昼の部
- 100530「Saori@destiny BACK UP PARTY 限定LIVE Vol.1」@渋谷DESEO
5日前の5月25日、それがいわゆるファンクラブなのか何なのか、その正体もはっきりと明かされないままに、「Saori@destinyメールマガジン」登録者の元へ「Saori@destiny BACK UP PARTY」設立の案内メールが届いた。そのサービスが有料なのか無料なのかすら明記されていない、かなりいい加減な作りの登録フォームに個人情報を預けるのは不安ではあったが(デートピアは至る所で詳細な個人情報を入力させるのだ)、慣れとは恐ろしいものだ、少しの逡巡の後、自分はそのサービスに登録し、そして今日の組織会員限定イベントに足を運ぶ事になった。
ラウンジに入ると、このイベントで使うのであろう「Saori@destinyへの質問」「BACK UP PARTYでやって欲しい事」を記入する紙を渡された。ラウンジの片隅では夏服タイプのセーラー服を着たSaoriが既に物販を始めていた。物販で5000円以上グッズを買うと握手や2ショットチェキ撮影ができる、いつものやつだ。既に熱心なオタが、Saoriと一対一の関係を深めようと、金を注ぎ込んでいた。ちなみにこの物販はイベント終了後にも引き続き行われ、その時のSaoriの衣装は紺のブレザーに赤チェックのスカートの制服だった。よくある地下アイドル的な風景だ。セーラー服も、ブレザータイプの制服も、Saoriが秋葉原路上/インディーズ時代に着ていた物だ。今日のファンクラブイベント的な催しに合わせて、再び引っ張り出してきたのだろう。
30分ほど待たされた後、ステージで本編が始まった。ステージに上がるのは一ヶ月振りと、やや緊張の面持ちで始まったライブ。定番曲に、もうライブではやらなくなってしまった古い曲も織り交ぜる。ステージに現れたSaoriの白いワンピースには見覚えがある。そうだ、インディーズデビューシングル「My Boy」キャンペーン時に着ていた衣装だ。
この時フロアにいたのはおよそ50人。いつもイベントで見かける、いつもの熱心なオタ達だ。組織会員だけという事もあって、気が緩んだのだろう、かつてSaori現場で飛び交っていた、そして現在は禁止となっているオタ芸(ミックスやケチャ)なども飛び出す。
- Shangri-La
- ブリーズ・ブリーズ・ブリージング
- MC
- スパイラル
- サヨナラリヴァイバル
- My Boy (Original Mix)
- Our Telepathy
- 質問コーナー
- ロスト
- ステンレス・スターライト
- Ez Do Dance
- EN
- エスニック・プラネット・サバイバル
質問コーナーは、先ほどラウンジで書かされた紙を元に進行された。
- 最近気になるアーティストは?
- 好きなテレビ番組は?
- カバーするならどんな曲?
他愛も無い質問で終わる。自分が書いた、ちょっと意地悪で答えにくそうな質問は、案の定弾かれた。その後数人にSaori直筆の落書きが入ったタンブラーなどがプレゼントされた。
アンコールも含めて丁度一時間でイベント終了。この日の夜には同会場で行われるアルバムリリースパーティーが控えていたが、「オタ芸はちょっと控えて・・・(笑)」と最後にしっかり釘を刺された。組織会員、つまり熱心なファンしか来ていない設定のイベントだったが、そもそもSaoriのソロイベントには熱心なオタ位しか集まらないので、結局いつもの面子が集まったというだけで、これといって変わった空気な訳でもなく、特に感慨もなかった。まあ、いつも通りだ、50人も集まっただけ上々だ、そう思いながら会場を一旦後にする。
この時は、まだその後に待ち構えていた「事件」のことなど想像もしていなかった・・・。
夜の部
- 100530 Saori@destiny「WORLD WILD 2010」リリースパーティー@渋谷DESEO
しばらく外で食事などしながら時間を潰し、再び同会場へ。いつもはキャパ100人の中目黒solfaですら埋める事ができないSaoriのことだ、キャパ250人のDESEOは埋まるのか、少々不安な面持ちで開演を待つ。
ステージ最前付近は相変わらず、昼の部で見た熱心なオタ達が固めていた。折角これまでより更にダンスミュージックに特化したクールなアルバムをリリースしたのに、集まるのは古参アイドルオタばかりで、一向に新規の音楽ファンが増えないのは何故なのか。そんな事を考えながら待っていると、後方に今までSaori現場では見た事の無い人種や女性が沢山入ってきた。15年間ダンスミュージックを聴き続けてきた自分にはその匂いは一目で分かる。こいつらはダンスミュージックジャンキーだ!どこから聞きつけてきたか知らないが、遂にSaori現場にダンスミュージックリスナーがやってきたのだ!そして開演時刻には、会場は人で一杯になった。間違いなく200人以上は入っている。これまででは考えられない集客、しかも半分はダンスミュージックリスナーだ。これは勝てる!
そして始まった、アルバム発売から一ヵ月半も遅れて行われたリリースパーティー。それはこれまで見てきた全てのSaoriのライブを完全に過去のものとしてしまう、驚愕のステージだった。
- Baby Tell Me
- グロテスク
- シンパ
- MC
- Wow War Techno
- サヨナラリヴァイバル
- パーフェクト・ワンダーガール
- Sakura
- MC
- Lonely Lonely Lonely
- プリズム
- MC
- World Wild 2010
- ファニー・パレード
- Play
- I Can't
- エスニック・プラネット・サバイバル
- Ez Do Dance
- EN
- Chemical Soda
- Destiny's War
- EN2
- ヒカリ・シンドローム
石丸ソフト7Fでのイベント時に感じた、今回のアルバムはCDで聴いてもその魅力は伝わらない、箱で大音量で鳴らしてこそその魅力を発見できるという感覚は間違っていなかった。ダンスミュージックに特化したクラブのスピーカーにこそ劣るものの、DESEOのスピーカーが鳴らす爆音のエレクトロニックダンスビートは強烈に全身に訴える。前方のいつものオタ達は、相も変わらず小刻みに体を揺らす程度、オタ芸も封じ込まれて場を盛り上げることもできずに半分地蔵と化していたが、後方の新客達はそんなオタを完全無視して強烈なビートに身を任せ踊り狂い始めた。そしてまず一曲が終わるかと見せかけたその瞬間、間髪入れずに次のトラックへ、全くリズムを崩さずにビートが続く。客が歓声を上げる。そして次の曲もそのまま流れるようにビートが続く。これは単なるメドレー形式ではない、事前にしっかりと作り込まれてきたノンストップミックスだ。踊る若者達の足は止まらない。ビートに身を任せ踊り続ける。そう、やっとSaoriの楽曲の真価を発揮する方法をデートピアは発見したのだ。
クールでハードな3曲のノンストップミックス、MCを挟んで再び曲間ノンストップでキラーチューンの「Wow War Techno」「サヨナラリヴァイバル」へ。フロア後方の温度が一気に上がる。散々聴きなれたはずの、ただ次の曲を待つだけの退屈ポイント「パーフェクト・ワンダーガール」のエンドから「Sakura」のイントロ繋ぎは、完全にダンスミュージックにおける「ブレイク」となり、狂喜のあまり皆が奇声とともに一斉に両手を挙げる。ブレイクで両手を挙げるなんて、途轍もなく熱かった頃のレイヴのようだ。バックキーボードの二人は普段より多目のミスタッチだが、そんなものさえ気にならない荒々しいプレイでグルーヴを加速させてゆく。
体力回復のための二曲のバラードを挟んで、再び怒涛のキラーチューン達が曲間ノンストップで畳み掛ける。完全にクラブのフロアのノリのまま、クラウド、そう敢えて呼ぼう、クラウドは「I Can't」で遂に爆発する。踊り狂い、飛び跳ねまくり、奇声を発してビートに身を委ねる。かつてSaoriの現場がこんなに肉体的であったことがあろうか?最前のオタ達は相変わらず半地蔵のままだが、後方スペースは完全にこれまでに無かった最高の盛り上がりを見せていた。その盛り上がりに応えて、休む間もなく踊り続けるSaoriも客を煽る。最高の笑顔で。
アイドルオタの中にダンスミュージックジャンキーが混じって渾然一体となって踊り狂うカオスと熱気。覚えているだろう?2007年の、あの狂おしいPerfume現場を。あの頃と同じ空気を、自分は今日のこのフロアに感じた。今日を境にSaori@destinyを取り巻く環境が変わる、今日のライブは間違いなくSaori@destiny史のターニングポイントだ、そう感じずにはいられなかった。
アンコール。そしてSaoriが涙を見せる。スタッフも環境も変わり続けていってしまって寂しいこともあるけれども、今日このライブの為に準備を重ねてくれたスタッフ、そして応援してくれるファンに感謝したいと。「もうワンマン最後になるかもしれないし・・・いやそんなこと無いですけど(笑)」、MCの途中でぽろっとSaoriがこぼす。最後って何だ?2008年のメジャーデビューからの3年契約だとすると、今年が最後のチャンスだ。そういうことか?いいや、そうならないように、事務所にはなんとしても今日の奇跡を覚えておいて欲しい。ダンスミュージックとしてのSaori@destinyの魅力が初めて開放された日のことを。そして、今日集まった新規のフロアオリエンテッドなダンスミュージックジャンキーの奴らを手放すな。決して手放すな。
会場を後にする誰もが興奮していた。ダンスビートに特化した今日のライブは、本当に最高のものだった。しばらく夜風に当たって少し冷静になってふと気付く。今日の二部構成は巧妙に仕組まれたものだったのだと。昼の部で、熱心なオタは、昔のレア曲で久し振りに存分にオタ芸を打ったり、質問コーナーや制服コスプレでの物販などでSaoriとの交流を図ったりと、ある種のガス抜きを行うことができた。そうしておいて、夜の部では新譜からのハードな曲を中心とするダンスチューンのノンストップミックスで、オタ以外の新規ファン向けに強烈にサウンド面でのアピールを図った。そしてそれはどちらも成功したのだ。「BACK UP PARTY」を使うことで、ファンの希望するSaori像を上手く切り分けるというアイディアは、なかなか素晴らしい、ぜひ有効に運用していって欲しい。