Aerodynamik - 航空力学

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観劇記録 「モンスターズ/地球外生命体」(Monsters)イギリス 2010年公開 G



ある映画を一本観たのだけれど、あまり面白くなかったので、その時に見た予告編が気になったこの作品を続けて鑑賞したが、こちらは観て大正解だった。エイリアン・パニック物的なタイトルだけれども、この作品は、むしろロードムービーとドキュメンタリー、そして「世界の車窓から」のような自然紀行を重ね合わせたような、静かで知的な映画だ。50万ドルと多くない予算で作られた作品だが、もともとこの監督はドキュメンタリー作品でVFXを手掛けていたとのことで、戦闘の末荒れ果てて廃墟と化した街、時折すれ違う戦車、彼方此方にある警戒区域の注意標識、蒸すようなメキシコの密林、それらの細かいディティールをドキュメンタリータッチで描くことで、大金を投じてエイリアンとの戦闘そのものをCGで描くことなしに、「そこにある現実」を観客にむしろリアルに見せる、非常にセンスある作りを成功させている。
そしてこの映画のもう一つ興味深いところ、それは、エイリアンが存在する現実が日常化しているところだ。予告編にあるように、エイリアンと軍が戦闘状態、そういうニュースがテレビで頻繁に流れ、エイリアン出没地帯は隔離地域とされる世界だが、それでも其処に人は住み、そこには生活がある。3.11の地震以降、放射能汚染はもはや日常のものとしてテレビから流れてくる、それでも福島に人は住み、人々は恐怖を静かに感じながらも、そこに普通の毎日の生活、日常がある。あまりにも今の心境/状況にシンクロしていて、この映画の世界に深く没入していった。


この映画一本の完成度の高さに、タランティーノリドリー・スコットらが絶賛し、監督ギャレス・エドワーズは、エンパイア誌「2010年に映画界でブレイクした新星10人」に選ばれている。派手なパニック映画が見たいならお勧めしないが、むしろSFマニアでない人にも訴える独特のタッチを持った非常に興味深い一作だ。