観覧記録 コトリンゴ「白いツバメの探しものライブ」@原宿Vacant
コトリンゴの2012年リリースのミニアルバム「La memoire de mon bandwagon」の感想として、先日こんなことを書いた。 *1
バークリー出身の才能の固まりが、こじんまりとした小さな宅録夢世界から、バンドサウンドを得て外向きの表現をモノにした、というのが前作。今作では、カバーアルバムを通して信頼関係を築き上げたバンドメンバーを手足のように使って、再び彼女の内的世界をバンドと共に描き出した意欲作。この序章に対する本編としてリリースされた最新アルバムは、消化するのに少し時間がかかりそうだ。
で、その今年1月にリリースされたばかりの最新アルバム「ツバメ・ノヴェレッテ」は、相も変わらず消化できていない。ここのところ、主なリスニング環境が通勤の行き帰りの地下鉄車内、そういう状況でこの手の内省的な音楽を受け止めること自体が無理な話だ。音楽と向き合う時間の確保が必要なのだけれど、それにしては心身の余裕が無いというか、神経の疲れが収まらない。気分が合うまで待てばいい、急ぐことも無いだろう、と思っていたのだが。
コトリンゴ「ツバメ・ノヴェレッテ」発売記念 ミニライヴ&サイン会
一足先に行われたアルバムプロモーションのインストアライブ。ピアノソロ。「新しい曲をやります…けれど古い曲をやります、新しい曲はライブでどうぞ。」の様な妙な間合いで新旧織り交ぜた選曲。新しいアルバムの楽曲は「ベース村田シゲ&ドラム神谷洵平とのトリオ」でこそ成り立つという気持ちがあるのだろう。
最後の「Minoru」で観客にコーラスと手拍子を要求。曲後半の展開が印象的なこのアルバム収録曲は、昨年の3月、つまりCDが発売される10ヶ月前にライブで初披露され、ファンにとっては完全に初披露であるにも拘らず、ごくごく自然に未知のコーラスと手拍子を要求されて、会場中に動揺を招いた、あの曲だ。バークリー在学中にピアノの家庭教師をしていたコトリンゴらしく、彼女のライブでは必ずコトリンゴ先生と観客との合唱などの掛け合いのコーナーが設けられている。これまでの掛け合いの定番曲は「Tiey Tiey Tea」のような、比較的単純な掛け合いだったのだが、今回はリズムもメロディーも少々複雑で、観客全員にそれを求めるにはややハードルが高く、観客の若干の困惑ぶりも含めて何とも微笑ましいというか、控えめで大人しいコトリンゴリスナー達の良心が見えるという、ライブ現場でしか味わえないくすぐったいシーンだった。
- おいでよ
- かいじゅう
- テイラー兄弟
- こんにちは またあした
- Minoru
コトリンゴ「白いツバメの探しものライブ」@原宿Vacant
- 20130209 コトリンゴ「白いツバメの探しものライブ」@原宿Vacant
アルバムのバンド形式でのお披露目ライブはVacantで。木目そのままの暖かい空間と、吊るされた多数の白熱電球だけなのにとても幻想的でロマンティックな空間を作る照明、床に座布団座りと、コトリンゴの雰囲気によく合った箱だと思う。とはいえ、ライブスペースというよりイベントスペースなので、音響的な事についてはちょっとあれな所があり、普段は会場を横に使ってバンドを囲むように見守るライブが、今回縦に会場を使っただけでちょっときついものがあった。次回はまた横でお願いします。
バンドサウンドと共にこれまでより複雑でより繊細、内省的な世界を描いたということもあり、コトリンゴ自身も感傷的で精神的に不安定なのが見て取れる。これまでのライブとは違って、観客と演者の間合いを探り探りで演奏し、度々感極まってしまったり、MCも話そうとしたことを途中で止めたり、会話の流れを無視していきなり演奏に入ろうとして村田シゲに突っ込まれること多数。まあこの手の突っ込みはコトリンゴライブではよくある事なのだが、今回ばかりは奥歯にものが挟まったような、と陳腐な表現をしたくなる程、何かはっきりしない感情を抱えているようで、単なる癒され気分ではなく、繊細で壊れやすいガラス細工を静かに鑑賞するような、そんな気分でのライブ体験だった。
(今考えると、公演がUstream配信されていたのも、プライベートな距離感に拘る彼女への余計な感情への負荷になっていた様な気もする。尤もこればかりは地方のファンの方達にとって大切な機会でもあるのでこれについての是非を論じるのは無粋だろう。)
「テーラー兄弟」では、アルバムと同様にビューティフルハミングバード小池光子が登場。明るく優しく頼れるタフな女性がステージに立って空気を入れ替えてくれ、少しほっとした。
「Let me awake」では観客に手拍子を、そして新定番「minoru」ではコーラスと手拍子を求められる。どちらもやや難易度高め。「Let me awake」演奏後、ライブが始まってまだ2曲目だというのに突然泣き出しそうになるコトリンゴに、「おいおいみんな難しい手拍子に付き合わされてた挙句に主催者号泣かよ」、「minoru」では先導するメロディーと観客が歌うメロディーが異なるため「何様だよしっかりしてくれよ、みんなも歌いながらCDと違うなーみたいな、あれあれーて感じにもなるじゃん」と村田シゲの猛突っ込みが入り、不安定な場を笑いに変えていた。コトリンゴのライブにおける村田シゲの頼もしさたるや。神谷洵平が口数の少ない職人気質なので、村田シゲは、その演奏以上に、その場の雰囲気作りと、フワフワして安定しないコトリンゴを安定させて面白さとリラックスを引き出す優しさとトークセンスに対しての信頼という意味でも彼女のサポートメンバーとして欠かせない人だ。
コトリンゴは色々な人に向けての個人的なメッセージを込めた曲を書くが、それはその相手にも誰にも伝えず心にしまっておくらしい。そういう前提で見れば、「ツバメの旅」をテーマにしたコンセプトアルバムで、渡り鳥が南に移動せずそのまま雪に埋もれようとしてゆく、ある人の幸せを思いながら、というとても異様な曲である「冬を待つうた」は、ある人に向けたメッセージソングであろうし、その分彼女自身の思い入れもとても強いのだろう。曲の後半では「駄目だわたし…」と再び涙を零し始め、歌う事ができなくなっていた。
ライブは全編に渡って今のコトリンゴが置かれているであろう状況、内省的で繊細な部分をそのまま映し出したものになり、つまりそれはアルバムと同様のものだった。こうなる予感はあったし、聴く側として、ファンとして、もう少し自分にも事前に儚く脆いものを大切に受け入れるだけのスペースを気持ちの中に確保しておきたかった。
- Preamble
- Let me awake
- minoru
- ツバメがとぶ歌
- Butterfly
- かいじゅう
- Interlude 〜Raiiny Day〜
- テーラー兄弟
- dance
- Prologue
- Today is yours
- 冬を待つうた
- Lost shoes
- EN
- Epilogue 〜Where'd the tsubame go?〜
- maiden voyage
- Ghost Dance