2011年の夏位だったか、Perfumeもももクロも路上で見ていたような耳の早いアイドルオタ達が一斉に仙台と福岡に遠征し始めて、そこで見たものを熱く語りだした。仙台のローカルアイドル「Dorothy Little Happy」のavexからのメジャーデビューは2011年3月16日で、震災により全てのプロモーションが無くなり、2か月ほど活動が止まった。その頃に福岡の「LinQ」が活動を始める。11月には、タワレコのアイドル専門レーベルT-Palette Recordsに移籍し全国デビューを果たす。
LinQはとにかく楽曲がいい、という話が先行して、既に楽曲制作部隊のインタビューをいくつか読むこともできる。*1 *2 一方で、本拠地福岡では、完全にAKB以降のアイドルとして、あまりにもシステマチックな接触物販や、客の投資やTwitterのフォロー数、ブログのコメント数などが数値された上に公表され、その順位が選抜に反映されているといった、生々しいアイドルの実態も聞こえてくる。
タワレコ嶺脇社長のおかげで、何度かLinQも都内でライブを行っている。基本的に平日ばかりで、東京に来るときは遠路はるばる長距離バスでやってきたけれど、物販の売り上げが良かったので帰りは飛行機で帰ります、そんな微笑ましい話を横で聞いていたが、今回のシングルリリースイベントで、ようやくLinQを目にすることができた。
総勢30人を超える大所帯は、東京班、名阪班に分かれてプロモーションを行っていた。熱心なファンに聞くと、今回の東京班はビジュアルに強く、名阪班はパフォーマンス重視だという。その東京選抜メンバーを記録として書いておくと、「一ノ瀬みく/深瀬智聖/秋山ありす/杉本ゆさ/岸田麻佑/姫崎愛未/城崎はるな/大石芽依/吉川千愛/坂井朝香/瑞稀もえ」だった。とりあえずこのメンバーだけを見て感じたのは、全員キャラも可愛らしさのベクトルも全くバラバラだということだ。似たような美人さんばかりそろえた結果一見さんには見分けがつかないグループも少なくないが、ここは特に大所帯だがキャラ分けを徹底しているという。
楽曲は、オーセンティックなアイドル歌謡の枠を外さずに、その質を高めたような印象で、Perfumeやももクロのように異端的であったりダンストラック的なものを求める人にはやや退屈な上品さかもしれない。トランスっぽかったり、ドラムンベースな楽曲まであるのだが、エッジの立った下世話な部分は欠片もなく、リズム感もダンストラックのそれとは根本的に違うのだ。(さらに言うと、Dorothy Little Happyはさらにオーソドックスな印象。) しかし、この「歌謡曲としての上質感」は、所謂スルメ的に効いてくる。腰よりも頭で聴いてその良さが分かってくると、なんだか得も言われぬ充足感がある。それは、トラッドファッションを身に付けるときの感触に似たものだ。
LinQメンバーのパフォーマンスはカッチリ揃えられたものではなく、わりと雑然とした感触があり、動きもそれほど激しくは無い。しかしトレーニングされていないのではなく、個性に任せている余裕さがある。時間のゆったりと流れる地方ゆえか、前のめりのメンバー達もおらず、グループ全体にのんびりまろやかオーラが漂い、「オーセンティックで上質なアイドル歌謡感」と非常に相性がいい。これは現場で見なければ分からなかった。また、殆どの楽曲のブリッジ/Cメロあたりに入れてあるギターフレーズが、現場で聴くと思いのほか気分を高揚させることに気づく。オタに言わせると「ケチャポイント」から、曲の後半に加速度的に気分が高まるのを味わえる。無条件に腰が動くタイプの曲でもなく、パフォーマンスをがっつり見せる訳でも無いが、アイドルを目の前にして「高まる」ということにとても意識的になる不思議なステージだった。
20歳を境に、下を「LinQ Qty」、上を「LinQ Lady」とチーム分けしており、可愛らしさ/セクシーさではっきり色を分けているのも珍しい。それぞれのチームにとても目が印象的なメンバーがいて、CD購入引換券で写真がもらえるというので一部/二部で二人の列に並んでみたが、どちらも1分以上あっただろうか、写真に書き込みをしながらそれはもう慣れた感じで話を振ってくれ、話ベタな自分でも困らない一対一のトークスキルのプロフェッショナルな感じにしばし圧倒された。福岡の定期ライブでは、500円で買えるLinQコイン一枚(遠方客は1コインサービス)で3分の写真書き込み&トークをやっていると聞き、グッズ購入&握手でなく、販売単価や原価、コレクション性をも考慮された、写真書き込みとトークという所がAKB以降のシステマチックな接触商売なのかと怖くもなった。
それこそさくら学院のような極度の洗練もなく、一方でガツガツもきゃぴきゃぴもしていない、清楚というより素朴でどこかのんびりと落ち着いた雰囲気、それでいて個性の分かり易く親しみのあるキャラクター。踊るよりも聴いて楽しむ楽曲群。確かに他にはない集団だ。嵌る人は何度も東京から福岡まで足を運んでいるが、その魅力の片鱗が見えたような気がした。
二部
CD化が待ち遠しい「Wake Up」