Aerodynamik - 航空力学

はてなダイアリーからはてなブログへ移行中

Amuse最高顧問大里氏とキャンディーズ、そして30年後のPerfumeとの相似性@日本経済新聞夕刊100222-100226


日経新聞夕刊「人間発見」コーナーに全5回のインタビュー。大里洋吉、現Amuse最高顧問。Amuseの創業者であり、芸能界において長年「大里会長」として親しまれてきた人物だ。Perfumeにとっては、Perfumeが所属する事務所の最高権力者という立場の人間であるとともに、もう一つ重要な意味合い、大里氏が、1970年代に伝説的な人気を博した三人組アイドル「キャンディーズ」のマネージャーであったという歴史的な重みがある。
もちろん自分はキャンディーズを知る世代ではないが、大里氏がPerfumeを見るとき、その目は常にキャンディーズを重ね合わせているのだろう、どうしてもその想像を禁じ得ない。




映画業界で働く事を目指したものの、入社したのは渡辺プロダクション。そこで氏はザ・ワイルドワンズのマネージャーとしてそのキャリアをスタートさせる。
独立してAmuseを立ち上げるまでの、9年間のナベプロ時代の最後に担当したのが、キャンディーズだ。

大里:最後の担当はキャンディーズ。引き継いだ当時の3人はまさに「テレビ」タレントでした。しかし僕は、彼女達の親近感はコンサートで伝えていくのがいいと判断。地道にファンを育て、この業界で長くやっていけるようになってもらいたい、と。一流のミュージシャンをバックに洋楽を取り込んだライブで、テレビとは逆の、リアルでエネルギッシュな魅力をファンに見てもらったわけです。


始め3人は不満もあったのでしょう。楽屋に鍵をかけ僕に会うのを拒否した事まであるんです。でも次第に、自分達が輝き、ファンと繋がるライブの面白さに目覚めていきました。フォークブームで各地に生まれた若いプロモーター(公演の主催者)も力強い味方になってくれました。大学生や高校生が自主的なファンクラブを組織し、応援も統一するなど、男子がアイドルを組織的に応援するはしりにもなったんです。

テレビ番組で歌謡曲を歌うお茶の間アイドルであったキャンディーズから、当時最先端の本格的なファンクサウンドを聴かせるライブアイドルへの転換。そのバックバンドを担ったのは、後にあの「スペクトラム」に発展する、ファンクロックバンドMMP。
アイドルでありながら、クラブミュージックリスナーも納得させる中田ヤスタカサウンドをバックに、エネルギッシュなライブを魅せるPerfume。当初は当人達にその新しいサウンドが受け入れられず、拒否反応を生んだところまで含めて、同じ運命のようなものを感じざるを得ない。




当時のキャンディーズファンによる記述を引用する。

http://www5e.biglobe.ne.jp/~candies/15809414/


デビュー当時から持ち歌が少ないのをカバーするために外国のポピュラーソングも歌ってはいましたが、ロックにはまだ挑戦していませんでした。否、挑戦させようと思う者も居なかったのです。キャンディーズにそのような可能性が秘められているという事も誰も気づきませんでした。キャンディーズ自身も歌謡曲路線で行く、という事に疑いも持っていなかったでしょう。


キャンディーズを歌謡曲を歌うかわいいアイドルからライブアーティストとして飛躍させた一人の人が居ます。それはキャンディーズのマネージャー大里氏。彼はキャンディーズが「その気にさせないで」を歌っている頃、キャンディーズの新しいマネージャーになりました。大里氏は「キャンディーズのステージを充実させるため。」とMMPをスカウトしたのです。


MMPに出会うまで、キャンディーズはアイドルとして”安全圏”に居ました。当時の一般的なアイドルたちと同じように歌謡曲を歌う、かわいらしいだけお人形さんアイドル。 キャンディーズにロック。MMPが初めて日劇ウェスタンカーニバルでキャンディーズと共演した時の罵声。それは誰も予測していないものだったのでしょう。


それまで誰もキャンディーズに”アイドル”以外の価値を見出そうとはしませんでした。おそらくファンもスタッフも。MMPの登場によってキャンディーズの音楽的内容はガラリと変わりました。
もう、歌謡曲を歌うだけのかわいいアイドルではなくなったのです。もはや、アイドルとしてのキャンディーズはそこにはありませんでした。アーティストとしてのキャンディーズが居ました。


MMPとの出会いは当初、キャンディーズの方向性すらも揺るがすものでした。しかし、実際は、アイドルからアーティストへとキャンディーズを飛躍させました。 おそらく、キャンディーズがMMPと出会っていなかったらキャンディーズの運命すら違っていたと私は思うのです。

中田ヤスタカサウンドプロデューサーに抜擢され、テクノポップ路線に切り替わり、近未来三部作でさらに音楽性を変化させた過程を思わせる。


そして、

http://candies.candypop.jp/mmpttute.html


MMPがキャンディーズのバックバンドとなってからは、歌謡曲には見向きもしなかったロックファンがキャンディーズファンになりだした。また、MMPはロック好きなキャンディーズファンにはたちまち人気が出た。


現在でもキャンディーズとMMPの競演には定評があり、MMPへの思い入れやこだわりがあるキャンディーズファンも多く、「MMPの演奏じゃなければ」というMMPへの熱い思い入れを持つキャンディーズファンも多く存在する。また、「MMPとキャンディーズの競演をもう一度見たい、聴きたい」というファンも多い。MMPがバックバンドについてからキャンディーズの新たな可能性が見出さたのは言うまでもない。


MMPが専属のバックバンドとなってからキャンディーズのステージがアイドルの歌謡コンサートからロックスタイルへと変貌をとげた。キャンディーズが他のアイドルと一線を企している理由はこんな部分にもあるのだろう。


大里氏(現・アミューズ会長)は「キャンディーズは歌謡曲ではじまり、ロックで終った」という名言を残している

ロックを「テクノポップ/エレクトロ」に、MMPを「中田ヤスタカ」に置換すれば、まるでそのままPerfumeにおける状況を語ったような文章になりうるという、非常に興味深い文章だ。




当時のマネージャーであった大里氏の決断によって、音楽性の転換のためスカウトされたMMPは、アイドルとしてのキャンディーズとは水と油のようなもので、当初はお互いを拒否しあっていたが、その化学変化が生んだ奇跡的な魅力は、アイドル歌謡ファンだけでなく多くの音楽好きをも魅了した。アイドル歌謡から始まったキャンディーズのコンサートだが、最後期のセットリストはこんなトラックのカバー曲で埋められることになる。

  • Kool & The Gang「Open Sesame
  • KC and the Sunshine Band「Shake Your Booty」
  • Wild Cherry「Play That Funky Music」
  • Earth Wind & Fire「Jupiter」「Fantasy」
  • Boz Scaggs「Hard Times」
  • The Three Degrees「Do It」
  • Dave Clark 5「Do You Love Me」
  • Stevie Wonder「Sir Duke
  • Animals「House of the Rising Sun」
  • The Association「Never My Love」
  • The Beatles「Ticket to Ride」
  • Three Dog Night「Going in CIrcles」


若い世代でもテレビで目にしたことがあるだろう「年下の男の子」や「春一番」のイメージからは想像できない、そんな強烈なサウンドだ。






大里氏の言葉に戻ろう。

うちはギスギスした競争ではなく、いい意味でライバル関係を保った「下克上」の社風なんです。上司の顔色をうかがうのではなく、担当マネージャーが頑張り、ファンの支持を得ればいい。僕の好みだけでやっていたら、ここまでの会社にはなっていなかったでしょう。この自由な社風は、渡辺プロから僕が受けた1本のバトンを、社員一人一人がリレーしてくれた結果なのです。

統括プロデューサーによるトップダウンではなく、現場を知る担当者レベルの人間にそれぞれの裁量権が与えられる。その思想は、Perfumeにおいても、ファンから「Team Perfume*1と呼ばれる、いわゆる現場スタッフの集合体に舵取りがゆだねられている(ように見える)姿にも明らかだ。




最後に、CBCラジオPerfumeのパンパカパーティ」080419よりPerfumeの言葉を。

あ:キャンディーズさんは、確か3年位、2年位だっけ?3年か4年しかやってないんですよね、キャンディーズ自体を。だけど、こんなにも名が残るグループってね本当に凄いと思います。


あ:ま、3人組といえばね一緒なのでね、よく大里さんにも言われるんですけど、「平成のキャンディーズになれ」と、「お前らはキャンディーズになるんだ」って、よく言われましたが。もうそんな事何を言ってるんですかといつも言うんですけれど。本当にでも、そういう意味では、解散後でもこういうイベント(大里会長が自ら手がけた解散30周年記念フィルムコンサート)が開けてずっと愛されるグループになりなさいと言ってくれてるのかなあ。そういうふうに、なんかこう、元にね、目標というか、いいグループがあると、目標になるっていうか、凄い先輩として尊敬するし。


の:やってる年数がね、どうのこうじゃないからやっぱり。


か:長ければいいっていう話じゃないですね。


あ:どれだけね、いいグループだったねって、いい音楽を発信してたよねって、なるかっていうことだから。


の:ですねー。頑張りましょう。


か:本当に。憧れますね。


あ:ほんと感動です。Perfumeも頑張りましょう。


*1:徳間ジャパン内「Team Perfume」ではない、広義の「Team Perfume