Aerodynamik - 航空力学

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中田ヤスタカ楽曲大賞2012に投票するよ

http://ystkma.blog.shinobi.jp/


きゃりーぱみゅぱみゅが短期間でここまで「大衆」へ波及する成功を収めることを、昨年のCDデビュー時点では正直予測できなかった。たった一年で、武道館公演と紅白出場を一気に達成してしまった。物語を紡ぐ暇すらなかった。ポップアイコンとしての成功に、日本有線大賞特別賞や日本レコード大賞特別賞まで付いてきて、ヤスタカ自身も日本レコード大賞編曲賞を受賞した。その年の紅白では、ヤスタカが書いた曲が二曲も選ばれることになった。こちらの想像を遥かに超える仕事を成し遂げたヤスタカだったが、2012年の彼の仕事の中で最も印象的だったのは、きゃりーぱみゅぱみゅに対してそのキャラクター設定ワードとして付与した「ファッションモンスター」というキャッチコピーの完璧さだった。「原宿系/青文字系カリスマファッションモデル」などの解説を一切せずとも彼女の存在を「大衆」へ向けてこれほど明快に定義し加速させ伝達する表現は他に考えられない。そしてそのコピーを冠した楽曲と彼女のヴィジュアルは、ユニクロよりも更に低価格な、絶望的なデフレ下の象徴として生まれた「g.u.」ブランドのCM上で前田敦子の枠を奪って連日流され、一気に大衆的な認知度を獲得した。あっという間のキャズム越え。音楽と言葉のインパクト、フレッシュでキャッチーであることの美しさをシンプルに体感した一件だった。


中田ヤスタカ楽曲大賞、対象楽曲数は、07年/64曲、08年/73曲、09年/34曲、10年/59曲、11年/31曲、12年/51曲。今年も多作。ワーカホリックだの燃え尽きだのと外野が心配するのも無意味な多作っぷり。つんく♂も2012年中に70曲近くの作詞作曲を手掛けているハイペース男だが、コードとメロディーまで作って後は編曲家に任せるのと、ヤスタカのように編曲録音ミキシングマスタリングまで全てを手掛けるのはまた別の地平だろう。多作プロデューサーといえば、ヤスタカと同世代、プロデューサーとして引っ張りだこの前山田健一が時折「天才」が故の孤独さと悲壮感を見せるのが妙に心に刺さる時がある。



楽曲部門 (持ち点10pts、上限3pts、最大6曲)

楽曲   配点  
Perfume /
Spring of Life
Spring of Life 3 海外への名刺となる重要な一曲として、ここまで前向きで明るく開放的、尚且つ力強い曲を出してきたという頼もしさ。これまでになくタイトに絞った低音域の中で、かつてないほどに複雑に踊るベースライン。レコード会社移籍という大きな節目、より広いフィールドへ飛び出して行こうとするPerfumeを新鮮に描いてみせた一曲。
capsule /
In The Rain
STEREO WORXXX(ボーナスディスク付) 2 アッパーな楽曲群の中でコード感を渋く抑えたハウストラック、そこからVangelis的に広がるシンセが心地いい。ディープハウスミックスのアクセントとして朝方に使っても映えそうなくらいにエディットしたい欲をそそられる。
きゃりーぱみゅぱみゅ /
つけまつける
ASIN:B0060GQ278:image:small 2 一度聴いたらしばらく耳を離れなくなり、気付けば延々とサビを口ずさんでいた、気味の悪いほどのキャッチーさと中毒性。そして「つけるタイプの魔法だよ」という言語センスの秀逸さ。
capsule /
All The Way
STEREO WORXXX(ボーナスディスク付) 1 トライバルな音色と跳ねたベースライン。「Tapping Beats」にも顕著だが、ヤスタカがスピーカーをYAMAHA NS-10MからGENELEC 8040Aに変えてから、ベースラインに対する姿勢が随分と変化しているのがとても面白い。
山下智久 /
Baby Baby
ASIN:B0089Q8CI4:image:small 1 山下智久本人のキャラクターやファン層の好みからは外れるかもしれないが、ヤスタカ楽曲の中でも甘い切なさと哀愁を湛えるこの手の曲は、山下の様な儚く移ろうアイドル性と非常に相性がいい。この路線でもっと男性アイドル/ジャニーズへの楽曲提供があればいいのに。
Perfume /
Hurly Burly
Spending all my time 1 これまでの「ポップでキャッチー」なPerfume的体裁を取りつつも、なかなか解決しない不穏な展開で構成されており、非常に異様で不穏なポップソング。微妙にシャッフルしたリズムと合わせて、他の曲にはない妙な孤高性がある。

世界的なヒットとなったAlexandra Stan「Mr Saxobeat」のリミックスはかなり期待していたのだけれど、原曲にはかなわなかった。


2012年のヤスタカサウンドでもっとも変化が起こったのは、やはりベースラインだろう。単調なオクターブをグルーヴの基礎とするエレクトロ的なベースから、タイトかつファンキーにベースラインが「踊る」ようになった。何が彼を変えたのかといえば、彼自身が言うように、スタジオのモニタースピーカーをYAMAHA NS-10MからGENELEC 8040Aに変えたことが最大の要因なのだろう。モニタースピーカーはどこまでもニュートラルであることが要求されるもので、定番のモニタースピーカーを変えたことによって何故音がこんなにも変化するのか疑問に思いスピーカー屋に聞いたところ、GENELECの8000シリーズは、小型にも拘らず低音域の表現/輪郭/定位を非常にはっきりと見せるとの事だった。低音域に凝れば凝るほど面白いようにその反応がはっきりと見えるなら、そこに拘る意義が見出せるというものだ。



ミュージックビデオ部門 (持ち点5pts、上限3pts、最大2曲)

楽曲 監督   配点  
Perfume /
Spending all my time
田中裕介 Spending all my time 3 楽曲から想起させるEDMの下世話なイメージを完膚なきまでに塗り替える、強烈なSci-Fi記号の固め打ち。サイバー要素を使わずSF/テクノを表現するテンプレのオンパレードと、タッティングのみで構成された神経症の様なダンス、これを一度でも観てしまったら、PVの印象を抜きにしてサウンドのみを語れる人は誰もいない、圧倒的な作品。
きゃりーぱみゅぱみゅ /
つけまつける
田向潤 ASIN:B0060GQ278:image:small 2 「PONPONPON」に続いて、国内よりも海外のポップカルチャー好きへ、極東のカルチャー幻想に強烈に訴求した素敵な作品。「オーケー、これが日本の日常だ」「お前らすぐにLady GaGaの影響とか言うけど、原宿カルチャーはずっと昔からこうだろ」というやり取りがループするYoutubeのコメントを眺めているだけで楽しい。


Perfumeの二作品はどちらもPerfumeのヴィジュアルイメージを再定義する強烈なSci-Fi観。これが観たかった、これを待っていた。どちらにも5ptを出したい。





Perfume「Spending all my time」ラジオ解禁当時は、PerfumeまでもがとうとうEDM的文法に手を出したかと衝撃を受けたが、気付けばどこのアイドルもこぞってEDMを取り込む状況になり、2012年のガールポップシーンを象徴する潮流になっていた。Perfumeのそれは非常にトリートメントされた上品なサウンドだったが、EDMを一番面白くアイドルポップスに落とし込んでいたのは、EDMの下世話さと、自らに内包する下世話なファンクネスが偶然にも奇跡的なまでに噛み合ったハロプロ勢だったような気がする。アイドルが積極的にダンスミュージックを取り入れる状況にわくわくしながら流れを追っていたが、気が付けば「ダンスミュージック=EDM的なブロステップやエレクトロハウス、ダッチトランス」という安直さで皆一線横並びになっていくのは、それはそれで面白くない。そんな中で一際輝いたのが70sディスコクラシックなTomato n' Pine「ワナダンス!」だった。
Perfumeは「アイドル×ダンスミュージック」の先端を突っ走っている存在であってほしいという個人的な願望は変わることは無いだろう。2007年当時に「エレクトロ×アイドルポップス」という試みは途轍もなく新しく刺激だったし、Scritti PolittiからMax Tundra「Which Song」へ至るエレクトロニカからインテリジェントファンク経由の「ナチュラルに恋して」、バレアリックハウス/コズミック系Nu DiscoやChillwave経由の「スパイス」、そして2012年はドラムンベース「ポイント」やUSメジャーのEDM経由の「Spending all my time」と、Perfumeはそういうフロアで鳴るサウンドとの掛け合せの挑戦の連続の中にいる。今はまだ発売前のPerfume未来のミュージアム」は、子供向けも意識した「JPN」的ポップ寄りになるかと思いきや、ウォブルベースが鳴っている。2013年はどんな新しい音を聴かせてくれるのだろうか。