Aerodynamik - 航空力学

はてなダイアリーからはてなブログへ移行中

観覧記録 鈴木妄想「新大久保とK-POP」出版記念イベント@新宿タワレコ

http://d.hatena.ne.jp/magma890/20110820#1313873281
http://tower.jp/store/event/4464

  • 110819 鈴木妄想「新大久保とK-POP」出版記念イベント@新宿タワレコ7F
    • 鈴木妄想
    • ダンスカバーグループ(CNSD、M;name、4C)


テレビしか見ない人には伝わっていないのだろうが、最近のフジテレビに対する「韓国エンタメのゴリ押し偏向報道への批判」はネット上で非常に盛り上がりを見せている。自分は基本的にテレビはニュースしか見ないのだけれど、それでもたまにPerfumeが出るからと「HEY!×3」を見ようと調べれば毎週K-POP特集をやっていて、朝の出勤前に「めざましテレビ」を見ればK-POP芸能ニュース。休日になんとなくテレビをつけたらソウルグルメツアー。朝から晩まで「美脚」だのなんだのと、ごくたまにしか見ないのにこれだけK-POPが溢れていて、なおかつフジテレビ子会社がK-POP関連の権利を相当量保持しているとなれば、従来からの嫌韓感情や、メディア不信などと綯交ぜになったものが一気に爆発してもしかたがないと思わせる位だ。韓流ゴリ押しに限らず、映画ファンにとってみれば、テレビ局が作った安っぽい映画を朝から晩まで宣伝している時は本当に目障りで、自浄作用の働かない自社コンテンツの限度を超えた押し売りは、誰しもが不快に思うのだろう。


それはそれとして、鈴木妄想氏(id:magma890)が「新大久保とK-POP」という本を出版することになった。自分と同世代の妄想氏は、自分と同じように90年代にテクノの洗礼を受けつつ、Perfume経由でBEE-HIVEにどっぷりとはまり、そしてアイドルからなにから何でも面白い音楽を物凄い勢いで雑食しているプロレスオタ。彼が少女時代をYoutubeで「発見」したのは2008年7月、Perfumeが「GAME」で盛り上がっているころだ。以来、TwitterやブログでK-POPのやばさと面白さを猛烈な勢いで発信し続けてきた。


KARAの日本デビュー、少女時代の有明コロシアムショーケースなど、メディアが派手に「K-POPブーム」を宣伝し始めたのが2010年の夏頃だったが、それ以前のK-POPは、得体のしれない色物でしかなかった。自分たちの世代でいうと、ポンチャックイ・パクサ電気グルーヴ経由で発見して面白がって聴いているのと、感覚的にはそんなに差はなかった。つまり、エンタメ辺境の地に、めちゃめちゃ面白い色物があるぞ、という。時期的な話でいうと、Perfumeのような欧州エレクトロ+J-POPスタイルがまだ珍しかった頃に、モデルのような人達が束でUSエレクトロを経由したポップスで踊っている、それはとても奇妙で、とても面白かった。当時はメディアのゴリ押しなど全く関係なく、ブレイクする前のPerfumeを見つけた嗅覚のまま、YoutubeK-POPをDigする感覚を楽しんでいた。
だから、「今」の状況は本当にはた迷惑でしかない。おまけに、頻繁に来日公演があって、連日テレビでその姿を見れる、それはファンにとって嬉しいことなのだろうが、テレビで目にするK-POPは、ターゲットとするF1層の女性向けにカスタマイズされた、小奇麗でつまらないものだ。根本敬「ディープ・コリア」に描かれたような、とても泥臭く、厚かましく、生々しく、そして笑えるほどの狂気に満ちた、過剰なまでにパワフルな「剥き出し」、それが韓国であって、映画ファンの自分には、むしろ最近多数輸入されている韓国産の異常な残虐ホラーこそが、韓国マインドをよく表していると思う。最初から日本向けに作られた、北関東的トランス音色とメロディー、パラパラを取り入れたKARA「GO GO サマー!」なんて、かえって日本の駄目な方面の文化を取り込んだ結果できた「ゴミ」だ。K-POPを小奇麗にして宣伝することしかしないメディアの前では、ゴリ押ししたはずの4Minuteは全然売れないし、2NE1のデビューが遅れに遅れて、デビュー盤も大した売り上げが出せないでいる。そういう意味では、女性グループの中で、日本のF1層向けにカスタマイズされた少女時代とKARAだけが日本で極端に売れるというのは、メディアのゴリ押しで作られたブームであっても、確かに「ブーム」なのだな、とは思う。あと、メディアの仕掛けた大ブームの中で、東方神起だけは別口だ。東方神起には、ジャニーズ流れのファン層が一定量いて、これは早くから強固な地盤を築いていた。東方神起の人気は、ゴリ押しブームとは関係ない。




K-POP本なのに、「新大久保とK-POP」では、ネットの嫌韓感情や、過剰なゴリ押しブームに対する違和感にもきちんと触れている。そこは普通のメディアであれば絶対に避ける所だろう。そして、アングラな時代からK-POPを楽しんできた人達のリアルな声を沢山載せている。また、新大久保については、韓流グッズ店と人気の焼肉店をミーハーに紹介するのではなく、泥臭い小さな個人商店や、イスラム系レストランなど、自分の足で得た生の空気、そして、戦後に多国籍街が形成されていく経過などを生々しいインタビューを交えて綴っている。ブームに乗って各社から多数出版されているK-POPガイド、新大久保ガイド本とは全く趣を異にする、本当にリアルな視点から書かれた、日本におけるK-POPについての信頼できる一冊だ。


新しい面白ネタを雑食しまくる鈴木妄想氏、今はK-POPよりも、インドネシアのポップスを掘る事にはまっているという。その行動力と雑食性には感心させられるばかりだ。




※参考
クラブミュージック好きにオススメするK-POP11選
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20101226/p1