Aerodynamik - 航空力学

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二年越しで実現した中田ヤスタカのアイロニーとユーモア、Perfume「FAKE IT」


先日のTFM「Perfume LOCKS!」101118 では、Perfumeがこの枠の主たるリスナー層である高校生と電話で会話する企画、所謂「逆電」が、前回の放送に引き続き行われた。電話口の高校生達は、祭司に「信仰の告白」をするかのごとく、夢のように東京ドーム公演の素晴らしさを語り続けた。「信仰の告白」は告白する者自身のカタルシスを生み、彼らは宗教的な高揚感に陶酔しきっていった。祭司であるはずの西脇さんもその高揚感に当てられ高まってしまい、信者の一人に向かって「結婚したい」などと言い出してしまう始末。色んな意味でヤバイ放送であった。アイドルへの心酔は一種のカルト宗教的な色彩を生むが、まさにそれが露呈した回でもあった。


08年、Perfumeにとって初めての武道館公演で初披露され、直後に発売となった「Dream Fighter」。Perfumeの三人がまるで仏教僧が纏うような黄色の衣装を身に付け菩薩像や聖母マリアのようなポーズをとる、明確に「宗教」を意識したジャケに包まれた「Dream Fighter」は、その「際限なく夢を追い続ける」という歌詞の内容も相まって、「Perfume自身によるPerfumeへの応援歌」と解釈され、以降Perfumeにとって、特に西脇さんにとって、「挑戦し続ける」というモチベーションの裏付けとなり、それに共感するファンにとっての応援歌ともなった。


武道館以降も、「Dream Fighter」はPerfumeおよびPerfumeを囲むスタッフの精神的支柱となっており、「直角二等辺三角形TOUR」最終日の公演後に、サプライズとして「Dream Fighter」がスタッフロールとともに流され、それを見た3人が号泣したところが、ボーナス映像としてしっかりとDVDに収められるなど、その傾倒振りが極端な形でファンの目にも届けられた。現在「Dream Fighter」は、完全にPerfumeにおける「努力」の公式テーマソングのような存在となっている。先ほどのラジオ枠のリスナー層は高校生であるが、彼らは口々に、受験の時に「Dream Fighter」の歌詞に勇気付けられたと告白してきた。この「感動」は、ファンの裾野まで広く浸透しているようだ。




しかし、この曲を作った当の中田ヤスタカは、楽曲製作中に、Perfumeの3人が「これは素敵、これはかっこいい」と感想を漏らした部分を片っ端からカットする男である。彼の本音を覚えているだろうか。


TX「Japan Countdown」081227

−彼がPerfumeの「Dream Fighter」を書き下ろした時、それまでとは一転した情熱溢れる内容に、多くの人が驚きを示しました。しかし実はあの曲こそ、彼の本心ではないでしょうか?


中田:んー、どんな曲だっけ?あのでもあれだ、速い曲を作ろうと思ったんですよ、テンポが。そしたらそうなったっていうか。これ言っていいのか分からないですけど、「Love the World」があって、すぐにあれが出て、今はもうちょっと次の事やりたかったんですよ、勢い的にはポンポンポンと。あれで今年終わりたくなかった、本当に。良い人みたいになっちゃうじゃないですか、なんか。「夢です!」みたいな曲の後に、すぐに「嘘でした!」みたいやなつ出したかったんですけど。11月19日に出るんだったらもうちょっと冬っぽい曲作ったよ、みたいなところもね。冬っぽい曲作れって言われたら作らないかもしれないですけどね。

「夢です!」のすぐ後に「嘘でした!」を作るつもりでいた、「良い人みたいになっちゃう」から「Dream Fighter」で08年を終わりたくなかった。それが彼の言葉だ。


「夢です!」と「嘘でした!」は本来ワンセットで存在し、そのアイロニーとユーモアを持ってして、Perfumeは「Dream Fighter」で引き付けた盲目の信者を突き放し、世の中のベタな流れから一歩距離を取って独自の路線を突き進むはずだった。しかし、中田ヤスタカの本来の意図は実現しなかった。それを望んだのが徳間なのかAmuseなのかは分からないが、とにかくそのアイロニーへの流れが何者かによって堰き止められてしまった。その結果、対となる「嘘でした!」が欠けたことによって、「夢です!」がアイロニーとして完結しないままに、「Dream Fighter」が単独で存在し続けてしまった。そして、アイロニーを失った「極限の努力」、この極端なバランスの悪さが、「Dream Fighter」を真に受ける「信者」達とともに、Perfumeの「努力信仰」をさらに強固なものにしてしまった。それは、ブレイク前から十分に努力を続けてきた彼女達を知っているファンから見ても、あまりにも辛く厳しい道のりへ、彼女達を追い込んでしまったように見えた。




そして、武道館から2年。ライブ会場としては同じようにマイルストーンとなる巨大な東京ドーム公演。そこでライブ初披露となる「ねぇ」は、公演後すぐに発売された。「Dream Fighter」の時と同じ構図である。しかし、中田ヤスタカは、2年前の復讐に出た。東京ドーム公演に心酔しきっていた信者へ向けて、そしてそれは同時にPerfumeにも向けて、その名も「FAKE IT」という曲を突きつけたのだ。これは、夢の武道館公演に対して叫ぶはずだった「嘘でした!」に呼応する。今度は、タイミングを外さなかった。外すわけにはいかなかった。


Perfumeが「ファンの皆さんのお陰です、本当に有難う」と涙ながらに感謝の言葉を述べる一方で、ヤスタカは彼女達にこんな言葉を歌わせたのだ。

世界で一番好きだ的な あなたしかいらないのよ的な あなたのために生きるわ的な


事なんて絶対に今は言わないわ FAKE IT


今年の西脇さんの掲げる「挑戦」または「攻め2」の成果である東京ドーム公演に、ヤスタカは2年越しのアイロニーとユーモアをぶつけてきた。「Dream Fighter」のカップリングは、これまたベタな感動バラード「願い」であり、これも09年のライブで「wonder2」に置き換えられるベタな使われ方をしてきたが、「FAKE IT」は「願い」のような安っぽい感動や涙など平手で吹き飛ばすような強烈なエレクトロサウンドだ。


「最高を求めて終わりの無い旅をする」「零れ落ちる涙も全部宝物」、全部「嘘でした!」。「挑戦とは自らの首を絞め続けること」と表現した西脇さんへ向けて、そして深すぎる信仰のあまり感動以外のものを受け入れられなくなった信者へ向けて、「少しはアイロニーとユーモアを言うくらいの余裕を持てよ」、そんな中田ヤスタカのメッセージは届いているだろうか?




Dream Fighter

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