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Aerodynamik - 航空力学

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観覧記録 武藤彩未 ファーストソロライブ「LIVE DNA1980」@渋谷O-EAST

music idol

http://natalie.mu/music/news/95401



初代生徒会長がさくら学院を卒業して1年4カ月。卒業後の三吉彩花はモデルとして活躍しCMでも目にするし、松井愛莉は「ゼクシィ」6代目CMガールだ。動きの見えなかった彼女がこれだけの時間をかけて取り組んでいたプロジェクトは、「80年代歌謡アイドルの再生」。今思えばアミューズの事だしNHKとの「あまちゃん」連動なども仕掛けにあったのかもしれないが、ビジネス的な仕掛けとと言ってしまうには、そのアミューズの取り組み様は余りにも本気過ぎるように見えた。アミューズならゴリ押しすらいくらでもできそうなのに彼女の露出の少なさといったら。


会場で限定発売された彼女の80年代歌謡アイドルのカバー集、2枚のCD、12インチサイズ。パッケージとして本当に素晴らしい、美しい。川口美保のテキスト、半沢健の写真、TYMOTEのアートワーク、全てが美しい。こんなにも可憐で、こんなにも繊細で、こんなにも大切に作られたことを伝えるキャンバスには、12cmではあまりにも小さい。手に取ることにこれほどの喜びを感じるパッケージには、本当に久しぶりに出会った気がする。このサイズで出す意味があるデザインとテキスト、編集、装丁、本当に美しい。
楽曲は本気で80年代をトレース、佐藤準船山基紀からマライア山木秀夫/パラシュート今剛、ミッチー長岡に島村英二、当時の楽曲制作陣を再びかき集めて当時演奏した本人が弾き直すレコーディング。ボーカルの定位からして今のスタイルとは全く違う。逆にマインド的に当時に忠実過ぎて新しい視点を発見できない位だ。ソロデビューにここまでの力の入れ様だが、この素晴らしいパッケージはこのライブ会場でしか売らないという。手に取ればわかるが、単にレア度を高めて話題性を、という類の作りではなく、そこに一つのメッセージがあるのだと受け取ることにする。





開演前の10分間、LAPTHOD和田一基が手掛けた80年代映像集エディットがスクリーンに。Youtubeで80年代の映像を次々と観ていくような演出のカットアップで、なめ猫の懐かしさに浸る世代のざわざわする感じ。
ステージには殆ど飾りも無く、「ダン池田とニューブリード」もいない、あの極端なドライアイスも無い、スクリーンの美しいタイポグラフィを基調とした極めてシンプルな演出で、80年代の過剰な煌びやかさとは対極の見せ方だったが、かえってそれが武藤彩未の現代におけるソロアイドルの孤高さを際だたせる。「素敵なラブリーボーイ」ではスクリーンにスクールメイツの衣装で踊る武藤彩未が映ったり、「涙のペーパームーン」ではセットの箱の上に座ったまま足をちょっとぱたぱたさせながら歌ったり、80年代歌謡アイドルスタイルを髣髴とさせる演出も少しはあったが、基本的にはスタイリッシュなほどのシンプルさが印象的だった。一曲一曲にオリジナル曲のタイトルとアイドルの名前がスクリーンに投影される。センス良くシンプルなLAPTHODの文字演出から、「ザ・ベストテン」のソラリー表示板を模した茶目っ気のあるものまで。


最初のMCで「待って待って、泣かせないで、ここはスタートだから。みんな、ただいま!」と武藤節。「ありがとう以上の感謝の言葉があればいいのに」とはアミューズの先輩西脇さんの言葉のようだ。拍子抜けしてしまう位に全くアレンジの変化の無い、真摯に80年代当時をトレースしたトラックをバックに、白いドレスとレインボーカラーのスカートで、終始一人80年代の歌謡アイドルを歌い続ける。今会える、今握手できるグループアイドルを見慣れてしまった時代に、テレビの歌番組と、映画館のスクリーンの中にだけ存在していたかつてのアイドルの距離感。そう、このライブには距離感があった。それはさくら学院が接触を持ち込まないグループ、とかそういう話ではなく、武藤彩未も「みんなに近づきたい!」といってステージ前方の見知った顔に近づいて手を振ったりしていたのだけれど、そこにいるという存在感の薄い、それこそ映画のスクリーンを見ているかのようで、それはこのライブが80年代再生プロジェクトだからという事前知識による先入観というより、自分の知っているかつてのアイドル像をただそこに重ね合わせていただけなのかもしれない。田舎住まいの子供には、東京のテレビの中のアイドルに会いに行くなんてとんでもないことだったから。


「私が憧れている人が大好きな曲です」と紹介して「青い珊瑚礁」。妙な言い回しに感じたが、多分このライブにアドリブはなさそうで、「私が憧れている人」とは松田聖子その人なのだろう。松田聖子のような特別な存在を別にすれば、武藤彩未は80年代歌謡アイドルの中に置いてもしっかりとした歌唱力があって、そしてきらきらしていた。しかし本当に楽曲は80年代トレースで、ストリングの大業さは今に無い感じだけれども、武藤彩未を使って最初から最後まできっちりそのまま同じことをカラオケでやるには余りにも面白みがないのではないか、今日は半分以上はベテランミュージシャンの生演奏の凄さを楽しみにしていたのに、などと不遜なことを想いつつ、CDに収録された8曲のカバーの最後は「セシル」。これまで曲中にメッセージを発しなかったスクリーンに、「人は大人になるたび弱くなるよね」という歌詞が大写しで投影される。ああこれはやばいやつだ。大人になって初めてその意味その味に改めて気付いて愕然とするやつだ。「人は大人になるたび弱くなるよね ふっと自信を失くして迷ってしまう だから友達以上の愛を捜すの 今夜私がそれになれればいいのに」。完全にヤバい。クセを付けないストレートな武藤彩未の声がまっすぐ心に刺さる。ああもう駄目だ。本当に弱くなった。自信も失った。「今夜私がそれになれればいいのに」、狙い過ぎの演出がどストライクに嵌ってしまう。ぼろぼろ泣き出す。なんてことだ。ああ、アイドルって凄い。



随分長く続いたアンコールを求める拍手。オープニングでは2013年から1980年に時が巻き戻されたが、スクリーンには再び同じように武藤彩未の成長を負ったスライドショーが今度は逆に流れていく。1980年から2013年へ再びカウントアップされ「1980年のDNAを今に繋ぐ」とメッセージが投影された後に現れた武藤彩未は、白いドレスから真っ赤な衣装に着替えていた。「彩りの夏」とスクリーンにタイトルが。80年代メロディーに、流麗なストリングス、細野シンセ、しかしリズム感とアレンジは2013年の物だ。何という事だ。本編の完全80年代トレースはこの1曲、この素晴らしい1曲に繋げるための壮大な前振りだった。




佐々木彩夏嗣永桃子の演じるアイドル像はサンプリング/オマージュ的なアイドルだが、武藤彩未は忠実な80年代トレースで手の届かない偶像たる80年代歌謡アイドルを演じると見せて、最後に「1980年のDNAを今に繋ぐ」と謳った。がちがちにコンセプト詰めのプロジェクトかもしれない。しかし、過去を繰り返して懐かしむだけに終わらない、そういう強固なビジョンの見える、隅々まで完璧に突き詰めて突き詰め上げて作られたものだけが湛える、端正でいてしかし異様な熱量を湛えたプロジェクトがここに始まった。




  1. 悲しみよこんにちは / 斉藤由貴
  2. チェリーブラッサム / 松田聖子
  3. 素敵なラブリーボーイ / 小泉今日子
    • MC
  4. 青い珊瑚礁 / 松田聖子
  5. 涙のペーパームーン / 石川秀美
  6. リ・ボ・ン / 堀ちえみ
    • MC
  7. スマイル・フォー・ミー / 河合奈保子
    • MC
  8. セシル / 浅香唯
    • EN
  9. 彩りの夏