「パフュームって絶対地声じゃないよね」などの検索ワードでこのブログに辿り着く人がたまにいるようなので、声を加工する定番の手法をちょっと書いておく。
テープの回転数を変える
録音時にテープの回転スピードを下げ、再生時には通常の回転速度に戻すと高音のユーモラスな声に。もちろん逆も可能。
1967年に280万枚を売り上げる大ヒットとなった、ザ・フォーク・クルセダーズ「帰って来たヨッパライ」。
1990年、あんしんパパ「はじめてのチュウ」。
随分前に「一青窈のピッチを落とすと平井堅になる」というのが話題になった。
トーキングモジュレーター
別名トークボックス。シンセサイザーやギターの音を特別なアンプを使ってビニールチューブの中に通し、そのチューブを口に咥えて発声すると、共鳴して不思議な音に。
80年代に活躍したファンクバンドZAPPのRoger Troutmanが一番有名どころ。
「ロボジブリ」なるCDが出ていたりする。
横浜Pan Pacific Playaレーベルのトーキングモジュレーター使い、Luvraw & BTB「On the Way Dawn」
ヴォコーダー
声を電気的に変調させる装置。ヴォイスチェンジャーは声が変わるだけだが、ヴォコーダーになるとその変わった声をさらに鍵盤で演奏できたりする。
Perfume「ポリリズム」のヒットまで、永らくの間日本における声の変調例の代名詞だった、1979年、YMO「Technopolis」。ヴォコーダーはROLAND VP-330。
1979年かな?ミュンヘンディスコのプロデューサーGiorgio MoroderがMOOG Vocoderを使う映像。1分30秒から。
テクノにおける歌声の加工は一つの美学。この分野の先駆者たるKraftwerkのライブでは、ステージに演奏者すら置かない時期も。
Kraftwerk - The Robots (live)
AutoTune
一般的に言われる「Perfumeみたいな声」はこれを使ったもの。
Antares Audio Technologies社が1996年に発売した音程補正用ソフトウェア「AutoTune」。そもそもは歌声を補正するソフトで、どんな下手な歌でもこれで綺麗に補正できるので、プロのミュージシャンもそれと分からないように使っているのだが、補正の設定を極端にすると、いわゆる「ケロケロ声」になる。Celemony社の「Melodyne」なども同様の機能を持つ。
1998年にCher「Believe」がヒット、この独特のサウンドが知られるように。
2001年、電気グルーヴ「Nothing's Gonna Change」。この頃は声の加工をあれこれ試していた時期。KATENA Document Talkerに喋らせたり、DIGITACH Vocalist、ANTARES ATR-1、EMS Vocoder2000などを通したり。
2001年、Daft Punk「One More Time」。DIGITACH社のTalkerとAutoTuneの組み合わせ。
2005年、T-Pain「I'm Sprung」のヒットで、Hip Hop界にも普及。Kanye Westを筆頭にあまりにも流行りすぎて、2009年にはJay-Zが「Death of Autotune」という曲を出すまでに。*1
Perfumeの近未来三部作も2005年にスタート。AutoTuneと、同じくANTARES社のコーラス生成ソフトウェアHarmony Engineによる重奏コーラスの合わせ技。この声が広くお茶の間に届いた「ポリリズム」が2007年。当時のJ-POPシーンではまだ声にエフェクトがかかっている事自体に拒否反応が強く、「無個性」「誰が歌っても同じ」などと、あれこれ見当違いの文句を付けられたりもしたものだ。
歌声を加工するのは、一つの表現手法に過ぎない。ギターにディストーションやワウなどのエフェクターをかけるのと同じ事。こんな事に目くじらを立てるなら、一生アンプラグドだけ聴いてなさい。
おまけ:コンピューターによる音声合成
参考までに、人間の声を加工するのではなく、コンピューターに歌わせるパターンも。
1961年、コンピューターとして初めて歌ったのは、アメリカのベル研究所の「IBM 7094」。曲は、1892年に作られたHarry Dacre「Daisy Bell」。1968年の古典SF映画「2001年宇宙の旅」で「HAL 9000」コンピューターが歌うのもこの曲。
歌は1分5秒から。
1984年、科学万博つくば85イメージソング、TPO「HOSHIMARUアッ!」。コスモ星丸がコスモ語を喋っているが、残念ながら当時の国産パソコンでは実現できず、Apple IIと、音声合成カード「Echo-II」が使われた。
テキスト読み上げソフトウェア(「TTS」、Text-To-Speech)を使った、Cylob「Rewind!」、1999年。TTSによるラップは50秒から。いやーこれかっこいいなあ。
2004年にはYAMAHAの音声合成ソフトウェア「Vocaloid」が発売され、そしてそのシリーズから、お馴染み「初音ミク」が発売されたのが2007年。技術的には目新しいものではないものではないにもかかわらず、単なるソフトウェアを超えてここまで大きくなるとは。Perfumeのブレイクと同タイミングだったので、なにかと比較されたりもしたなあ。
小林オニキス「サイハテ」