落ち着いて音楽を楽しむメンタリティを失った一年。一年で最も音楽を聴いていた場所は、家でもなく、もちろんクラブやアイドル現場でもなかった。平日仕事が終わった後、職場の最寄り駅のホームのベンチに座って、目の前を行き過ぎる地下鉄と行き交うサラリーマンを視界に入れるともなく、一時間位ただ茫然としている、昨年はそういう時間が長かった。そこで時折ヘッドフォンで音楽を聴いていた。それが多分2013年の音楽体験として一番長い時間だった。大好きだったはずのAutechreはもう聴けない。
2013年はEDMが商業的にとてつもなく大きな存在となって他のエレクトロニックなシーンを食い荒らすかと思いきや、対岸の火事どころか、なんだか遠くの出来事みたいな感じで、仕事の調整を付けて毎週火曜日に通ったdiskunionのクラブミュージック館では、新譜に付けられたコメントにインダストリアル/ミニマル/エクスぺリメンタル/アンビエント/ドローン、そういう文字ばかりが踊るようになった。EDMが鳴っていたのはクラブのフロアではなく、大規模フェスで、EDM演者のスタンスから何から「スタジアムロック」というか、LAメタルそのもので、ああそういう意味ではPASSPO☆は早かったなという変な感じ。
DUMMY/FACT/MOJO/PITCHFORK/Resident Advisor/SPINあたりのランキングを見る限りDaft Punk「Random Access Memories」、Kanye West「Yeezus」、Vampire Weekend「Modern Vampires in the City」の年だったっぽい。そうなんですか。
好きで聴いている音楽なのだから10作や20作選べと言われてもそんなに簡単なことではない。切り捨てる能力、あれだ、断捨離、それが問われるのはエディターやライターの世界であって、人に見せる訳でも無く、自分の一年の振り返りの為に書いているのだと割り切って、愛聴したものを何枚でもピックアップするよ。2013年個人的ベスト60枚、順位無し、名前昇順(A-Z-仮名-漢字)で。エントリは二つに分割。
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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9nine | CUE | SME | ASIN:B00AQ3EPU2:image:small |
tofubeats過去リミックスが初回盤の2枚目にまとめられたのは嬉しい、アルバム本編のtofubeats提供曲「CANDY」も凄くいい。ということでピックアップしたけれど、アルバム本編全体がいいかというとそうでもない。パフォーマンススキルもグッと上がった9nine、彼女達の楽曲に欠けているものは「欠落」なんじゃないかと思う。見た目とかスキルとか色々バラバラな要素があって面白いのに、こと音源に関しては作りに甘さが無くて完璧すぎる、遊びが無い。で、今のメンバー全員の声も綺麗に揃い過ぎている。重ねた時の面白さが無い。もっと音程をバラすなり、音に余裕と遊びを持たせるなりがあった方がいい。一癖も二癖もあるアイドルばかりが注目される中、それらのアンチテーゼとしての存在を特に意識しているのかもしれないけれど、2枚目のtofubeatsリミックスの方が原曲よりずっと面白い。
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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80kidz | 80:XX - 01x02x03x04 | BounDEE by SSNW |
80kidzとかそんなダサいもの誰が聴くかという印象だったのだけれど、「80」EPシリーズの突き抜け方が半端なくて見方を改めた。Lone的なデトロイト経由のサウンドからジュリアナぎりぎりのレイヴまで、とにかく切れてる。
80KIDZ - Abdullah
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Asalto Al Parque Zoológico | Soft Focus | HANDS AND MOMENT |
My Bloody Valentineが1991年以来の新譜を出したというのに、個人的に一番聴いたシューゲイザーは数限りなく存在するMBVイミテイターの一つだった。このアルゼンチンのバンドの方が期待され過ぎた本家の新譜よりもMBVっぽいし、出来がいいんじゃないかとまで思わせる。タワレコ限定で既存音源をパッケージリリース。
Asalto Al Parque Zoológico - Breeze
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Bibio | Silver Wilkinson | Warp Records | ASIN:B00BONJYDG:image:small |
待たされたわりにはBoards Of Canada「Tomorrow's Harvest」のピンと来ない感、これはまた5年位寝かせておけばいい味が出てくるんじゃないだろうか。その代替を担ってくれた、毒のあるノスタルジーに彩られた一枚。
Bibio - À tout à l'heure
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Carl Craig | Masterpiece 6 | Ministry of Sound |
マスターピースというか、1枚目は極端に今のフロアの音で、2枚目は流れも何もなくモータウンとMoritz Von Oswaldなどぐしゃっと今聴いている音を並べただけ、この極端さがいい。
Tom Trago - Use Me Again (Carl Craig Remix)
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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CAPSULE | CAPS LOCK | WARNERMUSIC JAPAN/unBORDE |
YAMAHAからASOBISYSTEM/unBORDEに移籍したらこれまで以上にチャラくなるんじゃないかと思ったら引き籠りサウンドを出してきたことには随分驚かされた。内省的な電子音楽、「ESC」なんかメロディーも何もない音響ドローンで、初回盤にはこの曲の「extended mix」まで入っている。この内側を向いているのに豊かでポップでなおかつ実験的な電子音楽は、細野晴臣「Philharmony」と並べて語られるべき。全然大袈裟では無い。
CAPSULE - CONTROL (FULL ver.)
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Clark | Feast / Beast | Warp Records |
リミックスワーク集。耽美ニカの一枚目と、暴力ニカの二枚目。
Battles - My Machines (Clark Remix)
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Compuma | Something In The Air 2 | Something About |
コンピューマ松永耕一によるのアンビエントメディテーションなミックス。精神的にヤバい状態に追い込まれた時には随分助けられた。
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Conny Plank | Who's That Man - A Tribute To Conny Plank | Groenland Records |
没後26年、偉大なる電子音楽エンジニア、コニー・プランクのプロデュース作品を集めた2枚、Möbius/Plank/Steffen名義の86年ライブ1枚、彼のプロデュース作品のリミックス1枚、計4枚組。ボリュームも凄いが、リミックスの出来もなかなかよい。特にNEU!「Für Immer」山塚アイリミックスが壮絶。
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Cornelius | NHK「デザインあ」 | WARNERMUSIC JAPAN |
「攻殻機動隊 ARISE O.S.T. by Cornelius」でもそうだけれど、基本的に「Sensuous」を出した頃と変わらんねえ。
デザイン あ 「あ」のテーマ
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Cut Chemist | Funk Off - Vox Populi! And Pacific 231 | A Stable Sound |
Cut ChemistがフランスのVox Populi!とPacific 231の音源をミックスしたもの。オーバーグラウンドでEDMが消費されるなか、EDMの光の当たらない今まで通りのエレクトロニックなシーンは重苦しくて解放感の無いインダストリアル/エクスペリメンタル/ドローンへと極端に回帰していて、こういうニューウェーヴ当時の薄気味悪いアングラノイズインダストリアルまで引っ張り出され、Cabaret Voltaireの再発や、PlaygroupのTrevor JacksonによるEBMコンピまで出るという、暗く冷たい時代。
Cut Chemist Presents "Funk Off" Vinyl and CD Promo
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Cuushe | Butterfly Case | Flau |
日本国内のポップアンビエントの中でちゃんと聴いたのはこれくらい、3年遅れのchillwaveサウンドだけれど、良い出来。
Cuushe - Butterfly Case trailer
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Dorian | Midori | Space Shower Music |
一気に方向性が変わった。これを評価すると砂原良徳の1998年一連のパンナム作品から耳の進化が無いような気分になるが。
Dorian - Onsen Holiday
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Especia | ミッドナイトConfusion | つばさレコーズ |
12インチシングルに収録されていた10分を超える「海辺のサティ (Vexation Edit)」、Vaporwaveほどにはディープトリップし過ぎない絶妙なラインのホンマカズキのPVも含めて、ハウスイベントで若者が始発で帰ってしまった後、朝6時を過ぎてから始まるゆるくてセクシーなダンスフロアのあの感じ。
Especia「海辺のサティ(Vexation Edit)」VJ MIX MV
「ミッドナイトConfusion」のPVも秀作で、多分彼女達の世代はもう知らないだろう「VHSカセットの折れたツメにテープを貼る」行為、思い出を上書きするというあの儀式の切なさ加減に泣ける。
Especia「ミッドナイトConfusion」MV
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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FantaRhyme | Do The Study | TRUST |
これを評価すると砂原良徳の1998年一連のパンナム作品とかハルカリから耳の進化が無いような気分になるが。とか言ってる間にそういう方向性から大きく離れて行ったけれどこの開放感は相変わらず。「Baby Talk」もようやくリリースされた。
FantaRhyme_緊急発売CD [DO THE STUDY]のCM
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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The Field | Cupid's Head | Kompakt |
この芳醇な閉塞感。
The Field - Cupid's Head 'Cupid's Head' Album
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Friendly Fires | Late Night Tales 30 | Late Night Tales |
今年の死後の世界ミックスベスト。今を生きるために必要な死後の音楽。
Iron Galaxy - Attention Seeker
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Gold Panda | Half Of Where You Live | Ghostly International |
自分が生きているのか死んでいるのか分からなくなるこの感じ。
Gold Panda: We Work Nights
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Head High | Burning | Power House |
今の時代にこの音でこのかっこよさという、笑えるようなレベルでハードダンシング。
Head High - Burning (Keep Calm Mix)
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Ikonika | Aerotropolis | Hyperdub |
今年のHyperdubはどれを聴いても面白くて、Laurel HaloやJessy Lanzaを高く評価するチャートが多いのだけれど、紺人的にはこのグルーヴ感がイマイチなオールドスクールエレクトロリバイバル、Jimmy Edgarからハードなグルーヴ感を抜いたようなスクエアさのこの一枚。「MODEL500の未発表トラック」とでも書き換えて売ったら評価されそうなエレクトロトラックがいくつも。
Ikonika - Mr Cake
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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James Holden | The Inheritors | Forced Exposure |
仮に順位を付けるとするならば、何を差し置いても今年の一位はダントツにこれだ。刺激的でエクスペリメンタルなダンスミュージックで、クラウトロックとオカルトの匂いに満ち満ちている。Boards Of Canadaの新作に求めていたものはこれだ。
James Holden - Renata
James Holden- Delabole
James Holden- Circle of Fifths
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Juice=Juice | ロマンスの途中 | hachama |
「Everybody clap your hands」の「Everybody」の頭に「Y」の発音が入る気持ち悪さと、「ジェラシー(宮本)のない(高木)恋つまんない(金澤)」、この中途半端な歌割。物凄く引っかかる。「イジワルしないで 抱きしめてよ」の安っぽいサンプリングピアノの音色がたまらん。徹頭徹尾ダサい。これがハロプロ泥沼か。今年一番聴いたアイドル曲。
Juice=Juice 『ロマンスの途中』 [Romance is on its way] (MV)
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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K-X-P | II | Melodic |
Klaus Dingerが亡くなって5年経つのにLa Düsseldorfの新譜が出た、とか言ってたら「Klaus Dinger & Japandorf」がリリースされてびっくりした。このPVに映っている人達の別人加減がひどい。
K-X-P - Flags and Crosses
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Kyle Hall | The Boat Party | Music 4 Your Legs |
100% Silkとかあの手のインディーダンスバンドシーンが忠実に90年代初頭のハウスリヴァイバルをやっている一方で、Kyle Hallの雑な作り、ああこの荒涼感。
Kyle Hall - Kixclap$chord$nhat$
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Lone | Airglow Fires | R&S |
美しい。完璧。デトロイトとベルギーを結んだ点がここに繋がる。
Lone - Airglow Fires
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Luke Vibert | Nuggets 3 | Lo recordings |
第3弾が出た。今回はBurton Music Libraryからのライブラリー音源集。Alan Hawkshawとかレコードになっていない音源がまだまだあるのだろう。
Alan Hawkshaw - Hot Seat
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Lusine | The Waiting Room | Ghostly International |
ハウスとミニマルとクリックの中間の音で知的さとダンスのセクシーさを両立したものをとにかく聴きたい。
Lusine - Lucky
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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lyrical school | わらって.net / Myかわいい日常たち | T-Palette Records |
結局鴨田潤の切ない感じが好きでたまらないのか。「S.T.A.G.E feat. 深瀬智聖 (from LinQ)」にも鳥肌が立った。これはいい映像を残した。
lyrical school / わらって.net
lyrical school - S.T.A.G.E feat. 深瀬智聖 (from LinQ) 4:45から
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Max Loderbauer | Tranzparenz | Non Standard Productions | ASIN:B00E7IB99C:image:small |
Sun Electric以降Ricardo VillalobosとのコラボやMoritz Von Oswald Trio、何だかんだと作品は耳にしているけれど、ソロ作品はこれが初めて。柔らかエクスペリメンタル。
Max Loderbauer - Shelf
アーティスト | タイトル | レーベル | |
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Negicco | Melody Palette | T-Palette Records |
小西康陽提供「アイドルばかり聴かないで」が時代遅れの後ろ向きスノッブなサブカル楽曲派まで届いた功績、みたいなところまで含めてもっと売れてほしい。「we love the music, we love the disco sound, hey!」とか「A New Stereophonic Sound Spectacular」みたいな当時定番のサンプリングネタでも、今使えないなら本人達に言わせればいいという発想が気持ちよかった。シングルのシークレットトラックも気持ち悪いほど時代遅れで凄くいい。
Negicco / アイドルばかり聴かないで MV(full ver.)
以上名前昇順(A-Z-仮名-漢字)30枚、以下後半へ。