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Aerodynamik - 航空力学

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Perfume「Spending all my time」の英語詞/日本語詞を巡る、Perfumeの「ブレない」ヴィジョンの有り方について

Perfume


今、とても感慨深い気持ちでいる。Perfumeの楽曲制作において、Perfume中田ヤスタカの関係性、或いはPerfumeの姿勢に大きな変化が起きた事が伝えられたからだ。一曲の楽曲制作に対して、ここまで興味深いやり取りが行われた(ことが口外された)のは初めてのことだ。Perfumeの楽曲制作時におけるエピソードとは、「無感情/平坦に表現することを求められ理解できず泣いた」とか、「表現に対して全く指示が無い」、あるいは「『FAKE IT』における震え上がるほど厳しい歌唱指導」といった類が殆どで、楽曲それ自体に対するエピソードは、PV撮影やライブ披露に伴い膨らんでいくものだった。


「エレクトロとJ-POPの融合」から始まり、そしてこれまでのPerfumeの集大成たるアルバム「JPN」で見せた、ドメスティックなJ-POP歌謡とクールなハウスポップの高次元での昇華。それこそがPerfumeのオリジナリティであり、それをそのまま海外へ持っていこう、というのがこれまでのPerfume自身、あるいはレコード会社の一貫した意見(に見える物)のはずだった。ところが、作曲/編曲、作詞の両要素において、その同意を一気に覆したかのように聴こえる「Spending all my time」。その制作の中で何が起きたのか。三人のインタビューではとても興味深いことが語られている。ただ、中田ヤスタカ本人の見解が欠けているのが惜しい。実に惜しい。もっとも、それは「Spending all my time」の僅かな日本語詞を見れば自ずと見えてくるものなのかもしれない。




それがPerfumeの楽曲であっても、レコーディング当日に作詞作曲を行うというヤスタカ。*1 Perfumeは幾つかの例外を除くと、ヤスタカのレコーディングスタジオで、初めてその楽曲と歌詞を知ることになる。今回もそうであったようだ。

の:まず次のシングル候補として「Spending all my time」をレコーディングしますって言われて中田さんのスタジオで歌詞を見た時、英語ばっかりだったことに冷や汗ですごくびっくりしたんです。 (TV Bros. 2012年08月12日号)


ここで、Perfumeはヤスタカの提示した楽曲に対し、違和感を露わにする。まず、「Spending all my time」が、「JPN」までのドメスティックなJ-POPスタイルではなく、Calvin HarrisやLMFAOといった今現在の海外ダンスミュージックを席巻する、いかにもDavid Guettaがスピンしそうな「超メジャースタイル」の(所謂「EDM」的な *2) 作曲/編曲であったことについて。

か:もうびっくりしました!イントロ聴いただけで”中田さんどうしたの?大丈夫かな?”っていう気持ちが出てきて。こういう曲をやるならPerfumeじゃなくcapsuleなんじゃないかと思ったんです。 (TV Bros. 2012年08月12日号)

の:最初にタイトル曲を聴いた時は驚きました。こんなに洋楽っぽい音になると思ってないし (TV LIFE 2012年08月11日号)

あ:ベアトップ!みたいな。


か:タイトミニ!みたいな。


の:クラブ!みたいな。


あ:港区!みたいな。


か:(笑)港区!


あ:そういう感じにはPerfumeは行きたくないっていうのが結構あって。


(Rockin'on Japan 2012年09月号)

の:イケイケの港区、クラブ、露出度の高い姉ちゃん、みたいなイメージ (Rockin'on Japan 2012年09月号)

の:曲だけ聴いた段階では、私達はイケイケなお姉さんしか想像できなくて不安だったんですけど。 (TV LIFE 2012年08月11日号)

の:イメージ的には、ちょっと露出の高いクラブ的なお姉さんが、ダンサー連れて、ジャンプしてる感じ(笑)。 (音楽と人 2012年09月号)

「EDM」系のPVはまさにそんなビジュアルばかりでもあり、大本さんが一番明確にこのタイプの楽曲が受け入れられている層のイメージが見えているのはなんだか流石と言いたくなるところ。また、イントロを聴いただけでこの楽曲の指向する所を読み取った樫野さん。現在進行形のダブステップなどを好んで聴く彼女もまた、大本さんと同じものを直ぐに連想したのだろう。




そしてPerfumeにとっての最大の違和感は、ヤスタカの提示した「全編英語詞」だった。

の:英語ばっかりなのでびっくりしましたね。日本の人達に聴いてもらう曲なのに、大丈夫かなって。 (What's IN 2012年09月号)

の:実は、最初は歌詞が全て英語だけだったので、発音とかも含めて大丈夫かなって少し不安だったんですが。 (日経エンタテインメント! 2012年09月号)

か:今年に入って「JPNツアー」で全国を回っていたんですけど、そこでは「今までのPerfumeを伝えたくて海外へ行くんだよ」って(ファンの)皆さんにお話してたんです。今までの私達の良さ、日本語の響きの美しさなんかも含めて一緒に伝えられたらいいなって思ってるって。そうしたら、その次の曲が全部英語でびっくりして(笑)。 (日経エンタテインメント! 2012年09月号)

あ:今年のツアーでも「私達が世界を目指すのは日本の音楽を世界に伝えたいからです!」といってきたから、”あれっ!?”と思って。 (TV LIFE 2012年08月11日号)

あ:”JPNツアー”で、「私達は日本が好きなので、日本の事をもっと知って好きになってもらえる架け橋になれればと思い、世界進出を考えています」って、「でも日本の人を一番に思っています」って言いながら全国を廻ったばかりだったんです。なのに、次に出てきたのが英語詞で(笑)。あの、中田さん本当にライヴ観に来ましたぁ!?みたいな(笑)。 (オリ★スタ 2012年08月20・27日号)

の:今までの流れからしても、次のシングル英語ってどうなの?って。中田さんは確かに世界を見て作ってくれてて、Perfumeの事考えてくれてるのかもしれないけど、やっぱりちょっと違和感あるよなって思って。 (Rockin'on Japan 2012年09月号)

あ:音に関しては勿論お任せしたくて、でも日本語でやりたいっていう思いはツアーも観に来てくれてるはずなのに、みたいな。 (TV Bros. 2012年08月12日号)

「575」のラップの時と同様にまず英語で歌えるのかという事はもとより、極端な海外指向が日本のファン/マーケットに受け入れられるのか、「海外進出では日本語の良さを伝えていきたい」と繰り返してきた事はどうなるのか、これらが拒否感の要因のようだ。彼女達は、海外進出に際して、「日本のファンがPerfumeを遠い存在に感じてしまう不安」に対して非常に敏感だ。何度も何度も繰り返し日本のファンへ向けて「日本で活動する私達のまま何も変わらない」という事をアピールし続けて来た。だが、従来のPerfume楽曲における英語詞は、「Take me」「Take off」「Speed of Sound」といったアルバム内の変化球たる位置のものであり、英語詞をシングル曲として提示されることへの違和感は、容易に想像しうるだろう。




結果、Perfumeがこの楽曲をどう解釈したか。

あ:中田さん、海外を意識したなって思いました。今は中田さん自身、色んな方から曲をオファーされて、世界の方からも沢山注目されてるから。J-POPだったPerfumeが、世界にも発信しようとしてる事を意識したなって感じました。 (音楽と人 2012年09月号)

あ:ああ、もう中田さん、自分に集中しちゃったんだなと、最初は思いました(笑)。世界で中田さんの評価がグングン上がっている中で、求められているものもある。その一つがPerfumeでもあるので、世界に向けて、という意識が強くなったんじゃないかなと思いました。 (What's IN 2012年09月号)

の:新曲を最初に聴いた時は、”攻め”だな、海外を意識しているんだなって思いました。 (日経エンタテインメント! 2012年09月号)

か:英語ってだけって海外意識し過ぎてる感があるし、外から見る分にはPerfumeが意志をもってこれを提示してるって感じ受け取られるからそれはどうなんだろうと。やっぱり中田さんと一緒にずっとやってきても海外に対する細かい思いとかはちょっと違うんだなって。 (TV Bros. 2012年08月12日号)

の:今まで中田さんが外したことないと思ってるし、中田さんの曲が大好きだし、中田さんの方向にちゃんと向かっていきたい気持ちはずっと持ってたので。間違いはないだろう……でもこの曲に引っ張られ過ぎるのは相当マズいな、と思いました。 (音楽と人 2012年09月号)

あのトラックと英語詞だけ渡されたとしたら、誰が聴いてもこれは海外マーケットを意識した結果だと解釈するだろう。海外を意識することによって変貌してしまうPerfume像に対して、違和感、というよりある種の危機感めいたものを抱くPerfumeにとって、海外マーケットに対する意識のズレを、最初のヤスタカの提示に対して感じたようだ。




そして、そもそもこの楽曲がPerfumeに提示されたことについて、その要因は「レコード会社との意思疎通の不備」にあると彼女達は分析する。

あ:なんで日本語でやりたいのとか、ツアーをどうしてああいうツアーにしたのかとか、いろいろ繋がってる所なんですけど、それを介してくれるスタッフさんには100%伝わってなくて、だからああいう海外の路線で行きましょう、みたいな楽曲が出てきたと思うんです。レコード会社が変わって、これまで言葉を交わさなくても意思疎通取れてたところも100以上ちゃんと伝えないと分かってもらえないんだなって。 (TV Bros. 2012年08月12日号)

スタッフと意思疎通が十分に取れていない、という発言は、実は「JPN」制作時にも見られる。これは一種の大企業病であり、ブレイクして会社の屋台骨を支えるまでになったPerfumeはこれと戦い乗り越えざるを得ない。

−ふと考えると、自分が思っていたPerfume像を理解してくれている人が、そんなにいない実感を持った、と。


あ:うーん、そうなのかな……。でも、今そういう気持ちをちゃんと共有できてるのって、メンバーとMIKIKO先生、あと関監督くらいですね。Perfumeについて改めて話すことも、今はそんなにないからっていうのもあるとは思うんですけど。 (音楽と人 2011年12月号)


EX「モーニングバード!」キャスターを務める小松靖氏によると、ユニバーサルが海外展開を意識した結果の「次のステージ」であるとの事。まあ当然と言っちゃあ当然の話なのだが。


@komatsu_yasushi
小松靖
Perfumeの新曲「Spending all my time」を聴きながら。Perfumeが確実に次のステージに入ったことを感じさせる曲ですね。Universal Jの担当者の方と話したんですが、やはり海外のiTunes展開を意識しているようです。ネットの情報では、(つづく) link
@komatsu_yasushi
小松靖
(つづき)テレビでは歌わないなんて話もありますが、だったら確実にライブに足を運ばないとってことになりますね。個人的には、これまでのPerfumeの世界観も大好きだし、今後の海外仕様のサウンドも楽しみにしたいなと思います。低音がお腹を突き上げるくらいの大音量で聴くとサイコー! link




そして、Perfumeはこれまでになかった行動を起こす。Perfumeの三人は、Perfume自身の活動に対して積極的にかかわる、いわゆるセルフプロデュースを徐々に進めてきたが、それは楽曲が完成して以降のタスク、衣装やジャケットなどのヴィジュアル面に限られ、*3 楽曲制作は「神」たるヤスタカのセンスを信頼し、一任してきた。(一度西脇さんが「作詞をしたい」と申し出たことはあるが。*4 ) そして、ここで初めて、楽曲制作に対して意見を申し出たのだ。

か:日本語の歌詞をお願いして入れてもらって録り直したんです。自分達が楽曲に対してこんなに強く意見を言ったのは初めてですね。 (TV LIFE 2012年08月11日号)

か:今回は日本語の歌詞が入っていないものはシングルの1曲目にしたくないとお話して、そこから新たに考えていただきました。 (日経エンタテインメント! 2012年09月号)

か:最初は本当に英語だけだったんですよ。でも、スタッフさんも含めてみんなが、それはちょっと、と思ったので、「日本語を入れたいです」と中田さんにお伝えしました。 (What's IN 2012年09月号)

か:最初は全部英語の歌詞だったんですけど、シングルのA面にするなら日本語を追加してほしいってお願いして、やっと入ったっていう。


−その時の中田さんの反応って、何かあったんですか?


か:どうなんですかね?スタッフを介して伝えてもらったので。


(TV Bros. 2012年08月12日号)


スタッフを介する形で伝えられたこの初めての楽曲に対する要求は、受け入れられ、ヤスタカは日本語詞を追加する。追加された日本語詞は、

  • 「いつもキミを想うよ」
  • 「このまま離さないで」
  • 「信じてる キミのこと」

と、たった3つの短文だけで、基本的に英語詞の繰り返しという構造に変わりは無い。しかし、ヤスタカは、Perfumeの「意図」するところを十二分に汲み取り、この短いセンテンスにその思いを託したようだ。そして、普段から楽曲においてなにより歌詞の伝える所を重要視する西脇さんも、この日本語詞に対して、以下の解釈をしている。

あ:英語の詞にはあまり意味が無くて、ほんの少しの日本語の歌詞に本当の意味が入ってるんですよ。英語詞は呪文というか暗号みたいにループしてるところがかっこいいし。だからこそ日本語の歌詞が凄く響くんですよね。 (オリ★スタ 2012年08月20・27日号)

「日本語詞部分は、海外進出に際してのむしろ日本のファンへのメッセージではないか」という投稿者に対して


あ:あのね、私もね、実は中田さんもそういう風に作ってくれてるんじゃないのかな、と信じてる。


の:日本語が効くように。


あ:わざと英詞には、全然意味が無くって、日本語の方に意味があるんじゃないかなっていうのはね、ずっとそういう風に説いていたので。


(TFM「Perfume LOCKS!」 120802)

あ:前向きに考えると、この繰り返しの英語の部分に意味は無くって、日本語のところに本当の意味が隠されてるのかなと思って。だから日本語を入れて下さいって伝えた意図を中田さんなりに表現してくれて、日本語が一番響くかたちに作ってくれたのかなっていうのは感じてます。 (TV Bros. 2012年08月12日号)


何故ヤスタカはPerfumeに全編英語詞を渡したのか。ここは非常に重要なポイントであるにもかかわらず、ヤスタカ本人のコメントが無いので推測にすぎないが、恐らく彼には「ユニバーサルの発注通り、国際標準的ダンスサウンドと全編英語詞で作ったとしても、Perfumeにしか作れないPerfumeサウンドになる」という「絶対の自信」があったのではないかと思う。実際、「Spending all my time」は、ダンスフロアの着火一点に収束される下世話な「EDM」的サウンドを取り入れながらも、それらには決して現れない清潔さや上品さを纏い、なおかつダンスフロアやフェスで通用するようなダンストラックに仕上がっている。2006年当時のエレクトロの持つ破天荒な加速度をJ-POPに取り入れ、他に類を見ないダンスサウンドを生み出したヤスタカが、2012年なりの解釈でPerfumeを進化させようとしているように見える。


取り入れるものがメジャーシーンで世界的に流行しているサウンドという事もあり、「どこかで聴いたような」「今時の王道路線」と評されることもあるだろう。しかし、2007年当時のあれほどオリジナルなPerfume楽曲に対する(ファン以外の)一般的評価は、「Daft Punkのパクリ」「Underworldのパクリ」だったという事も思い出しておく必要があるだろう。



あ:しっかりコミュニケーション取って、自分達がもっと中田さんに踏みよるかしないとヤバいなと思っていて。そこがブレると、お客さんに”あれっ、変わった?”と感じさせてしまう一つの要因になるなって今回気付いて。それはMIKIKO先生も気付いていて、だから打ち合わせの数もすごい増えたんですよね。Perfumeもいい大人だし、もっと現実的な話も自分たちで決めていけたらいいですね。多分うちらがブレなければ、きっとブレないと思うから。 (TV Bros. 2012年08月12日号)

ユニバーサルへの移籍、そして海外リリース、海外ツアー。Perfumeというプロジェクトはますます巨大なものへと進化し続けてゆく。そもそも以前から、Perfumeというプロジェクトは、誰が手綱を握っているかが見えない、誰も指揮する者がいないからこそ面白いものが生まれるとヤスタカに言わしめた分業プロジェクトでもある。ユニバーサルという巨大な国際企業の元では、その企業理念がともすると空席であるPerfumeプロジェクトの指揮席に座り込み、最優先事項を演じる事になる。商業活動である以上、それが正しいことであるのもまた解であるが、Perfumeプロジェクトは創作活動でもある。ヤスタカは「作りたいものを作れるような環境に自分を置く」ことを最も重要だと主張したが、*5 それはまた、Perfume自身においても同様だ。Perfume自身が手綱を握らなければ、Perfumeの魅力をこの先維持し続けることすら難しくなっていくかもしれない。



この「直訴」エピソードは、単に「Perfumeが楽曲制作時に『神』ヤスタカに注文を付けた」という話ではない。海外進出が具体的に動き出し、アジアツアーも控える今、Perfumeが伝えたいもの、Perfumeが表現したいもの、Perfume自身が思い描くPerfumeのヴィジョン、それらを(スタッフを介してではあるが)ヤスタカと対話することができるようになった、それはレコード会社の戦略とも対話することへ繋がる、彼女達の大きな成長を物語るエピソードだ。Perfume自身があるべき軸を持ち続ける、それが「神」の作る楽曲であっても。信頼すべきところは全面的に信頼し、意見すべきところは意見をなす。「Spending all my time」における僅かな日本語詞は、これまでも、そしてこの先も、誰にも見えないPerfumeの進む道に、彼女達自身が地に足を付けて歩いたその一つの足跡となった。これはPerfume史における大きな大きな一歩かもしれない。




−この先、中田さんと話し合う機会も増えていきますか?


か:うーん、それは難しい所ですね。あえて距離感を保ってるところはあるし、中田さんも考えて下さっている部分があると思うので、そこはいい距離感を保ちつつ、話せるところは話していけたらいいですね。


(TV Bros. 2012年08月12日号)






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