫対談@TV Bros.
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20071219/p1




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