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Aerodynamik - 航空力学

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「Perfumeは今年最良のワールドミュージック、ウィリアム・ギブスンが夢想したテクノロジー主導のポップグループ」@「TIME」誌 20121023

Perfume

http://entertainment.time.com/2012/10/23/world-music-10-global-musicians-you-should-listen-to-now/


Perfume本人達のインタビューがある訳でもないのに、Perfumeが一々海外のメディアに取り上げられたからと大騒ぎしていてもキリが無いだろうとは思うのだけれど、米TIME誌のこの記事は非常に気になった。


世界で最も読まれているニュース雑誌、という説明も必要が無いであろう米TIME誌のウェブ版エンタメ音楽カテゴリに、PSY「江南スタイル」のヒットに呼応したのであろう、「ワールドミュージック:アメリカでのスターダムへの準備が整った、次のアーティスト10組」という記事が掲載された。

World Music: The Next 10 Artists Poised for U.S. Stardom
Nothing against Psy, but music from beyond the English-speaking world doesn't stop at "Gangnam Style"


By Melissa Locker Oct. 23, 2012

韓国本国では「K-POPの優秀性を世界中に知らしめた」と報道されているPSY「江南スタイル」。英語歌唱でもないのに、先にアメリカでの活動を始めたWonder Girlsや、箸にも棒にもかからなかった少女時代を遥かに超えるビルボード2位まで上り詰めて大変立派だと思うが、アメリカ現地や他国での報道を見ていると、Scatman John「Scatman」やLos del Rio「Macarena」、Rednex「Cotton Eye Joe」のような、突然世界的に大ヒットする「謎のおっさんによる面白ダンスミュージック」枠扱いのようなので、この曲をもってして大げさに韓国国民の優秀性やら音楽性を語ることには何の意味も無いだろう。「恋のマイアヒ」でモルドバの音楽文化を語られても困る。日本国内でも韓国政府によるソフトコンテンツ振興政策の後押しの下に「K-POP=イケメンマッチョとモデル美女がグループになってEDMで踊る」というイメージ作りに多額の投資がなされてきた中で、「金正日みたいな太ったアジア人が面白ダンス踊ってる」的なノベルティソングをどう扱うべきか相当迷いがある感じがする。K-POPの韓国国外での売り上げの8割以上は日本なので、K-POPの主戦場は必然的に日本になるのだが、当のPSYはアイランドと契約して本気でアメリカで勝負していくつもりのようで、多分それが正解だろう。日本でのK-POPファン層は、K-POPをアイドル的に聴く地盤が主で、PSYに興味を示さないだろうから。


で、記事に話を戻すと、「非英語圏の音楽達は『江南スタイル』では終わらない」と題して上のTIME誌の記事が書かれ、シアトルのFM局KEXPのワールドミュージック番組「Wo' Pop」を担当するDJ Darek Mazzoneに「拡張するワールドミュージックへのツアーガイド」として、「今年最良のワールドミュージックへのビギナーズガイド」を依頼している。


そしてこれが記事内で紹介されている「best in world music this year」であるワールドミュージック10地域10アーティスト。(ジャンル名は自分で適当に追記。)

  1. ジャマイカ : Vybz Kartel (ダンスホールレゲエ)
  2. 日本 : Perfume
  3. イタリア : Jovanotti (イタリアン・ヒップホップ)
  4. コロンビア : Ondatropica (アフロ・コロンビア)
  5. ブラジル : Sexy Fi (音響系インディーロック)
  6. マリ: Fatoumata Diawara (アーバン・アフロポップ)
  7. サハラ砂漠 : Tinariwen (アフリカン・ブルース)
  8. ポーランド : Warsaw Village Band (ポーランド伝統系ミクスチャーバンド)
  9. コンゴ : Baloji (アフロ・ヒップホップ)
  10. チリ : Alex Anwandter (ポップス)


渋谷宮益坂ワールドミュージック専門店エル・スール・レコーズ的な並びの中に、日本のPerfumeが。アメリカを中心とした世界では、日本も辺境だ。この中にPerfumeが納まっていることをとても嬉しく思う。

Japan: Perfume


Ever since Psy's irresistible hit “Gangnam Style” went from viral to platinum, all eyes have been on the East and the mesmerizing sounds of K-pop. If you head a little further east, though, you will reach the land of J-pop - Japan's alluring addition to the pop music spectrum. Though the techno-pop girl trio Perfume started out as a traditional J-Pop group in 2000 with adorably synchronized dance routines and photo-op ready looks, they have evolved into the technologically driven pop group of William Gibson's dreams, incorporating wild graphics, 3D technology and fully interactive CG into their shows. Universal Music Group signed the group earlier this year, and Perfume is about to kick off their first ever world tour. While you should certainly see Perfume in concert, beware: Bieber Fever has nothing on Perfume's legions of obsessed fans.


Listen: “Fake It”


短い内容なのでざっと訳しておく。

PSY「江南スタイル」の驚くべきヒットがヴァイラルマーケティングから本物になって以来、人々の目は東方へ、魅了するK-POPサウンドに注目が集まった。さらに少し東へ進めば、日本によるポップミュージックの魅惑的な拡張領域、つまりJ-POPに辿りつくだろう。


三人組テクノポップガールPerfumeは、惚れ惚れするシンクロダンスと写真写り良好のルックスを備え、伝統的J-POPグループとして2000年に結成されたが、大胆なグラフィックアート、3Dテクノロジー、完全にインタラクティヴなCGを彼女達のライブに取り込むことによって、ウィリアム・ギブスンが夢描くテクノロジー主導のポップグループへと進化した。


ユニバーサルミュージックは今年初めに彼女達と契約し、まさに今彼女達にとって初めてのワールドツアーが始まるところだ。Perfumeのライブを観たら確実に目撃するであろう、Perfumeに取りつかれたファン集団に注意せよ。彼らの前にはジャスティン・ビーバーへの熱狂など無に等しい。


これを聴け:「FAKE IT」

やはり気になるのは「technologically driven pop group of William Gibson's dreams」の部分。日本のカルチャー、そしてPerfumeを語る上で、海外の目がウィリアム・ギブスンの名前を出してくるとなると、反応せざるを得ない。Perfumeのメジャーデビュー期において、サウンドからヴィジュアルまで、コンセプチャルな「SF」が完璧な形で提示された、「リニアモーターガール」「コンピューターシティ」「エレクトロ・ワールド」の所謂「近未来三部作」。エレクトロサウンド×少女×SF、このどこまでも完璧なSFワールドは、ブレイク以降はその影を薄め、「Dream Fighter」や「ワンルーム・ディスコ」といった女性の等身大ソングへと転換してゆく。一時期放棄されたSFコンセプトは、真鍋大度氏のPerfumeプロジェクトへの参画と、ユニバーサル移籍を切っ掛けに、サウンドよりもビジュアルにおいて再び積極的なアピールを始め、SFファンにとっては非常に嬉しい傾向にある。


一般的なPerfumeファンに向けて、そもそも「ウィリアム・ギブスン」が何者なのかを一応説明する必要があるのかもしれない。ギブスンは1984年の著作「ニューロマンサー」で「サイバーパンク」と呼ばれるSFジャンルを確立したSF作家だ。「2001年宇宙の旅」のような科学の世界を描く古典的ハードSF、或いは「スターウォーズ」の様な宇宙活劇ファンタジー、それらに真っ向からカウンターとして存在する「サイバーパンク」。電脳空間、退廃社会、大規模建造物を基底にした世界観で、それらに強く影響を受けた作品では、「マトリックス」「攻殻機動隊」が代表的なところだろう。そもそも「サイバースペース」がギブスンの造語で、その翻訳時に日本で作られた造語が「電脳空間」だ。


サイバーパンクの神様は、「Idoru(あいどる)」という作品で、ホログラムで描かれ、合成音声で歌う、人工知能を持つヴァーチャルアイドルを描いている。勿論その舞台は日本だ。そして今日本にはクラウドベースで進化し続けるヴァーチャルアイドル初音ミクがいる。 *1 TIME誌の記事でも、Perfumeがホログラムを使用したライブ「氷結SUMMER NIGHT」の動画が紹介されている。海外から、Perfumeがギブスンの世界を体現する(という印象を想起させる)アイドルとして解釈されているという事は、SFファンにとって非常に意義深い。




海外からもPerfumeのSF的な部分が評価されているようではあるが、真鍋大度氏をトリガーにしてSF度を高めていくPerfumeのヴィジュアルに対して、近年中田ヤスタカの作るPerfumeサウンドは等身大の女の子の表現をあまり外そうとはしていない。個人的には、近未来三部作のように極端な形でなくとも、SF的な要素をPerfumeに取り戻してほしいと思っている。例えば、「セラミックガール」は、如何にもSF的な世界観こそ纏ってはいないが、「人工の夢」と「柔らかできれいな言葉たちを並べる穏やかで優しい人」で構成された「夢いっぱい」の「新しい世界」を描いている。そしてこの主人公の女の子はそんな世界に対して「何か違和感に気が付いた」のだ。管理社会、作られたユートピアにおける個人の自我というテーマはSFでよく描かれる風景でもあるが、SFファンなら、この歌詞がオルダス・ハクスリー「すばらしい新世界」の引用なのだと気付くことだろう。レイ・ブラッドベリ華氏451度」、ジョージ・オーウェル「1984年」らと比較されるこの1932年に書かれたアンチユートピア小説の原題は、「セラミックガール」の歌詞にも登場する、「Brave New World」だ。





ニューロマンサー (ハヤカワ文庫SF)

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すばらしい新世界 (講談社文庫)

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Perfume Global Compilation LOVE THE WORLD

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