観覧記録 DJ Alfredo／Jaime Fiorito「The Heritage Project Japan Tour 2013」＠青山CAY

20130503 Cosmopolitan Dance Presents DJ Alfredo x The Heritage Project Japan Tour 2013＠青山CAY
- DJ Alfredo
- Jaime Fiorito
- The Heritage Project
- Moodman
- 1Drink
- DJ Nozaki

軍事独裁政権、ひたすら繰り返されるクーデターとテロ、戦後の流れだけ見てもアルゼンチンの政治と経済は疲弊しきっていた。1976年に何度目かの軍事クーデターが起こり、かの「汚い戦争」が始まる。ロックイベントのプロモーターであり音楽評論家であったAlfredoは新世代への見せしめとして投獄され、その後地中海のリゾート地でありヒッピーの聖地でもあるバレアレス諸島イビザへ亡命する。1984年に彼はあの伝説の野外クラブAmnesiaのレジデントDJとなり、そこに根付いたダンスカルチャーとジャンルレスなプレイスタイルは「バレアレス諸島スタイル」、つまり「バレアリック」と呼ばれるようになる。
今自分が知っているような、ダンスカルチャーにとって特別なユートピアとして捉えられるイビザシーンは、欧州から逃げ出してきたヒッピー達や、Alfredoのように地獄から亡命してきた人達、そういう「文化的な難民」によって築かれたが故の、楽園幻想と快楽性に支えられた天国のような場所だ。この天国のダンスカルチャーとジャンルレスなDJスタイルを80年代後半にPaul OakenfoldやNicky Holloway、Trevor FungといったイギリスのDJがロンドンに持ち帰り、セカンドサマーオブラブの着火剤となったのだから、音楽はジャンルレスに何でも聴かなきゃいけないなあという敬虔な気持ちにもなる。

イビザの生き証人Alfredoは60歳、イビザ生まれの息子Jaimeと来日。会場はいつもと異なりディスコティックなデコレーションと照明を入れており、迎える側の気合も伺えるが、デイタイムのプレイと場所柄のせいか、客層はいかにもなダンスミュージックラバーというより随分と体温の低そうな洗練されたお洒落さんだらけ。この人達は全員アップルユーザっぽいなとか適当な事を考えていたら、高城剛とすれ違った。なんだか「ハイパーメディアクリエイター」とか沢尻エリカとかでよく分からない騒がれ方をしたけれど、イビザ島に入り浸る日本人と言ったら高城剛というベタすぎる展開にひとしきり笑った。ピークタイムにはDJブースの前がいつの間にか飛び抜けてお洒落で可愛い女の子だけ集まって踊るスペースになっていたり、色々とアレな感じで、それはそれで面白かった。

プレイ自体はディスコからレゲエ／ダブやロックなどジャンルレスのバレアリックスタイル…ではなく、ハウスクラシック中心で、期待していたものとは違っていたが、気持ちのいい宇宙感のあるハウスクラシックの享楽的でピースフルな雰囲気は、まだ見ぬ楽園、それも、かの地のダンスカルチャーが90年代に完全に商業化してしまう前の楽園を重ねて思いを馳せるには十分だった。ラストにLil louis「French Kiss」をかけて、案の定フロアは動揺していたが、あれをネタものとしてではなくフロアに響かせる60歳のベテランの度量と貫禄。

Alison Limerick - Where Love Lives