Aerodynamik - 航空力学

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観覧記録 electraglide 2012@幕張メッセ

http://www.electraglide.info/



冬のテクノ祭り「エレグラ」といえば、冷え切ったコンクリ床に散乱するペットボトル、動線に大量の死体、長蛇のトイレ列、守られない煙草マナー。ダンス系イベントの中でも運営/客共に洗練されなさが目に付くフェスだ。それでも妙に愛されているのは、やはりUKの大御所ダンスアクトがまとめて観られる貴重な機会だからだろう。そういえば、過疎も甚だしい2chのテクノ板エレグラスレッドに、こんな書き込みがあった。

WOMB ADVENTURE : リア充
SonarSound : スノッブ
WIRE : キモオタ
electraglide老害
BIG BEACH FESTIVALDQN
渚音楽祭 : ラリパッパ


なかなかにいい感じ。どうせ書くならもう一つ、「METAMORPHOSE」も入れてほしかった。エレグラは主にイギリスを中心としたテクノ系ビッグネームを呼んできたのだが、毎回面子の核となるWarp RecordsNinja Tuneも、もう20年以上も続いている。あまりに早いクラブシーンの音の移り変わりからすれば、レーベルが存続していること自体が奇跡のようだ。


アメリカメジャーシーンではEDMがブームとなり、アイドル楽曲にまでその波は及んでいるが、どうせ乙女ハウス、ピアノハウスや「House Nation」のように、表面的に馬鹿騒ぎしているうちにその中身の無さに飽きられていくだろうし、静かに嵐が過ぎるのを待とう、と、そんな悠長なことを言ってもいられない。青春時代にセカンドサマーオブラブやレイヴの洗礼を受けた世代はもう皆アラフォーだ。シーン自体が閉塞していってしまう。エレグラ電気グルーヴが出演すると聞いてとても驚いたが、アラフォーの為の集客装置としてはこれが必要な選択だったのだろう。


実際の話、確かに観客のほとんどはアラフォー近い、自分と同世代のおっさんだったけれども、くそチャライEXILEワナビーみたいなガラの悪い若輩も結構いたように思う。Orbitalが「Belfast」という屈指の美しい朝焼け曲を演奏している時に、自分の目の前ではビール瓶を片手にしたEXILEワナビーによって、しつこくしつこくナンパが行われていた。アイス屋の前をふらふらしていると、やはりビール瓶を片手にした別のEXILEワナビーが、飲み終えたビール瓶を突然頭の上から後ろに放り投げて行った。当然コンクリートの床の上で瓶は盛大に割れ、破片が通路一面に飛び散った。何てことだ。往年のテクノ老害エレグラでは見ないタイプの酷い光景だ。この手の老害系ダンスフェスなのに、客層がこれまで以上に最悪、という事は、日本におけるテクノが、ようやくナードのための音楽でなくなったということ、よく言われる「バカに見つかった」ということなのだろう。アメリカのメジャーシーンでEDMがヒットする時代なのだから、ある意味においてはダンスシーンの拡大/活性化を歓迎すべきなのかもしれない。そう思わなければ、目の前で繰り広げられる状況を素直には受け入れられなかった。



Kode 9

まだ早い時間だがダブステップからドラムンベース、ジュークまでがんがん上げる。四つ打ちテクノではなく、ダブステップやベース系サウンドがフェスのラインナップの中心となったことに、時代の変遷を噛み締めながら、体を温める。


Rustie - City Star



Amon Tobin

今回の最大の目玉となる「ISAM」Live。そう、今回のフェスは圧倒的にヴィジュアルに力点を置いたアクトが多かった。「ひたすら音で踊らせる」というより、「斬新なヴィジュアルアートに音が付いている」様なアクトが今の気分なのかもしれない。一晩過ごして、結果的に目で見る驚きは多かったけれど、まるで踊り足りないという事になった。


今回のISAM Liveは、流石に巨大なセットを全部空輸することができず、本国の2/3幅のセットだったらしい。幕が開いた時は確かに「あれ、こんなに小さいのか?」と不思議に思ったが、そんなことはどうでもよくなるほど、自分の知っているプロジェクションマッピングを遥かに超える凄い代物だった。凶暴なほどの情報量と配管とSFとロマンと諧謔。Qeticのレポートにあった「ぼくのかんがえた『2012年未来世紀ブラジルの旅』」という表現はツボを得ていると思う。また、物体に合わせて映像を投射すればなんでもプロジェクションマッピングになるわけではなく、スクリーンが平面で無く立方体の積層であることに意義があるというか、平面と立体のバランスが度々その力関係を拮抗し織りなす、あの平衡感覚を狂わせつつも形に嵌る凄さと快感はそんなに簡単に体験できるものではない。Perfumeも「JPNスペシャル」でプロジェクションマッピングに挑戦してみせたし、あちらこちらでこの手のものを観ることができるようになったが、ここで観た可能性はそれの遥か先を行くものだった。


残念な事に、この繊細な光のショーが繰り広げられる中、輝度も下げずに明るい携帯を前にかざしてずっとムービーを撮ってる奴が多すぎた。これが視界の隅に入るだけでどれだけ残念な気分になったか。


Amon Tobin 'ISAM' Live



電気グルーヴ

別にこの機会に観なくてもいいんじゃないかと思ったが、この夏のWIREでも観なかったので今どんなことをやっているのかを確認。2009年「叫び始まり 爆発終わり」の時は少しストイックな空気になっていたと思ったけれど、レイブっぽいアレンジもありつつのズンドコディスコな四つ打ち、面白い瀧、「恋の呪文はスキトキメキトキス」のサンプリングループなど、相変わらずの祭り感、「いかにも電気」に戻っていた。

  1. ハロー!ミスターモンキーマジックオーケストラ
  2. Shame
  3. Shameful
  4. ガリガリ君
  5. FLASH BACK DISCO
  6. スコーピオ
  7. シャングリラ
  8. 誰だ!

Squarepusher

馬鹿でかい背後のスクリーンと、Tom本人の頭に付けたLEDが音と同期する、リアルタイムに描画されているであろうモノトーンの光の渦は相当かっこいい。「Ufabulum」メインではあったが、がっつり踊るというよりも、圧倒的な光のショーを見るというステージだった。ぎゃんぎゃんノイズとドリルンベースが鳴り響く中で唖然と立ち尽くしてしまうあの感じは嫌いじゃない。


Squarepusher live in Gdansk (2012)



TNGHT(Hudson Mohawke x Lunice)

最初からジュークで飛ばしていたけれど、散々迷ってOrbitalへ。


TNGHT - Higher Ground (Hudson Mohawke x Lunice)



Orbital

昨年観たのが「ORBITAL SOUNDSYSTEM」、つまりDJだったので、ライブを観たくてHudson Mohawkeから移動。ダブステップなども取り入れつつも、アナログシンセ感漂う古き良きテクノの良心なアクト。とはいえども、流石に今の時代には過剰なほどのメロディアスでトランシーなサウンド、情けないほどダサいVJのセンスも含めて、正直古くせえなあと思いつつ、「Belfast」「Halcyon」といった抒情的な曲から「Chime」までしっかり観てしまったし、最新作からの「Wonky」の上がり方は相当面白かった。これはPVもいいな。


Orbital - Wonky



Flying Lotus

DJブースの前面と背後をスクリーンで挟んだ3Dショー、「Layer 3」スタイル。やはりダンスよりもヴィジュアルへの挑戦に力点が。そもそもどのアクトも、単にスクリーンと音が同期されている、という一昔前の感覚から一歩先に進んだものを提示してきている。これは大規模フェスじゃないとなかなかまとめては観れないものだなあ。


Flying Lotus' NEW Stage Set Up - 3D Live Show



Andrew Weatherall

結果的に今回観た唯一の四つ打ち中心アクトになった。BPM125と遅めのミニマルでスモーキーでオールドスクールな渋いエレクトロハウスミックスが響く、朝方の人も少なくがらんとしたホール11の雰囲気が好きだ。このアシッドをくぐり抜けて来た世代の渋いプレイをかしゆかに聴かせたい。前回のエレグラのウェザーオールの時も同じ事を思っていた。


Robin C & Omar V - Complete (Skatebard RMX)

Christian S. - The Power Of Now (Original Mix)

Alden Tyrell ft Mike Dunn - Touch The Sky (Original)

Guillaume And The Coutu Dumonts - Discotheque



MARK PRITCHARD b2b TOM MIDDLETON


朝方にGlobal Communicationの二人がB2Bすると言っても、アンビエントになる訳がない。Africa HitechやHarmonic 313名義での、ダブステップドラムンベースというよりジャングル、そしてジュークでガラガラのフロアを痙攣させる。アラフォーダンサー達も頑張って踊る。ダンスが型にはまらず思い思いに痙攣しているのを見ると嬉しくなる。


Blu Mar Ten - Whisper (Feat. Kirsty Hawkshaw)




相変わらず会場は真っ暗で、ゴミ箱も殆どない上に暗すぎて見えず、結果一面捨てられたペットボトルと空き缶の海、いわゆるゴミグラというげんなりする風景が広がったが、今回は遂にトイレの数が増え、悲惨な行列はあまり見かけなかった。



真鍋大度

ところで、このフェスのベストアクトは、実は真鍋大度氏、Rhizomatiksな人達によるヴィジュアル演出だったのかもしれない。狂ったように高速で動作し続ける二台のロボットアームから放たれるレーザーが、各所に取り付けられた100枚の反射板を介して幕張メッセの広大な空間を飛び交っている様は、ダンスよりもヴィジュアルに重きが置かれた今回のフェスの中で、突出して「テクノ的」な演出だった。


pulse ver2 at electraglide2012 (Daito Manabe + Motoi Ishibashi)





バーに置かれたドリンクメニューを映し出すiPadは、画面を覗きこむ客の顔を勝手にカメラに収めて壁一面に映し出したり、Perfume Global siteでも行われたようなTwiterのハッシュタグ付きツイートを壁に投射するなど、かつてThe Designers Republicやtomatoなどが参加した時の静的インスタレーションとは全く異なる、動的でリアルタイムで少しふざけた趣向が凝らされていた。Perfumeファンという事で贔屓目に見てしまうとしても、電子音ダンスフェスの演出として非常に面白いものだったと思う。