「注目のクリエイター」関和亮インタビュー@PUBLIC-IMAGE.ORG
http://public-image.org/interview/2011/01/11/kazuaki-seki.html
文化庁メディア芸術祭以降、サカナクション「アルクアラウンド」とPerfumeの二枚看板でのインタビューが増えた関氏。Perfumeのブレイクを見守ってきたような感触で、関氏のブレイクを見つめているPerfumeファンも多いことだろう。
映像系専門学校からトリプル・オー入社、ミュージックビデオのADとスチール撮影アシスタントから映像ディレクターへ。
−ターニングポイントになった仕事などがあれば教えてください。
関:Perfumeの仕事を始めたタイミングですね。ある程度自分に任せてもらえた作品で、それをまとめられたというのは自信になりました。もともと別の仕事でつながりのあった人から、「女の子3人組のアイドルなんだけどやらないか?」という声をかけてもらって、何も資料を見ずに直感でやると答えたんです。それまでは3ピースのバンドや歌手などの仕事が多かったので、3人の女の子というのが自分には新しいステージに思えたんですね。
−Perfumeの仕事では、最初からグラフィックなども担当されていたのですか?
関:もともとはCDジャケットのアートワークを担当したんです。その時にいいものを作ることができたので、今度は映像をやらせてほしいと話したんです。その頃は、僕が映像を主にやっているということをクライアントさんは知らなかったんです(笑)。その次にジャケットと映像を両方やって、それも気に入って頂けて、そこから継続的にやるようになりました。1組のアーティストとこれだけ長く関われるというのは貴重な機会だと思っています。
関氏がPerfumeの仕事に参加したのは「モノクロームエフェクト」のアートディレクションから。よく勘違いされているが、「モノクロ」ジャケットデザインは、同じTriple-Oの高橋義徳氏がクレジットされている。
ピンクを基調としたベタベタなまでのローティーンアイドル志向のデザインであった「スウィートドーナッツ」(時代背景としては「プッチモニ」「ミニモニ。」全盛期がある)から、関氏がTriple-Oとして参加して以降のシングルは、一転してシンプルで温度の低いデザインに変化する。「モノクロ」でのアートディレクションが評価され、次の「ビタミンドロップ」では自らの進言で本職であるPVも、となるのだが、さっそく見せた正面固定の美学とは裏腹に、なぜあのようなアニメパートが導入されたのかは今一状況が分からないところでもある。
なお、「モノクロ」「ビタミン」のジャケット写真はまだ関氏ではなく、アイドル仕事ではAKB48「ポニーテールとシュシュ」「桜の栞」「RIVER」などのジャケット写真などを手掛ける森崎恵美子が撮影している。写真も含めて全面的にTriple-Oがヴィジュアル周りを請け負うのは「リニア」から。
−いまや関さんが作る世界観がPerfumeのイメージを形作る大きな要素になっていると思いますが、アートディレクションの方向性などはどのように考えていたのですか?
関:明確にこうしたいということよりも、他とは違う女の子像を作っていきたいという思いがありました。ただ可愛くしたり、派手にしても、そういう女の子のアイドルはたくさんいるわけで、そこで勝負してもしようがないなと。音楽性も面白かったし、単純にカワイイというよりは、カッコイイ方向に持っていこうという意識はありました。
−メンバーの3人とは毎回どのようなやり取りをしているのですか?
関:初期の頃は、こちらが提案するものをやってもらうということが多かったですね。その後しばらくしてからは、ある程度楽曲ができた段階でメンバーみんなで集まって、次はどういうことをやりたいかという打ち合わせをしています。最近だと、まず本人たちに意見を聞いて、それを拾って僕が形にしていくということが多いです。彼女たちの人気が出てくるにつれて、ミュージックビデオもYouTubeやWebでスゴく盛り上がるようになりました。Perfumeの場合、CDを聴くだけじゃなく、彼女たちの踊りなど視覚的にも楽しめるところがたくさんあるので、毎回面白いことをやっているねと思われるようなものを作っていこうという意識はありますね。
ここでいう「最近」がどの辺りを指すのかが気になるところだ。「不自然なガール」以降だろうか。制作に入る前に、Perfume自身による「提言」の場が持たれ、Perfume自身の意見を作品に反映させようとする動きが、2010年において楽曲/PV共にあったことは偶然ではないだろうし、「作詞希望」の件も、この延長線上にある動きなのだろう。*1 アイドル自身が制作に積極的に発言する、この流れが何を生むのか、なかなか興味深いところだ。プロにはプロの領分があるし、また一方でPerfumeの三人もプロフェッショナルだ。ここに抵抗を感じるとすれば、それは90年代に何か悪いものでも見たのだろう。
楽曲制作に関しては提言はしたものの、結局は「中田ヤスタカに従う」という方向性に回帰したようだが、*2 関PVに関しては、まず三人の意見を取り入れるところから始まり、PTA Movieでも積極的に意見を出している所が窺える。言わば対極の関係性だ。
−ミュージックビデオを作っていく際のプロセスを教えてください。
関:やはりまずは楽曲を聴いて、そこに入っている音から何をピックアップできるかを考えていきます。打ち込みの音ひとつ取っても色んな音色があって、たとえば光がパンと光っているようなイメージの音があるときは、ミュージックビデオでも電球を使おうとか、そうやってイメージを広げていきます。あとは普段何気なく過ごしているときに、単純な興味から「こういうことをやったらどうなるんだろう?」ということが色々あるので、そういう自分が単純に見てみたいと思ったことをやってみることもあります(笑)。
−関さんの作品は、現場で撮影してみるまでどう転ぶかわからないような設定が多い気がします(笑)。出演するミュージシャン側のハードルも高そうですね。
関:もちろん、まったく算段なくやることはないのですが、色んなことを(ミュージシャンに)チャレンジしてもらいたいというのはありますね。前に撮ったPerfumeの「VOICE」でも、メンバーが色んなものにトライして、クリアしていくような作品を作りました。本人たちから、何かにチャレンジしたいという意見が出ていたこともあり、そういう姿勢をミュージックビデオの中で表現してあげたかったんです。
「VOICE」PVは完成品としての「結果」であり、「トライしてクリアしていく」という過程を補完する映像はPTA Movieで限定公開された。あれを観た後ではこのPVに対する評価は全く異なるといってもいい位の映像でもあり、あのようなメイキング映像を一つのドキュメントとして細かく残しておいてほしいと毎度のことながら思う。
−映像、スチール、デザインと一人何役もこなすメリットはありますか?
関:音楽の話で言うと、やはりCDジャケットとミュージックビデオのリンクを意識せずにできるというのは大きいと思います。例えば、ミュージックビデオだけの仕事の場合、CDジャケットのイメージを意識しないといけない時もあるので、そういうことを考えずに作れるというのは大きな利点だと思います。
トータルデザインという発想を、分業制が極端に進んだアイドル業界で打ち出すことは非常に難しく、それであるがゆえに、近未来三部作以降において一貫したデザインコンセプトを任される専任のアートディレクターが存在したことが、Perfumeをより際立たせた、というのは言うまでも無いことだろう。