Aerodynamik - 航空力学

はてなダイアリーからはてなブログへ移行中

90年代 渋谷宇田川町テクノレコード屋についての回想


就職してからはレコードを買いに行く時間がほとんどなくなり、Amazonを中心に通販ばかりの音楽生活となった。実店舗に行くとしても通勤途中の新宿・秋葉原タワレコに立ち寄るくらい。
しかし、時間の有り余っていた学生時代、もう10年前にもなるが、そのころは週3ペースで渋谷のレコード店に通い詰めていた。2000年を過ぎてからは一度も足を踏み入れていない宇田川町を、少し思い出してみる。


HMV

まだHMVはセンター街の奥のほうにあった。移転跡はパチンコ屋になった。
当時は地下が洋楽、1Fが邦楽フロアだったのだが、邦楽フロアは、今のような普通の「大型CDショップ」ではなく、店員の気合の入った棚作りによって、「渋谷系」と呼ばれたムーブメントの中心地に君臨していた。フリッパーズにオリラヴ、ピチカート、ラヴタン、カヒミ・カリィ、トラットリアにクルーエル。かせきさいだぁの隣にははっぴいえんどYMO人脈の揃えはもはや異常。今から考えると本当に笑ってしまうくらい、セレクトショップのような棚作りだったのだ。邦楽の新譜と、小山田と小西によって「レアグルーヴ」と指名された邦楽旧譜やソフトロックが同じように並ぶ画は当時画期的だった。そしてそれが渋谷系そのものだった。
ただ、テクノばかりしか聞いていなかった当時の僕には、余り興味がない場所でもあった。妙な勢いに引かれてふらっと立ち寄る程度だった。


Tower Record

移転して巨大になる前のタワレコ、ハンズの先のジーンズメイト2F時代は、品揃えは大して面白くなかった、という記憶しかない。


WAVE

もう一つの大手、WAVEは渋谷LOFTの地下にあって、95年位まで、テクノのアナログ盤を買うならここ、というとても尖った所だった。まだアナログ盤の流通が少ない時期に、いつも大量の在庫があった。Harthousや+8なんかが充実していたし、結構デトロイトもマニアックなものが置いてあった。その後6階に移転したが、エレベータを上がると左手の壁一面にテクノのアナログレコードが並ぶという、大手ショップとは思えないほどの好待遇だったけれど、どんどんテクノ自体に勢いが無くなっているのが目に見えてつらかった。移転後に店舗自体がどんどん縮小を重ねていって、2000年くらいに無くなった。
HMVタワレコの洋楽フロアがまだ面白くなかった頃だったので、テクノでない洋楽はここで買っていた。UKのマイナーなバンドも、大手の割には結構揃っていた。ここに無いようなものは、クアトロ店か、新宿のRough Tradeまで足を伸ばして買った。


そう、クアトロにもWAVEが入っていた。いつも閑散としていて、HMVに客を全部持っていかれたような雰囲気だった。渋谷系震源地としてはこちらのほうが先だったのに。おそらく伝説となっている80年代の六本木WAVEの後を継いだような店だったのだろう。品揃えは広く深く、当時「最先端」だったアンビエントやポストロック、あとはワールドミュージックなどが妙に強く、他では買えないようなものが結構見つかる貴重な場所だったが、96か97年には潰れてしまったはず。アナログコーナーはなんだか偏った品揃えで、気のせいだとは思うが、いつもAudio Activeが流れていたような気がする。


Cisco

Cisco Techno Shopはテクノの聖地みたいな気分で通っていた。品揃えもテクノ専門店だけあって、店舗の小ささの割にリスニングからドラムンベースまで幅広く、そして入荷も早かった。とりあえずここに通っていれば時代の空気が読めたような気分になれた。奥の方でよくケンイシイや石野卓球、まりん(こう呼ぶのも今となっては古臭いのかな、砂原良徳のこと)がレコードをかけながら店員と話していたのだが、周りの客は彼らに気づいていても何も反応しない、むしろ「試聴できないので早く帰れ」と思っているあたりが「テクノ」らしいねと、当時連れて行った友人に言われた。そう、当時は試聴用ターンテーブルなど存在せず、店員にお願いして試聴させてもらっていたのだ。ケンイシイといえば、日本のテクノのブームの頂点のような時期にリリースされた、中身の出来はともかくとしても、シーンの流れとしては重要な一枚、「Jelly Tones」は確かここで買った。あれが出たときは本当に祭りみたいな空気で、CD棚の下のほう全部が「Jelly Tones」で埋め尽くされていて、さらにこの店だけ、全部ケンイシイの直筆サインステッカーが入っていた。「これ全部サインさせられたのか・・・。なんでアイドルみたいなことやらされてるんだろう。テクノファンは誰もそういう記名性を求めてないのに」と可哀想に思ったのを覚えている。
本店、ハウス店は当時あまり用がなかったので覚えていない。ハウス2号店は、プログレッシヴハウスやトランスを扱う店として後に出来たのだが、当時そういうジャンルは下品だと思っていたので、硬派なCiscoのイメージにそぐわず不快だった。偏狭だなあ。


Manhattan Records

Cisco Technoのついでに寄った、すぐそばのハウス専門Manhattan Records 2と、ロックからテクノまで幅広かったManhattan Records 3では、他店で売り切れたようなテクノのアナログを買っていたけど、どちらも今は無くなってしまった。坂の下のManhattan本店はHipHop専門で、1FがHipHopの新譜、2FがクラシックなHipHopがどっさりとあって、テクノ好きにとっても2Fでエレクトロを探すのが楽しみな場所だった。Afrika BambaataaMantronix、Grandmixer D.ST.なんかはここで買ったと思う。
ただ、なにせHipHop専門だけあって、当時、えーと、なんて言ったっけ? いわゆるB-BOY的なイルでファットで「悪そうなやつは大体友達」のような人達の縄張りだったので、細いメガネをかけてテクノレーベルのTシャツを着た、痩せた青年という、絵に描いたようなテクノリスナーだった自分には、店内を物色するのに少々勇気が要った。


Hot Wax

BEAMの西向かいの地下にあったManhattan系列のHot Waxは、ドラムンベースからアブストラクトブレイクビーツが強かった。黒いレコード袋も相まって、かなり渋くてかっこいいイメージがあったなあ。Clear Recordsのアナログを揃えたのもこの店だったか。Cisco Techno、Yellow Popの並びに移ったあと、ここも消えてしまったようだ。


Disk Union

宇田川交番前のディスクユニオンは、テクノポップニューウェーヴが充実していたディスクユニオン2号店から、95年だったかな、dp1(Diskunion Part1)になってテクノ専門店(当初はゲームソフトも取り扱ってた)として再オープン。オープン記念イベントにも行ったな。ここはデトロイトテクノにものすごく強かった。中古も豊富で、箱を漁っていれば本当に楽しかった。家にあるレコードの1/3くらいはここの中古で買ったものかもしれない。
テクノムーブメントの勢いが落ちてきて、テクノ専門店だったはずがHipHopもこのフロアで扱うようになったときは、客層もがらりと変わって、なんだか世界を荒らされたような気がした。今思えばなんとも了見の狭い話だが、96年くらいまではジャンルの壁はまだ厚く、おまけにHipHopの人たちは怖かったのだ。


Technique

BEAMの南向かいにテクニークが出来て、オープンセールはレア中古大放出の噂に長蛇の列ができた。散々並んだけど、欲しいものは捌けてしまった後で、一枚だけを買ったような気がする。完全フロアユースのハードミニマル中心の揃えで、白く塗られた狭い店内は最先端の匂いがした。しばらくしてTechniqueはセンター街に移って広くなり、跡地はこれまたレアな中古が揃ったSpice Recordが出来て、よくニューウェーヴのレコードを買った。多分こんなレコードは地元の中古屋(今で言うブックオフのイメージ)で100円で売られてたりするんだろうなあと思いながら1700円くらいを払った。ディスクユニオン2号店→Spice Recordと来たテクノポップニューウェーヴ総本山は、今は渋谷を離れてshop MECANO、中野に移ってしまった。なんだか寂しかったけれど、店の立ち位置の面白さを考えると、それで良かったんだろうな。
移転後のTechniqueは、広くて使えるレコードが沢山入荷する店となったのだが、その頃にはなんとなくフロア向けテクノを聴かなくなっていたので、実はあまり記憶にない。


Mr. Bongo Tokyo

そうそう、センター街の一番奥の狭い雑居ビルの4FにMr. Bongo Tokyoがあった。いつの間にかDemode Recordsになっていたけど、すぐに潰れてしまった。ここはとても心地よい雰囲気の店で、棚はジャズとソウルと今で言うエレクトロニカが自然に同居していて、行くとRei HarakamiBoards of Canadaが流れていた。Cisco TechnoやTechniqueでハードなものを漁った後に、ここに立ち寄ることにしていた。店内に流れる曲の美しさにぐっと来て涙ぐんでしまうこともあったなあ。






ほかにも必ず通ったレコード屋は沢山あったのだけど、名前が思い出せないなあ。渋谷系といえば旧HMVより旧ZEST(あれだ、カジヒデキのバイト伝説)なのだろうけど、ここは一々レコードの値段が高く、テクノばかりを大量に漁る自分には縁遠かった。レジで弁当食ってるオヤジさんによる手書きのレコ評が個性的だったのはどこだっけ?リバプールかな?BEAMの上のほうの巨大なRecofanは巨大な割に自分的には収穫がなかった。DMRは、えーと、大きいので待ち合わせによく使ったけど、あんまり行った覚えが・・・。


ちょっとぐぐって見たが、懐かしいレコード店がほとんど閉店してしまっていたのはちょっとショックだった。クラブミュージックの流行り廃りの速さ以上に、渋谷という街においては、店が潰れて違う店になるサイクルのほうが速いので、その波に飲まれても仕方がないけれど。




※ 90年代の大規模テクノイベントの紙資料を上げてみました。
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20100427/p1