観覧記録 tofubeats/藤井隆/Especia 「“ディスコの神様”リリースパーティー」@代官山UNIT
http://www.unit-tokyo.com/schedule/2014/06/06/tofubeats.php
駅前の「晴れたら空に豆まいて」でライムベリーを観た後に食事を取って外に出る、まだ雨は土砂降りのまま。開演時間にUNITへ行くと長蛇の列。派手なオレンジの折り畳み傘はどこかに穴が開いてしまったらしく、傘を差していても頭が濡れて傘を持つ手がびしょびしょになるという情けない状況で震えながらひたすら待ち続け、ようやくフロアに入れたのが1時間後。
Especia
フロアに降りたところで丁度Especiaのライブスタート。Especia初の深夜帯ライブ。
この日の二日前にPerfume「DISPLAY」のMVが4K画質で公開された。普段は480pレベルの低画質、しかもダンスが売りなのにフレームレートが低すぎてカクカク動くようなけち臭い動画しか公式配信しないPerfumeが、Panasonic VIERA 4Kモデルのタイアップとはいえ、まだ試験放送も始まったばかりの新しい領域に突入する驚き。それに先んじること二週間、Especiaはライブ動画をSDに落として更にVHSの実機を使ってダウコンしたトラッキングノイズだらけのディープ90sテイストのVHS画質動画をフルHDで公開していた。同時代に生きるアイドル同士が、メジャーインディーズ関係なく、それぞれ両極端な形でクリエイティヴな鍔迫り合いを繰り広げるという面白い状況。Especiaメンバーがステージに登場するまで、「海辺のサティ」のPrins Thomasみたいな最高のリミックスをバックにVaporwaveなVJが展開され、「YOU ARE WATCHING A LASER DISC」という文字や、更には「4K」ロゴまでが飛び交う、恐らく二日間の間に投入されたであろうこのネタ、この機動力。
Especiaの魅力を引き出す音響環境、あるいはVJなりシチュエーションなりの世界観を整える背景が提供された時に、その「ビッグウエーヴに乗るしかない」的な勢いと輝きを、彼女達自身とそれを観ているファンの両者が放つ、あの異常に昂揚した現場の空気こそがEspeciaのライブの魅力であって、対バンイベントやインストアライブで数曲やって帰る時の伝わらなさ、「GUSTO」を聴いてかっこいいと左脳で理解してもピンと来ていない感じ、ネットで見かけるそういった反応は、Especiaの過剰な現場の空気を外側へ届けることの困難さ故なのだろう。
逆にそういう物が揃った時の彼女達のステージ、そして現場の高揚感は多分言葉ではどうにも伝わらない程に愛おしい。この日のイベントの客層は、全くディスコ感もパーティ感も無いごく普通のファッションに身を包んだ保守的な20代のマルチネガールズ達や、tomad社長ぽい爽やかナードな青年達、或いは年季の入った藤井隆ファンが殆どといった印象。Especiaライブ中に、三ノ宮ちかの誕生を祝うためにペシスタがウルトラオレンジ(5分しか持たないけれど高輝度なサイリウム)を一斉に焚いて、一斉にどよめきと嘲笑が起きる。自分の横にいた爽やかナード青年達も「うわこれアイドルのやつだ」とげらげら笑っている。tofubeatsのパーティにそういう人達が押しかけるのだからもうトーフ君売れたな、そう思っていると、直後にペシスタから自分にウルトラオレンジを10本位まとめて手渡されたので即その青年達に配り、目の前で折って見せる、さすがにどんな人でも目の前であの強烈な発光を見たら動物的に反応するしかない、「うおおお!」と渡したサイリウムを焚いて盛り上がる。最初は半笑いでサイリウムを振っていた彼らも、結局あのライブとペシスタの空気に呑まれて、最後はめちゃくちゃに踊りながらめちゃくちゃにサイリウムを振って最高にその場を楽しんでいた。結局みんなEspeciaの前ではパーティーピープルなのだ。
自分でサイリウムを買ったりすることも特段ある訳でも無く、大抵人から渡されるばかりなのだけれど、あるタイミングで誰かがウルトラオレンジを折る、薬剤が混合されて一瞬で強烈な光を放ち始める、周りも間を置かずに一斉に折る、フロアを光が満たす、あの一連のシーケンスはプリミティブな快感がある、それはペンライトやキンブレ(電池式の高機能ペンライト)では再現できないものだ。光で暗闇を照らすことに動物的な欲求があるのは容易に理解できるだろう、サイリウムの「物理的に折る/化学的に光る」行為もそれ以上に動物的な快楽に紐付いていて、シュウ酸ジフェニルと過酸化水素を混合させ発光させる化学実験のような楽しさは、「ねるねるねるね」のように酸性値の変化で色が変わったり、水を加えると固まるといった知育菓子が子供に愛されるのと同じところに根源がある。スイッチオンで通電して光るそれは経済的にも演出的にも優位性がある、しかしあのプリミティヴな快感は無い。
Wi-Fiで客に持たせたペンライトやリストバンドの発光をコントロールして会場全体を光らせ演出する技術も大規模ライブで普及してきたが、それは街中のイルミネーションをただ眺めるのと同レベルの話で、ダンスフロアのクラウドから主体性を奪うという意味では非常に気味が悪いとも思う。時代遅れの発想だとは分かっている、ステージ上の演者が唯一の主役ではない、それは同じなのかもしれないが、クラウドの主体性よりも会場の一体感を強く求める時代なのだろう。いつサイリウムイベントを発生させるのか、観客の中の企画者とそれを取り巻く他の観客、演者のステージの進行、それらが間合いを測りあう緊張感、そしてそのタイミングが来た時に慌てて自分も折る、光が天井を照らす、ミラーボールがその光を反射する、そして演者はステージ上の演者にしか見えない光の海を目にする、10分後には光を失うポリエチレンの棒、それらが放棄されないよう回収して周る企画者。それらの一つ一つが機微を持った演出であって、それらを演出家に取り上げられてしまうのは寂しい話だ。
ちなみに三ノ宮ちかによると藤井隆に楽屋で挨拶したら「No1 Sweeper」を踊ってくれた、しかもキレキレで、との事。流石エンターテイナーだ。
- 海辺のサティ(PellyColo Remix)
- 海辺のサティ
- YA•ME•TE!
- アバンチュールは銀色に (GUSTO Ver)
- くるかな
- アビス
- No1 Sweeper
Especia - tofubeats「ディスコの神様」リリースパーティ@代官山UNIT
PERFUME DISPLAY 4K
Especia「海辺のサティ」VHS Edit(「Especia va Bien en Tokyo」@代官山UNIT)
既にEspeciaのオーディエンスショットも4K化。
Especia / No1 Sweeper - Viva Discoteca Especia 2014
西寺郷太
DJは得意の80s縛りという事で超サービス感溢れるプレイ。しかしフロアのテンションは主役の登場待ちで、客は柵に齧り付いてTwitter弄ってて殆ど踊らないのもいつもの事。何故か彼のDJを観る時はそんな時ばかり遭遇してしまう。
Chaka Khan - I Feel For You
Prince - Controversy
Michael Jackson - Billie Jean
NU SHOOZ - I Can't Wait
tofubeats
tofubeatsは今彼自身がメジャーフィールドで通用するポップスとクラブトラックの接点たる存在であることに非常に意識的で、なんというか中田ヤスタカがひたすらPerfumeやきゃりーぱみゅぱみゅにポップソングを書き続けるような覚悟を決めているのが本当に凄えなあとおっさん目線で嬉しく思う。渋谷系世代のおっさんの過剰なアンダーグラウンド/ハイプの概念とか本当にダサいと思うけれどなかなか捨てられないものだから。「Don’t Stop The Music feat.森高千里」と「In Real Life」、「ディスコの神様 Feat. 藤井隆」と「Her Favorite Feat. okadada」のバランス感覚。
曲を切り刻んでがちがちに上げる、しかしシングルカットされる歌心あるコラボ曲には過度に手を加えず、マルチネガールズ達が彼のシングルカット曲の時だけ歌って踊る、それは美しい光景だ。だってここは深夜のクラブなのだから。スノビズムと高年齢化ばかりが進むクラブカルチャーと接点の無かった人達をダンスフロアに呼び込む、彼は今やそういう存在になった。この日はあまりに人をフロアに詰め込み過ぎて、とても好きに踊るどころではなかったけれど、これまでクラブに縁が無かった人達がtofubeatsを入り口にしてこれから先のクラブカルチャーを担ってくれれば嬉しいなとフロアで知り合ったおっさん同士でしんみりする。
tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆(LIVE) ゲスト いけだともこ from Shiggy Jr.
tofubeats - ディスコの神様 feat.藤井隆(official MV)
tofubeats - 「Her Favorite feat.okadada」&「衣替え」
tofubeats - Don't Stop The Music feat.森高千里 / Chisato Moritaka
藤井隆
この日は彼もDJとしてプレイ。歌謡アイドルセットを予想していたら、クールでセクシーな女性ヴォーカルハウス中心で、繋ぎはガタガタだけれど選曲に芯があって凄くいい。もう今からDJ始める人はPCDJでいい、膨大な曲数を持ち運べる時代故に、ミックスはある程度ソフトまかせにして、自分のセンスに場の空気を取り込む選曲テクニックの方に力を入れればいいと思う。
Luomo - Tessio (Stimming Remix)
Nause - Hungry Hearts
Michelle Sorry
80s縛りDJとは言っても今フロアで使える80sという感じの選曲から、Phil Collins「You Can't Hurry Love」がかかった辺りを境に本当にベタベタの80sヒッツ曲固めという恐ろしいセットへ。享楽的過ぎてマルチネガールズ達ドン引き、おっさんと藤井隆を見に来たアラフォー女性達だけが異常に盛り上がる地獄絵図フロア。tofubeats物販タイムで若者がラウンジに上がってしまっている間のお遊びだったのかもしれないけれど。
Swing Out Sister - Waiting Game
Culture Club - Time (Clock Of The Heart)
Junior - Mama Used To Say
Robbie Nevil - C'est La Vie
B2B tofubeats/藤井隆/西寺郷太/Michelle Sorry/フクタケ
最後はDJ陣によるB2B。DJが曲をかけている間、終始藤井隆がステージ上で西寺郷太やtofubeatsを煽って満面の笑顔で汗だくのダンスバトルを繰り広げている、真面目な顔でステップを踏んでみせたり変な動きで笑いを取った後に、バトル相手にもそれをやらせて天丼を延々と続ける。フロアも最後に大喜び。ああこの人本当に凄いエンターテイナーだ。もう朝方の時間帯、すっかり音楽に飽きてしまった、或いは慣れない夜遊びに疲れ切ってしまった今日のフロアの客層を読んでか、イベントの最後の最後までステージ上でのサービスを止めない、飽きさせない。スノッブなクラブカルチャーが随分長い間捨ててきてしまった、音楽の外側にある下世話なエンターテイメント。
藤井隆 - わたしの青い空
Marvin Gaye - Sexual Healing