Aerodynamik - 航空力学

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中田ヤスタカ「5分の曲って5分でできる」「レコーディングこそライブ」、その驚異的な作曲スピードと録音スタイル@Marquee Vol.90

http://www.marquee-mag.com/


まず、前提として、中田ヤスタカは「曲のストックは作らない」。*1 中田ヤスタカが作曲スピードと録音スタイル、そして非常に珍しい事に「Perfume」のレコーディングについて語った、Capsule「STEREO WORXXX」リリースインタビューより。

−昔はもっと「ビジュアルも音も一人で全部計算して作っている」みたいな感じだったと思うんだけど。世の中的にも完璧主義っていうイメージはあると思うんだよ。でも、もしかしたら最初からそうでもないのかな?意外とその場その場の感覚で動いているような気もするんだよ。


中田:何かを目指して作ってるわけではないから。作りながら考えて形になっていくものじゃないですか。最初に「こういうの作りましょう」って…。作ってもいないのにそう思う時点で大したアルバムじゃない(一同笑)。そういう意味では毎回Capsuleは危ういバランスです。あと2週間あったら、2、3曲はボツ。アルバムの中心って日々どんどんずれるんで。ある時点で「ここ中心にしよう」って決めても、それ長い目で見るといずれずれるであろうものなので。だから締切が無いと永遠に完成しないかもしれない。

自分の最新の興味こそが彼にとって重要であり、事前に立ち上げたコンセプトなど意味は無い。異常な速度で変化を要求し続けるクラブミュージックシーンのように、数週間の間に趣向が動けば、数週間前に自分がOKを出した曲でも、少しでも「ずれた」と感じればボツになる。クラブミュージックとは対極の、オーセンティックでエヴァーグリーンな音楽を好む人達には、理解されがたい考え方だろう。


そして、その「今」の感覚への拘りは、自身のプロジェクトCapsuleだけでなく、今や巨大プロジェクトになってしまったPerfumeにですら徹底される。

中田:例えば、数日前、Perfumeのレコーディングしたんですけど。レコーディングが夜で、その日の昼から曲を作ったりして。大体は当日か前日の夜に作ってるんですよ


−そうなの?


中田:そうなんですよ、Perfumeの場合。Capsuleも当日の事が多い。具体的に言うと、例えば、夜20時からPerfumeのレコーディングだとすると、当日14〜15時くらいに1曲パッと作って。16〜17時にもう1曲作って。それで2曲目の方がいいと思えば「こっちにしようかな」って歌詞を書き始める。で、18時くらいに「まだ2時間あるな」って思って、もう1曲作るんですよ。で、19時半くらいのタイミングで「3曲目の方が全然いいじゃん」ってなったら、20時って言ったけど「21時にしてください」って歌詞を書く。 だから「前日から作る」とか「当日に作る」って言うと「とんでもねー奴」と思われがちなんですけど。違うんですよ。例えば、前日にメロディと歌詞を何曲書いても、当日にまた作れちゃうわけ、当然。当日も3曲くらい作ってるんですよ。で、そっちの方がいいに決まってる。いつも新しい奴が好きだから。メロディなんてアドリブで弾ける。だから5分の曲って5分でできるんです。(一同どよめく)


−そうなんだ…。そんなんでやってるんだ。で、どんどん作って、どっちがいいかパッと判断してるんだ?


中田:そうですね。やっぱり「おっ!」っていう所が無いと。「もっと良くならないかな」ってウンウン言いながらやりたくない。そういうのはそもそも良くない曲だから。それなら違う曲を作った方が早いし。「曲ができない」ってことはないので。で、レコーディング始めた時の音がピンと来なくても、アレンジしながらレコーディングするんで。Perfumeの場合、1人目が歌ってる時と2人目の時とではオケやコード進行が違う事は結構ある。だから「今日のとりあえずの聴きますか」っていう時には「歌録り始めた時と全然違うじゃん」っていう

「今自分が面白いと思うもの」に拘った結果、例えPerfumeという大きなプロジェクトの仕事であっても、作曲が始まるのはレコーディングに入る5時間前から。そして歌詞もそこから書き始める。余裕があればまた新しい曲を書き、そちらが気に入れば、レコーディング開始を1時間遅らせてそちらの歌詞を書く。Perfumeの声を録音しながらも、リアルタイムにオケやコード進行は変化し続け、締め切りが来るまでアレンジの変更は止まることが無い。




ヤスタカの作曲/レコーディングスピードについて、他者からの言及を見てみる。Perfumeの直近の言及。

What's IN 2012年5月号

あ:最近、超スパルタなんですよ(笑)。カップリングの「コミュニケーション」なんて、歌入れまで3回しか聴かせてもらえなくて、「ああ、まだ覚えてない〜」って状態なのに、「はい。じゃ、いくよ」って。


か:そうそう。「Spring of Life」は前もって音源を聴かせてくれてたけど。


あ:中田さんの中で想像が出来上がっていて、早く録りたくてしょうがないのかな、嬉しい事ですけどね。

Perfumeがレコーディングスタジオ入りする直前に曲を書き、その場で歌詞を渡して楽曲を数回聞かせて、即録音。メロディの変更などは後からAuto-Tuneでどうにでもなる。ただ、歌入れ後の歌詞の変更や追加ばかりはどうにもならない。「トライアングル」録音時に、多忙すぎるPerfumeは音入れ後に直ぐ帰ってしまってそれきりだったが、ヤスタカとしては「本当は最後までいてほしかった」と漏らしたという。


そして、MEGの言及。MEGの国内音楽活動休止も、ヤスタカのこの尋常ならざる作業ペースが一因だった。ポップなスタイルを目指そうとするとヤスタカの作業ペースに付いていけなくなり、「もっと作詞に時間をかけたい」と中田ヤスタカとの仕事を休止させた。


ナタリー Power Push MEG

−MEGさんは2010年に国内での音楽活動を休止して、フランスに拠点を移しましたよね。まずはそのときの状況から教えてもらえますか?


MEG:2010年の9月にベスト盤を出して、10月のバースデーライブを最後に休止したんですけど、そこまで結構リリース続きだったんですよね。中田(ヤスタカ)くんが作るの速いからっていうのもあるんですけど、3週間でアルバム1枚分、歌詞を書いてレコーディングする、みたいな感じで。


−かなりのハイペースですね。


MEG:それで「MAVERICK」っていうアルバムのときに、音楽的にはクラブミュージックというより、もうちょっとポップなほうに寄り始めてて。そうなると言葉が際立ってくるっていうか、その分言葉を慎重に選ばなきゃいけなかったし、そうなるとやっぱりこのペースは無理だなって思ったんです。もうちょっと時間をかけないとまずいぞって。


−エレクトロのビートに乗せる歌詞なら、ある程度勢い重視で行けたのに?


MEG:と言うより、ポップス寄りのものを作るにあたっては、もうちょっと歌詞に時間をかけないとダメだし、自分の中に広いテーマのストックがないと納得いくアウトプットができない。それで「MAVERICK」を作ってるときから、次のベスト盤のところでひと区切りつけてちょっと休もうと思ってたんですよね。


http://natalie.mu/music/pp/meg


ヤスタカのインタビューに戻ろう。

中田:レコーディングをレコーディングと思ってないんですよね。世の中でいう“レコーディング”って決まってることをやっていくじゃないですか。でも僕はやっぱりアレンジとかレコーディングとか演奏、全てひっくるめて作曲だと思ってるんで。作曲をまだしてるところなんですよ、レコーディングでは


−それもかなり佳境だよね。


中田:そうなんですよね。Capsuleにとってレコーディングこそライブ。

アレンジやレコーディング、演奏も「作曲段階」。


システム開発に置き換えれば、ウォーターフォールモデルによる開発ではなく、アジャイル型のプロセスだ。開発工程が進むことで必要な要員とスキルは変化していくが、反復型開発プロセスでは、常に上流から下流まで、全工程分のスキルを確保しなければならない。作曲家の先生と作詞家の先生、スタジオミュージシャン、歌い手、レコーディングエンジニア、全ての要員を「全期間」にわたって確保し続けることはあまりにも困難だ。
また、スケジュール的な締め切りが来る最後の最後まで、最新の自分の趣味を反映しようとアレンジを弄り続けるスタイルも、システム開発においては多大な負荷になる。それは納期直前まで、客の要望を組み込み続ける事であり、「終わらない要件定義」は、結果としてコストの肥大化とスパゲティプログラム、そして大量の死人を生む。開発コストとは人件費そのものであり、スケジュールもコストも連動する。要求レベルも明確でないプロジェクトに、終始Perfumeの3人の貴重なスケジュールを縛り付けておくことはできない。


要件定義から、設計、プログラミング、テスト、あらゆる工程を全て一人でこなすスーパーエンジニア、時間貸しではなく自前の開発スタジオ、Perfumeの声入れが終わってしまった後でも前工程に立ち返り、好き放題にメロディを弄れるAuto-Tune、そういった環境が揃ってこそ、ヤスタカの理想のレコーディングスタイルは実現される。YMOも、AlfaのA Studioを占有し、レコーディングも、作曲とアレンジと演奏を同時並行で行うため、デモトラックは存在しなかった。しかし、これは当時極めて特殊な例だ。
DTM環境の進化により自分一人で全工程を完結させる環境が整い、「ベッドルームレコーディング」という言葉が生まれたのが90年代。そしてヴォーカルですら一度録って後は加工というスタイルが可能になった。そういった時代に、納得がいくまでアレンジを続けていい、となれば、締め切りが来なければいつまでも曲を弄り続けるだろう。しかしヤスタカが特殊なのは、いくら時間をかけても、それではその曲は「今」という旬を過ぎてしまうから、曲は録音直前に作り、時間が経てば捨ててしまうということだ。「ベッドルームレコーディング」は自分の理想の究極を目指すための「持久型」環境であるが、その環境を使って、ヤスタカはひたすら「瞬発力」で勝負をし続ける。




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