Aerodynamik - 航空力学

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Perfume「Magic of Love」ウェブインタビューまとめ


「Magic of Love」について、先に個人的な感想を書いておくと、ダンスミュージックとしての衝動には欠けるものの、落ち着いたインテリジェンスな空気、そして間奏からのフュージョンテイストなコード使いと渋い盛り上がり方がとても好きだ。特に、間奏後半で、以前ヤスタカが好きだと言っていた、アナログ音源+PCMのハイブリッドであるLA音源の様な、アタックと倍音に硬い透明感のある独特の爽やかな音色が被さってくる瞬間がぞくっとくるのだけれど、現在公開されているYoutube公式動画は間奏まで辿りついていないので勿体無い。しかしそうは言っても、シングルとして切る上で欲しい所の、強引に世間を振り向かせるインパクトやキャッチーさを、きゃりーぱみゅぱみゅに預けてしまうには尚早すぎる。




Perfumeの新譜「Magic of Love」は、本当に全く売れていなかったインディーズから「ポリリズム」前の頃を除いて、つまりブレイク期以降の期間で、過去最低の売上を記録した。これはPerfumeが期限切れだ、飽きられたなどという話ではない。ライブ現場での圧倒的な動員力を見ても、体感的にそういう変化は全く感じられない。考えられる理由は一つ、奇しくも先日小西康晴Negiccoに提供した「アイドルばかり聴かないで」で歌われたように、「普通の人はCDなんかもう買わなくなった」ということだ。
(なおこの「アイドルばかり聴かないで」は、CD小売大手のタワーレコード内のレーベルからのリリースで、シニカルなユーモアでは済まされないギリギリのラインをネタにする諧謔的な音楽愛に満ちている。)


世界的な傾向としてCDは全く売れなくなった。再販制度など存在しない海外ではウォルマートによってパッケージビジネスが崩壊し、その後もiTunes型の配信購入スタイルから更にSpotifyやRdio、Rhapsodyなどのサブスクリプション型ストリーミングサービスへ急速に移行している。一方でそういうものが今一普及しない日本のCD生産枚数はここ数年ほんの少し回復基調にあるが、オリコンのデータを少しでも見てみれば分かるように、握手券またはイベント参加券、あるいはカップリング曲違いの複数バージョンリリースでもなければ、曲の力だけでは売上などかさ増しすることはできない。

Perfumeの固定ファンはリリース週に初回盤を買う。一方で、オリコンとは違って初回盤と通常盤を別々にカウントするサウンドスキャンのデータを見ると、Perfume「Magic of Love」の通常盤は10位圏外にまで落ち込んでいる。初回盤だけが売れ、通常盤が売れていないという事の意味とは。ユニバーサルに身を置きながら、Amuseの指針であろうか、愚直で「誠実」なリリース体系を続けているPerfumeがCD売上をこの環境下で伸ばそうとすれば、普段PerfumeのCDを買わない層に買わせるしかない。しかし、「普通の人はCDなんかもう買わなくなった」のだ。世の中が「総選挙」で湧いた、その投票券が付けられたCDと同日の発売の中で、「Magic of Love」が初動で66,094枚も売れている方が、本当は不思議な話なのかもしれない。



Perfumeの三人が、このリリースに際しての各種媒体のインタビューで、「Magic of Love」を「王道」と評しているが、それはインテリジェンスすら感じさせる良質なエレポップ、というテイストの裏に、「普通の人」層へ対するインパクトの欠如を、彼女達なりの立場の言葉で表現したニュアンスが含まれているようにも思える。よくよく考えてみれば、世間一般におけるPerfume楽曲のイメージとしての「王道」とは、いまだに「ポリリズム」と「チョコレイト・ディスコ」から更新されていない。この二曲が本来の意味での「普通の人」層にとっての「Perfumeの王道」だろう。単曲としての良し悪しは別として、シングル曲としての「Magic of Love」はそのイメージを更新するほどのインパクトは全く持ち得ていない。そして「普通の人」はもうCDを買わない。「普通の人」にとって、この春のPerfumeアンセムは「Magic of Love」ではなく、観る人全てに強烈なインパクトを残した「虫コナーズテクノ」だった。


2種 キンチョー CM 金鳥 虫コナーズ 「テクノ」篇 / プレート&リキッドタイプ




Perfumeの活動、特に真鍋大度氏の参画以降の活動は、Perfumeが忘れかけていた「先進性」と「斬新さ」を取り戻させ、ヴィジュアルやメディアアートの先鋭性はその手の評価機関やアート界で高く評価される一方で、いわゆる世間一般が「アーティスト活動」と呼ぶような、「CDを売ってテレビで歌ってライブをやる」という側面を通したアピールは、固定ファン以外の「普通の人」達を巻き込むインパクトを失っているように見える。「先進性」と「斬新さ」が世間に届く様な仕掛け施策自体が欠けてしまっており、それを世の中に補完しているのが、Perfumeのパブリックイメージを見事に抽出しパロディー化してみせた「虫コナーズテクノ」。この歯痒さは何だ。


Perfume Global*1 で昨日公開された「Perfume GLOBAL SITE PROJECT #003」は、これまでと同様にフリーで使用できるPerfumeの3Dモデリングデータに対して、ウェブサイト上のペイントツールでお絵描きできる、というレベルを遥かに超えて、独自の言語「Prfm Programming Language」によりウェブサイト上で描画をプログラミングすることができ(独自のコードエディタとは別に、グラフィカルアイコンで視覚的に組んだものをコードへ変換可能なUIまで実装している)、さらにウェブ上でプログラミングされたその「作品」と「ソースコード」そのものは、SNS経由でオープンに他ユーザと共有される。プログラミングが分からないユーザーは、他人の書いたコードをサンプルにして手を加える事で独自のコーディングが可能なのだ。商業音楽メディアのコピーライトの壁を、崇高なオープンソース思想で自らが打ち壊す、過去のプロジェクトよりもコンセプト的に更に先を行く、過激な表現に突き進んでいる。
Perfume GLOBAL SITE」は、第16回文化庁メディア芸術祭「エンターテインメント部門」の大賞を受賞するに留まらず、*2 先日メディアアートの世界最高権威である「アルス・エレクトロニカ」にて「インタラクティヴアート部門 」栄誉賞を受賞し、*3 今月開催される世界最大の広告賞である「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(旧カンヌ国際広告祭)」にはPerfumeが日本人アーティストとして初めてゲスト招待されることになった。*4 06/20にはカンヌライオンズにて「ハッピー・ハッキング:ブランド、エージェンシー、消費者、クリエーターの領域を超えた『共創』」をテーマにしたセミナーが行われ、真鍋大度氏によるPerfumeメディアアートをテーマとしたプレゼンテーションと、Perfumeのゲスト出演が予定されている。「Perfume GLOBAL SITE」で、いわゆる「プロフィールやディスコグラフィーが掲載された公式サイトの英訳版」ではなく、「Perfumeを媒体としたメディアアートの実験場」としてここまで面白い試みが行われていることは、果たしてメディアアートの世界権威ではなく、国内の世間に伝わっているのだろうか。


そして、「WORLD TOUR 2nd」としてのケルン/ロンドン/パリ欧州ツアーと、海外大規模ダンスフェス「UMF」の韓国開催版への出演が目の前に迫っている。「UMF」では、これまでのPerfumeとは異なる「ダンスミュージック仕様」でのライブを行う事を大本さんが明言している。紅白出場回数5回の、お茶の間でも安心なNHK推奨ユニットが、こんな面白いことに挑戦しようとしていることが、果たして世間に伝わっているのだろうか。



いや、CDすら買わない「普通の人」相手に今更何かをアピールするコストを消費する意味などない、全力でアイドル/J-POPがこれまで歩いてこなかった道無き道を突っ走れ、「もう24歳、覚悟を決めた」と先日のライブで西脇さんが言っていたように、ダンスフェスや欧州ツアーにまで切り込んでいく、それこそがPerfumeのクリエイティビティだ、と信じているし、自分としてはそうあってほしい。サウンドも、ダンスも、ビジュアルも、メディアアートとしての展開も、全てがオリジナリティに満ちた斬新な存在であり続けるPerfumeが好きだ。
しかし、圧倒的なオリジナリティが、アイドルやエレクトロなどに全く興味の無かった「普通の人」達すらをも強引に動かし、驚かせ、引き込んできたのがかつてのPerfumeであったし、その人達に何故今のPerfumeの面白さが届かないのか。この歯痒さは何だ。いや、CDの売上だけを見て「普通の人にPerfumeの面白さが届いていない」と言うのも安直すぎる話だ。何しろ、「普通の人はCDなんかもう買わなくなった」のだから。ああ、これじゃあ堂々巡りだ。



Perfume(パフューム) - 「これぞPerfumeなド真ん中の曲」 - インタビュー exicite music

http://www.excite.co.jp/music/close_up/interview/1305_perfume/

−ダンスが軸の映像が映えるとてもダンサブルな曲ですよね。


の:久々にキタなぁという印象です。これぞPerfumeなド真ん中の曲。


−ピュレグミのCMともピッタリでした。


あ:いただいたキーワードが、魔法とか浮遊感だったんです。それが上手いこと反映されてて、さすが中田(ヤスタカ)さんと思いました。


か:現実味を帯びた歌詞が多くなってきてたんですけど、これは久々にフワッとしてますね。テンション低めのところから始まって、サビのキャッチーさへとグーンと高まっていくあの感じが好きです。


あ:歌うのが楽しくて、すごく気に入っています。

「フワッ」としているのも好きだ。浜崎あゆみ西野カナ、JUJUなどに続く系譜としての現在のMs.OOJAのような、「シンプルで強く共感できる『感情と体験の具象的な表現』」が同世代女性に好まれ支持を得られるのも当然だが、そういうものしか許容されない世界はつまらないだろう。140字を投げ合うコミュニケーションが世の中を支配すればするほど、直接的な表現が好まれ、隠喩暗喩は忌避される時代になっていくだろうけれど。



Perfume『新曲はPerfumePerfumeとして歌う曲……!?』 ORICON STYLE ミュージック

http://www.oricon.co.jp/music/interview/page/531/

−「Magic of Love」は、シングルのタイトル曲としては、久々のPerfumeの王道だと思いました。


の:タイトルの「〜of Love」っていうのも、なんだかPerfumeっぽいですよね(笑)。わたしもこの曲を聴いたとき、「まさにPerfumePerfumeとして歌う曲だな」っていうのを思いました。


−生声テイストが強いですね。みなさんそれぞれの歌の魅力が伝わってくるのもポイントです。


か:歌声がどんどんシンプルになってきていますよね。


の:そういえば、レコーディングのマイクが変わったじゃない?


あ:あっ変わった!


の:それ以降、分かりやすいよね?そんな気がする。


あ:マイクを変えてから、生声っぽい方向性が中田さんのなかでいい感じなのかな?


か:そうなのかも。


あ:マイクが変わったことによる変化は個々に感じていたと思うんですけど、それをいま初めてこの場で3人で分かち合いました(笑)

スピーカーの変化、マイクの変化。
永らくAutoTuneの象徴として語られてきた2001年のDaft Punkの2ndアルバム「Discovery」から12年、彼らの新作の「Random Access Memories」では、もうAutoTuneは使われていない。

−「もし恋の魔法が使えたら?」って想像している感じが、ファンタジーですよね。


あ:中田さんって、すごく映画を観られていて。そういうところが反映されているかもしれないですね。動画配信サービスに加入されてて。いろんな設定、情景、感情を、多分普段から研究されてるんだと思います。

「動画配信サービスに加入」



ナタリー - [Power Push] Perfume「Magic of Love」インタビュー

http://natalie.mu/music/pp/perfume05

−「Spending all my time」はすごくとがった方向に、「未来のミュージアム」はすごくキャッチーな方向に極端に振り切れていた印象でしたが、今回の「Magic of Love」はストレートにPerfumeらしい曲ですね。


の:まさにそうなんです。ひさしぶりにド直球なPerfumeっぽいシングルですよね。「ピュレグミ」のCMソングとしてテレビで流れたときにちゃんとPerfumeだってわかるような、かわいらしい元気な曲だなと思いました。


あ:CMで「グミを食べると、恋の魔法が叶っちゃうかも」みたいなのが決まってて、そういうお題の中でこんなに素敵な曲ができるんだなってビックリしました。メロディもすごくスッと入ってきましたし、レコーディングも特に問題なくスムーズにできました。


か:曲調は本当に王道ですよね。あと、ひさしぶりにふわっとした歌詞だなと思いました。具体的なことを歌ってるわけじゃなくて。


の:「恋の調味料」とか「キミの心はバタフライ」みたいな感じ、なんか懐かしい感じがありますよね。歌ったことあるような気がするというか(笑)。

盛り上がれればそれでいいというEDMのブームと、その反動としてのポップミュージックの再定義という潮流があって、70年代のシティポップや80年代のアーバンポップであったり、ニューディスコであったり、それらをスタンダードなポップスとして捉えて如何にダンスミュージックの中で咀嚼して面白くするか、単純なダンスミュージックのもう一つ上の発想が求められているタイミングが今だとすると(その一番明確な例が「Random Access Memories」だろうか)、「Spending all my time」から「Magic of Love」へ舵を戻した、しかも寧ろノスタルジックな要素を詰め込んできたのは興味深い。

−そしてこのツアーの間に、韓国で「ULTRA KOREA」への出演も決まってます。Perfumeのジャンルはダンスミュージックだと思いますけど、こういうイベントには出たことはなかったですよね。


の:そうなんですよ。「WIRE」に出てみたいとかなんとなく思ったことはあったんですけど、今まで機会もなかったですし。今回は、まったく新しいことに挑戦する気持ちです。前に私たちはよく「ロックフェスに出るアイドルなんて異色だ」みたいに言われてましたけど、「あ、そういうのがまだもう1個あったんだ」っていう感覚ですね。


−ダンスミュージックフェスなので、この日はお客さんが求めてくるものも普段とはちょっと違うかもしれませんね。


あ:それについてはやっぱり、出たことがないタイプのイベントだからみんなびびってます。スタッフさんが「曲は絶対止めないでどんどん続けたほうがいい」「アレンジもそういう人が乗ってくれるように変えたほうがいい」って言ってて、「私たちそのイベントもよく知らないから判断つかないし、中田さんに聞いたほうがいいんじゃないですか?」って話をしたんです。でも私は、スタッフさんのいうその形でやるのはいつものスタイルとは違いすぎるし、私たちが出る意味なくなるんじゃないかな、だったら中田さんが出ればいいって話になっちゃうんじゃないかなって思ってて。


−なるほど。


あ:それで中田さんに相談させてもらったら、「今回出演するのはパフォーマンスのステージだから、自分を見失わないようにマイスタイルを保ちつつライブをしたほうがいい。ただやっぱりクラブイベントなので、早い段階で曲が止まるとお客さんのテンションが上がらないから、気持ち長めに1ブロックを作ったほうがいいんじゃないか?」みたいにアドバイスしてくれたんです。それを聞いて、私たちが出てもいいんだって中田さんに言っていただけたような気がして、「あ、よかった。道が見えた」って思いました。すごくドキドキしてたんですけど、楽しめそうだなって今は感じてます。

ロキノンの作り上げたロキノンフェスという幻想と束縛を離れ、Perfumeは今自由になる。そんな瞬間が訪れるのだろうか。あれほど待ち望んだダンスミュージックとしてのPerfume、その姿は、サマソニ前夜祭のダンスミュージックフェス「SONICMANIA 2013」で体感することができるのだろうか。




Perfume 「Magic of Love」

Negicco / アイドルばかり聴かないで



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