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中田ヤスタカ(週アス読者)インタビュー@週刊アスキー 09年6月30日号

http://www.musicnet.co.jp/whatsin/


※指摘がありましたので書き直しました


「え、それってどういうこと?」第84回、中田ヤスタカ×高城剛。切り口が面白く、なかなか他では語られないことも出てきているのは、さすが憧れのハイパーメディアクリエイター。いやいやネットが普及する前までは本当に面白い人だったんだから。最近の方向性はよく分からないけれど。



PCのルーツ

高:中田さんが、はじめにコンピューターをお買いになったのは?
中:自分で買ったのは、Power Macの7000シリーズ辺りですね。
高:何歳くらい?
中:音楽用と動画編集用で、ビデオ入力が付いているもので。それ以前は実家のNECのPC98を使ってました。打ち込みをしたり。後はハードウェアでシーケンサーを使ったり。


中:ピアノから宅録に行き、それから打ち込みに行き、さらにサンプラーとか色々機材を増やしていって、今はほとんどソフトでやってる感じです。だから、わりと全部の道を通ってる。そういうのも、僕あたりがたぶん最後の世代だと思いますね。

ヤスタカのCubase前の環境変遷は、こんな感じ。
ピアノ→ピンポン→PC98(Recomposer)→QY300→QY700→Power Mac(Performer)*1


ちょっと前の世代だと、ピアノを習っていてキーボードが弾けるシンセ手弾多重録音派、「ミュージ郎」などのパッケージから派、そういうものをすっ飛ばしてターンテーブルサンプラーの組み合わせから入るAKAI派などが主流だったけれども、今は皆PCでDAW使うところから始まってしまう。スタートラインも環境もほぼ同じところから、そうなると、後は同じツールを使ってどれだけ個性を出せるのかという競争になってしまう。これまで考えられなかったような録音方法で斬新な音を出すという、「革命」は起こりにくくなって行くのかなあという不安感は拭えない。


先日坂本龍一の80年代ラジオでのデモテープ特集を聴き直していた。当時サンプラーは高価で高校生に手の届くものではなかったから、あるデモテープの送り主は、いわゆるArt of Noise的なオケヒットの一音を出すために、ステレオからクラシックのレコードを流した物の丁度いいところをテープレコーダ付属のマイク経由で録音し、それを50回繰り返してオケヒットだけのテープを作り、自分の楽曲を流しながら、オケヒットを出したいところでテープレコーダーの再生/ポーズボタンをタイミングよく押し続け、その音をマイクで拾って一つの曲にしていた。そういう困難を経る事で得られるアイディアというのも、今後も大切にしていきたい。


そう、教授も「PC内で完結させない事」が大事だと、最近のインタビューで言っていた。



楽曲制作のルーツ

中:最初は本当に曲だけ、でした。歌を録るという発想は全然なかった。聴くのも、サントラとか、インストばかりで。
高:どんなインストを?
中:映画の曲が多かったです
高:本当にサントラですね。
中:そうですね。スタジオジブリの音楽みたいなのもあれば、モリコーネみたいなものとか

モリコーネ!ヤスタカが音楽のルーツを語る事は非常に珍しいのでは。


こまめにヤスタカのインタビューはチェックしているつもりだが、彼が自分のルーツを明かすことはまずない。それは、彼が「○○フォロアー」「○○チルドレン」というフィルターをかけられることを忌避しているからではないだろうか。それによって、楽曲の聴かれ方も、ファン層も固定されたものになってしまう。かつてピチカートフォロアーと呼ばれたCapsuleだけに、その渋谷系残党という狭いフィールドで活動したくはないだろう。


一方で、おそらく今の30代以上の人には分かるだろうか、YMOは、三人が自分のラジオやインタビューなどの場で、影響を受けたさまざまなジャンルのアーティストや楽曲を挙げ、それをファンが拾っていく事で、よりファンの耳も広がり、またYMOの楽曲もより深く楽しむ事ができる、いわば「音楽の考古学」的楽しみ方を教えてくれた。これも、音楽の魅力の一つである。自分も、電気グルーヴが影響を受けたという発言をきっかけに遡ってKRAFTWERKYMOを聴き始めた口である。できればヤスタカも、彼の活動を縛らない程度に、そういったルーツを辿る楽しみを解禁してほしいものだ。



CPU

中:ここ1、2年は、QX6700の普通の直販モデルを。
高:CPUはインテルじゃないとダメだ、とかそういうこだわりみたいなものはあります?
中:とりあえず、今、一番速いパソコンには乗り換えているつもりです。だから、マックの方が速いときにはマックを使ってたんですけど。それで、アスロンの・・・
高:64ですか?
中:そうです。それのデュアルコアにして。
高:なるほど。ということは、CPUにこだわるというよりも、とにかく速いものをお買いになってるということですか。
中:そうです。ただできることが増えた方がいいなあということで。

手の内を聞かれて、CPUを答えるところにギークな性質が見える。
ヤスタカのCPUなんて興味ないですよね、そりゃ当然速い方がいいです。特に、全てをソフトウェアで完結させるスタイルであれば、より必要なのだろう。


なお、HDDについては、「ジューシーフレグランス」紛失事故も影響してか、現在は5重バックアップ体制になっているとどこかのインタビューでの発言あり。



ネットブック

中:全然必要もないのにネットブック買ったりして。
高:ちなみに、どこのを?
中:DELLのMini9ですね。とりあえず買ってみて、メモリーは2GBに変えて。
高:そういうのもご自身で?
中:やりました。いまは、イーモバイルのUSBのモデムを、分解して中に入れられないかなと研究してるんですけど。D12Lあたりを内蔵する方法を。中に入れられると凄い便利だと思うんですよ。

分解まで来るとそうとうのギーク
楽曲の作成はスタジオのみ、CDもスタジオ以外では聴かないと明言している以上、ネットブックが何に使われているのか分からないが、「全然必要もない」ということなので、本当に純粋なガジェット物欲嗜好なんでしょう。
こういう面も、これまでのインタビューでは見せなかった一面では。


Cubaseのフィジカルコントローラ

中:フィジカルコントローラーは今後、多分廃れていくんじゃないかと思う。だって、画面に書いてあることをもう一回ハードに戻すわけじゃないですか。それが画面に書いてなければ必要ですけど。画面に絵が出て、そこを見なきゃいけないのに、手元に同じ形があるって二重じゃないですか。


中:絵的にはカッコイイんですけどね。エンジニアさんには必要だと思いますけど。作曲する人的にはいらないんじゃないかな。


中:本当に出してほしいのは、鍵盤から手を離さないでロケートしたりできるもの。つまり、ピアノを弾く姿勢から変えずにできるコントローラーを作ってほしいんです。指につける形でも何でもいいんですけど。今は、一旦鍵盤から手を離さなきゃいけないんで。
高:じゃ、鍵盤のそばになにか付けるとか?
中:いや、たとえば指輪みたいなものでもいいと思うんですけど。凄くよくないですか?指にボタンが付いてたら。

どうでしょうYAMAHAさん。


何のことか分からない人のために説明すると、画面上の小さなつまみをマウスでせこせこクリックしていく代わりに、手元に本物のつまみ(フィジカルコントローラ)を置いて、それを捻ると画面上のつまみも連動するような仕組みの事です。アナログシンセ時代はシンセといえばつまみだったが、デジタルシンセはそれが数値入力ボタンに取って代わった。けれども、アナログシンセリバイバルブーム以降には、より直感的な操作を実現するためにと、わざわざつまみをつけている機種も多い。ヤスタカに言わせれば、それは二重だからいらないという。それは確かにそうなのだが、より感覚的なところで作曲をする人にとっては、無くなってはほしくない代物だろう。ちょっとこの意見は極端かもしれない。


それよりも、プログラマーがマウスを使わずショートカットキー操作にこだわりを見せるのと同様の感覚なのだろう、鍵盤から手を離さずに操作できるものがほしいと言う。この気持ちは非常に共感できる。実現性としては、フットペダル的なものにより可能性がありそうだ。自分もエレクトーンをやっていた時期があるので、足はいくらでも活かせそうな気がする。



リバイバル

中:最近、ジャンルっていうものがだんだん分からなくなってきていて。テクノポップもそうですけど、たとえば'80sのファッションや音楽がちょっと前にリバイバルで流行ってたじゃないですか。でもリバイバルといっても、実際のものとは大分違うというか。そういうの、面白いなと思うんですよね。記憶の中にあるもののほうがカッコイイという発想。
高:美化されてますからね。
中:あれカッコイイよねって言ってる音は、今聴いてもカッコイイように頭の中でたぶん変換された音になっていて。それをやるのも楽しいというか

リバイバルにも、当時の様を忠実になぞるやりかたと、当時の「姿勢」や「感覚」だけをなぞるやりかたがある。Capsuleで取り上げたニューレイブファッションも、80年代の派手さ、突拍子の無さだけを掬い上げて甦らせた物である。


「1RD」はユーロビートハイエナジーだ、そうは言っても、そこでそのままリンドラムとDX-7を持ち出すのではなく、当時刺激的だった部分、その部分は意識の中で美化されてより刺激的なものとなっている、そのエキスだけを再現する、「想像上のかっこいい音楽」を再現する試み。


自分がいざDTMをやろうとしても、気付いたら安っぽいYMOにしかならないのは、このあたりのセンスが欠けているからだ。



マスタリング

高:マスタリングはご自身のスタジオで?それともどこかマスタリングスタジオに?
中:自分のところでやります。またキューベースと別にマスタリングソフトを立ち上げて。
高:じゃ、本当に最初から最後までご自身のスタジオで、全部やってらっしゃる。
中:はい。だけど、テクノユニットとして何年ぶりのヒットって、ニュースになってるらしいですけど。そもそもテクノユニットをプロデュースしてるつもりでもなかったので(笑)、記録がと言われてもピンとこなかったんですが。
高:ふむ。
中:自分のスタジオで作詞、作曲、編曲作曲、レコーディングエンジニア、マスタリングまで一人でやってる作品がオリコンチャート1位になったのって、初ですかね
高:それは中田さんが初めてでしょう。じゃ、次は流通も?
中:ハハハ!
高:いよいよスタジオから直販!って(笑)。

木の子さん曰く「制作の全てを手がけたい人」だけあって、本当に嬉しいんだろうなあ。


しかし、ここまで一人体制で仕事をやることができるようになったのは、ソフトウェア環境の充実のおかげだが、Maltine Recordsの例を出すまでも無く、いまやアマチュアでも同じことができるところにいる。あとは結局流通の問題なのだが、それですらネットが解決している。もう、オリコンというパッケージセールスに依存した旧式の評価法でなければ、ヤスタカの偉業も評価されないところまで来ているというのが恐ろしい。



ワーカホリック

高:普段の生活リズムはどういう感じなんですか?それだけ自分でやってるとかなりの時間をとられるでしょ。
中:そうですね。眠くなったら寝てる感じ。だけど、1週間に何回寝てるかよく分からない。
高:気づくと曜日が変わってたり?3日くらいたってたり。
中:ええ。決まった時間にどこかに行かなきゃいけない日以外は、眠くなるまで起きていて、目が覚めたら動き始める。
高:仕事の合間に、コンピュータから離れる時間はある?
中:うーん。僕、いつもなにかしらしてたいんです。ボーっとしているのがあまり好きじゃなくて。それで、面白いものを探したくて毎週、週アスを読んでいるという(笑)。

個人作業のクリエータってみんなこうなんだろうか。集中力の継続する限り連続して作業をし、集中力が切れたところで眠る。体のサイクルにとっては最悪のように思えるが、この方がクオリティが高いものが得られるのだろうか。自分も集中力に極端なムラがあるので、試せるものなら試してみたいけれども・・・。




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