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観覧記録 南波志帆「こどなの階段」リリースイベント@新宿タワレコ



  • 110616 南波志帆「こどなの階段」リリース・インストアライブ 〜こどなの新宿〜 『ミニ・ライブ&サイン会』@新宿タワレコ7F


プロデューサーであるCymbals矢野博康を筆頭に、土岐麻子キリンジノーナ・リーヴスコトリンゴおおはた雄一といった、「シティポップスの良心」と呼ぶべき面々が手がけてきた南波志帆の楽曲。ゆえに、ライブ現場に足を運ぶファンは、耳の早いアイドルポップス愛好家や、「大人」のシティポップスリスナーが中心で、年齢層はかなり高め、というのがこれまでのいつもの風景だった。


しかし、この日新宿タワレコに集まった客層は、明らかにこれまでとは異なっていた。これまでの「大人たち」に加えて、新曲の提供者であるサカナクションBase Ball Bear、或いは関和亮の手掛けたPVに興味を持って南波志帆を知ったであろう若者達がそこには溢れていた。制服を着た高校生や、HIGH-LOWSのTシャツにリストバンド装備の、剃刀の様なオーラを纏ったロックキッズまでいる。そしてステージ前の人だかりはどんどん大きくなってゆく。イベント開始時には、渋谷nestのキャパを軽く超える200人程にもなり、イベントスペースから溢れた客が売り場通路やレジ前を塞ぎ、何度も圧縮要請のアナウンスが飛び交った。これは間違いなく彼女のインストアイベントでの過去最高記録だろう。
前シングル「オーロラに隠れて」に収録された曲は、どれも良曲だったとはいえ、17歳の少女に歌わせるにしてはあまりに渋く枯れた方向性だったため、このような曲調に傾倒するにはまだ早過ぎると思ったが、新曲「こどなの階段」はそれ等とは160度位方向性の異なる展開で、これはこれで戸惑いを覚えたファンもいただろう。しかし、この動員を見る限り、ベボベ小出の青春路線の歌詞に、サカナクションの青臭いまでの若さ溢れる前のめり電子音、この路線は、これまでの上質な大人のためのシティポップスとはまるで違う層へ、今の彼女の魅力を訴えるのには大成功だったといえる。この新曲が収められたシングルは500円ワンコインで、音楽に貪欲な若者の懐にも優しく、そして、過去の名曲達への手引きまで付いている。PV監督の関和亮繋がりで、Perfumeマジョリティへの訴求もあっただろう。とにかく、この日の客層の変化は、全く新しい南波志帆ストーリーを予感させるに十二分なものだった。


リハーサル、PVと同じ赤いワンピースでステージに上がる南波志帆。ステージで飛び跳ねている間に、ネックレスが壊れてしまい、ネックレスのパーツが彼方此方に舞った。それらを拾いながら、「今、やる度に、いろいろな物を失って行くという感覚はあったんですけどね」と笑った彼女。この何気ない一言に、自分は確かに南波志帆自身に「今彼女から失われつつあるもの」に対する意識があっての上でのこの偶然の言葉選び、というやや運命めいたニュアンスを感じた。




定刻、壊れたネックレスをそのまま着けて始まった彼女のステージ。そこには、これまでに見た事のない南波志帆がいた。これまで何度も彼女のステージを観てきた。しかし、今日の南波志帆は全く表情が違う。彼女の大きな魅力の一つである儚いまでの少女性を覆い隠すまでに、力強く、自信に満ち溢れた表情、確かな歌声。バンドセットが持ち込まれた狭いステージの隙間で激しく踊る彼女。ドラムにノーナ・リーヴス小松シゲル、ギター&オペレーター岩谷啓士郎、キーボードにオトナモード山本健太。ワンマンライブ並みのパワフルなサウンド小松シゲルの圧倒的にタイトなグルーヴ感の強いドラミングがそれをさらに強く後押しする。まるで、集まったロックキッズ達に訴求する様な、それは、強く新しい南波志帆
透明で儚い、不安の中で彷徨うような少女性が、これまでの南波志帆の主成分だとしたら、明らかにその日その要素は変化を見せていた。これまでにない動員と熱量に裏打ちされた自信を持って、彼女は堂々と歌い、激しく踊り、頼もしさ、そしてカリスマ性の片鱗をも見せ始めた。2日前、18歳になったその日を祝して、南波志帆はファンの前でこれからに対する意思表明を行った。その夜を超えて、彼女は儚い少女性と引き換えに、大人への成長と、歌い手としてのカリスマ性を手に入れつつあった。
目の前で繰り広げられるあまりの変化の速度に振り落とされそうになりながら、こどもから大人への階段を駆け上がる、その一瞬を聞き逃すまいと自分は必至になった。大人でも子どもでもない、「こどな」、まさに今自分はその瞬間を観ているのだ。

  1. ごめんね、私。
  2. シャイニングスター (カオシレーター
  3. それでも言えないYOU & I (カオシレーター
  4. こどなの階段


ライブは大盛況だった。「初めて南波志帆を観た人?」という問いかけに手を挙げた観客は全体の半数近くに上った。素晴らしい新曲と、その新曲のテイストに沿ってピックアップされた過去の名曲が詰まった新しいシングルは飛ぶ様に売れた。サインを求める列は長い間途切れることがなかった。新しい魅力を手に入れた南波志帆に相応しい夜だった。








こどなの階段<タワーレコード限定>