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Perfume「Spending all my time」ウェブインタビューまとめ&インタビュー全体像と今作PVにおける強度について

そもそも音源リリース時のプロモーションインタビューは全てそうなのかもしれないが、特に今回の「Spending all my time」に纏わる音楽誌インタビュー*1 には、極めて強い「台本」感が漂っている。あらかじめ、「これを網羅的にリスナーに伝える」という文脈がはっきりしていて、どのインタビューを見ても、その長さに違いはあれど、同じことが網羅的に掲載されている。

  1. 「Spending all my time」のEDM的な曲調(「イケイケの港区、クラブ、露出度の高い姉ちゃん」)への違和感
  2. 全編英語詞であることに対する拒否感
  3. 上記の二つがもたらす、「日本の音楽をそのまま海外へ」という海外進出に対するコンセプトとの乖離(「JPNツアー観てました?」「海外を意識した結果」)
  4. 中田ヤスタカに対して日本語詞を追加するように直訴
  5. 中田ヤスタカによる日本語詞の追加
  6. 日本語詞の内容を通してPerfumeが感じ取るヤスタカのPerfumeへの気持ち
  7. 項番1に対する違和感から、テレビで披露しない、ライブで育てることを宣言
  8. 敢えてノープラン/注文無しで田中裕介監督にPV制作を依頼。そこで監督が提示してきた、項番1を完全に覆すイメージとコンセプト構成により、この曲に対する印象が変わり、とても好きになった

これが今回のインタビューにおける網羅すべき項目として台本が提示したもののように見える。特に、雑誌媒体では、項番4を全て樫野さんが発言しており、役割分担まで透けて見える。この一連の「Spending all my time」に対してPerfumeが受け取った感情は、提供する側の視点というよりも、むしろ提供される側の受け取り方であり、それは日本のファンに寄り添った形にもなっている。急激な曲調の変化、そしてその曲調がアメリカのメジャー系サウンドを意識したものであったこと、この事によって起こるであろう「海外進出に伴って、日本のファンがPerfumeを遠い存在に感じてしまう不安」を、Perfume自身が丁寧に取り除く。その事が、今回のインタビューに課せられたタスクであったのかもしれない。




今回の「Spending all my time」リリースにおいて、PVのイメージ戦略は非常に大きな役割を担っている。「イケイケの港区、クラブ、露出度の高い姉ちゃん」的サウンドメイクから、如何に楽曲を「Perfume的」な物へ変換するか。毎回そうであるように、ヤスタカはヤスタカ自身の信念のままに楽曲を提示し、その楽曲が出来上がった後の工程で初めて、ヴィジュアルコンセプトを統括する関監督、そしてPerfumeMIKIKO先生が膝を突き合わせてが曲をどう提供するかをゼロから考え、ダンスとPVのコンセプトが形作られてゆく。関監督はPerfumeに寄り添った形で、Perfumeの「本人達のキャラクター」からその楽曲イメージを構築していくスタイルを貫いてきた。また、児玉裕一監督も、ファンの感情をリサーチし、ファン目線から描き出すPerfume像を構築し、結果Perfumeとファンに寄り添った映像を作り出してきた。一方で、「スパイス」で起用された島田大介監督は、自らの作り出す強固な世界観の中にPerfumeを落とし込む、いわば全く逆のアプローチを取り、「作品の質」とは別の観点でファンから反発を受けることになる。


児玉裕一監督と同じ映像制作集団「Caviar」所属の田中裕介監督が「Spring of Life」以降に取ったアプローチとは、Perfume本人達、あるいはファン視点に寄り添うことともまた異なっている。ユニバーサルが提示したPerfumeのコンセプト「ミステリアス、未来的、ロボット的、人形のような少女、良質な振り付けとレーザービーム」*2 を下敷きに、監督が思う処の「Perfumeのパブリックイメージ」を極端な形で表現することにより、「創造されたPerfumeらしさ」を提供することに徹している。それは、「近未来三部作」当時の手法に近い。「スパイス」制作時に、東京ドーム公演を終えて一定の達成感を得たことで、「今後はPerfumeのパブリックイメージを柔軟に脱却していこう」という方向性がPerfumeから語られたのとはある種真逆となる手法だ。*3
「Spring of Life」では「アンドロイド(ガイノイド)達にウイルスが混入し感情が芽生える」というド直球なSFテーゼを演出し、「Spending all my time」では「隔離された超能力者養成所」というこれまたド直球であるSFテーゼを持ち込んだ。制服/スーツ、クラシカルな欧州/共産圏配色、張り付いた微笑、マネキン的固定ポーズ、非連続体における視線分散、突き詰めた安定と非対象/幾何学性が同居するロシア構成主義的構図。勿論サイキック、そして監視社会もSFの王道だ。腕に刻印された数字は、「終戦のローレライ」「AKIRA」に描かれるような、隔離されたESP研究施設で能力開発を強制される「ナンバーズ」を連想させる。いわば、サイバー要素を使わずSF/テクノを表現するテンプレのオンパレード。


それらの記号を大量に引用し、Perfumeのパブリックイメージコンセプトを徹底的に強化することによって、「イケイケの港区、クラブ、露出度の高い姉ちゃん」とPerfumeに評され、大本さんが「この曲に引っ張られ過ぎるのは相当マズい」とまでそのイメージ転換を危惧した「Spending all my time」の曲調ですら、「とてもPerfumeらしい」ものに捻じ伏せた、重要なPVとなった。

の:来た案とか衣装の感じとかイメージを聞いて、PVも撮ってみて、すごく印象が変わって。イケイケの港区、クラブ、露出度の高い姉ちゃん、みたいなイメージからガラッとシュールな感じも入って、すごくカッコいい曲だってちゃんと思えるようになって。だから、今は好きです(笑)。


か:今は!


(Rockin'on Japan 2012年09月号)

ナタリー - [Power Push] Perfume「Spending all my time」インタビュー ここまでやっちゃっても、私たちはぶれない

http://natalie.mu/music/pp/perfume03


上記の台本的要素を網羅しつつ、楽曲、PVのコンセプトを理解した上で、他媒体には辿りつけないもう一歩先の言葉を引き出した理想的インタビュー。「Rockin'on Japan」「音楽と人」あたりの音楽誌のインタビューはインタビュアーの構築したいストーリーに基づく展開になっているのが特徴的、というかあれが読ませる芸風なのだが、ナタリーは(Perfumeに限らず)その辺りについて随分意識的にそのスタイルを避けて、当人に「自然に」ストーリーを語らせようとしている。読み物としての個性と面白さや、その解釈がもたらす独自の「ロキノン文化」がユースカルチャーに与えてきた影響の大きさは今更説明するまでもないが、雑誌でしかミュージシャンの語る言葉を聞けなかった時代から、ネットの普及によりミュージシャン本人の発言により簡単に近づけるようになった今だからこその、ストーリーの強度に拘らないナタリーの姿勢があるのだろうと思った。


今のところは「Spending all my time」のEDM的な曲調&英語詞が上がってきた理由について、ヤスタカ本人がその意図を話している媒体は無いので、以前書いたように「恐らく彼には『ユニバーサルの発注通り、国際標準的ダンスサウンドと全編英語詞で作ったとしても、Perfumeにしか作れないPerfumeサウンドになる』という「絶対の自信」があったのではないか」という推測に至るしかないのだけれど、*4 西脇さんもナタリーで同じことを発言している。

あ:世界を相手にするなら、これくらいはっきりやっちゃったほうがカッコいいし。そして「ここまでやっちゃっても大丈夫。それでもPerfumeはぶれない」って、中田さんが自信を持ってくれたんじゃないかなって。私たちが中田さんの音楽をすごく信頼してることを、中田さんはきっとわかってくれてて、だからこそもっと踏み込んだ作品にしようと思ってくれたんだなって感じるんです。自分の活動に走ったわけじゃなくて(笑)。


この「フォロー付き」で語られる前段の部分がとても面白くて、ヤスタカはライブの感想を求められて「自分の音が大きい会場でデカい音量で聴けるのが最高!」と返したというのだ。

あ:歌詞が英語だからってだけじゃなくてサウンドも「超・洋楽」ですし、カッコいい曲だとは思うんですけど私たちの次への方向性と違うなーって。だから中田さんには「あれ? 本当にライブ来てました?」「ツアーの東京公演に2回来てたのに……えっ?」みたいな気持ちでした(笑)。前にライブに来てもらったときに感想を聞いたら「自分の音が大きい会場でデカい音量で聴けるのが最高!」って言ってたのを思い出して、「あー、もう中田さんは自分の作る曲が大きい音で流れることしか考えてないのかなー?」って寂しくなっちゃって(笑)。中田さんとは長年一緒にやらせていただいてるし、私たちのことをすごく考えてくれてると思ってたのに、「あっ! 自分の活動のほうを優先しちゃった!」ってびっくりしてしまいました。

あくまでPerfumeの全体プロデュースには参加せず一線を置き、淡々と発注を受けた楽曲のみを制作し、尚且つその楽曲に対して自分の中の完璧である事しか許さない、楽曲に関することだけを追求するヤスタカの清々しいほどの「職人ミュージシャン魂」から発せられたこの一言には、むしろ「これでこそヤスタカだわ」と笑って手を叩かざるを得ない。例えば、先日モーニング娘。の新リーダーに就任した道重さんが、新生娘コンの感想をつんく♂に聞いたとして、つんく♂が「自分の音が大きい会場でデカい音量で聴けるのが最高!」と返す画など想像できるだろうか。ヤスタカがPerfume達とは距離を置いて楽曲提供者に専念することで、「ライブでの再現性を無視した」面白楽曲が量産され、その事がさらにPerfumeのダンス偏重パフォーマンスを導き出し、結果としてその事がPerfume自身の強度のコンセプトを生み出してきた。ヴォーカル録音中にPerfumeが「ここが好き」「この部分が素敵」などと発言しようものなら、「小娘に簡単に評価される部分などむしろ作りが甘い」とばかりに容赦なく切り捨ててきたヤスタカ。そして今、成長したPerfumeがそのコンセプトについてヤスタカと調整を図ろうとしたこと。こういったエピソードの積み重ねと変化がとても今面白い。




そしてもう一つ、ヤスタカがこういった曲調を提示してきたことについて、その要因を「レコード会社との意思疎通の不備」*5 とする発言をしていた西脇さんだが、ナタリーでは、実は「自らの提案」が布石になっているのでは、という可能性を語っている。

あ:そういえば、実はちょっと反省してることがあって……。なんのレコーディングだったか忘れちゃったんですけど半年くらい前に、録音が全部終わってスタジオに誰もいなくなってから、私と中田さんと、Perfumeがインディーズ時代からお世話になってるヤマハの人の3人だけになったことがあったんです。そのときに「最近の曲、ちょっと似通ってきちゃったかな」と思って、中田さんに「今度はちょっと違う感じの曲が欲しいです」って言ったんですよ。ポップでキャッチーな曲は大好きですし、中田さんからいつも曲をいただけて本当にありがたいですし、中田さんのファンなんですけど……、たまにはちょっと変わった曲をシングルにして違う一面を出したり、もう少し自分たちのイメージを広げていきたい、みたいなことを言ったんです。もしかしてそのせいでこの曲になったのかなって(笑)。


−中田さんがその要望に応えてくれたのかも、と。


あ:中田さんは「まあ、俺次第だからね。リズム変えたりとか、なんでもできるし」「じゃあ歌詞が何もない曲とかいいかもね」みたいな感じに言ってて。そのときはなんとなくニュアンスが伝わったかなって思って「あっ……、ああ、楽しみにしてます!」って返事したんですけど、まさかこんな全部英詞の曲になるとは思ってなかった(笑)。

Perfumeがインディーズ時代からお世話になってるヤマハの人」とは、ヤマハミュージックパブリッシングの中脇雅裕ディレクターの事だろう。インタビュー時点の半年前前後のレコーディングが何を指すのかは不明だが(「ポイント」前後だろうか)、「日本語詞の追加を要求した」以前にも、「VOICE」「ねぇ」録音前食事会の「フェスで盛り上がれる曲を」という類の話ではなく、「作風に踏み込むレベル」の注文を西脇さんがヤスタカにしていたという貴重な証言だ。自身の音楽趣味はかなり保守的な西脇さんが、「ポップでキャッチー」自体がPerfume/ヤスタカの売りであるにもかかわらず、そこにマンネリを見出し、変化球でイメージの拡張を図りたいと考えていたことも興味深い。


実際にヤスタカはこの意に応えたのか非常に極端な変化球を投げ込んできたのだが、EDM的な曲調と英語詞ということでこれまでのPerfumeとは趣を異にする「Spending all my time」だけでなく、このシングルはカップリングの「Hurly Burly」も相当に異様な曲だ。これまでの「ポップでキャッチー」なPerfume的体裁を取りつつも、なかなか解決しない不穏なコード展開で構成されており、非常にストレンジな印象すらある。
J-POP楽曲としては「Spending all my time」のEDM的な曲調に急激な変化を感じたかもしれないが、この類の音色と構成は今時の「国際標準ダンスミュージック」でもあり、大抵の海外リスナーは飽きるほど耳慣れている上に、海外産のインパクトの強いサウンドから見れば寧ろ「Spending all my time」は薄味すぎて印象に残らないといってもいい位だ。むしろ「日本オリジナルのガラパゴステクノポップ」としての「Hurly Burly」の方が、世界的なダンスポップミュージックの中に置いても異彩を放つ存在でもあり、海外展開においては両者のバランスを上手く使いこなしていくことを期待したい。



Perfume(パフューム) - 「この曲はみんなと作っていこうって決めたんです」 - クローズアップ excite music

http://www.excite.co.jp/music/close_up/1208_perfume/

−皆さんがアンドロイドに扮した前作「Spring of Life」と通ずるものがありますね。


の:通ずるものがあります!


か:田中監督の中ではPerfumeの3人がそういうイメージなのかなって思いました。


の:その3人の空気感が自分たちでも見たことないものなんですよね。


あ:「こんな一面がPerfumeにまだあったんだ!?」みたいな。

上記したように、Perfumeの「内側のキャラクター」からヴィジョンを立ち上げる関監督と異なり、Perfumeのパブリックイメージコンセプトを徹底的に強化する田中監督の一連の作風、強度なSF/テクノ的アイコンの羅列は、「自分たちでも見たことない」「こんな一面がPerfumeにまだあったんだ」と彼女達に思わせてくれるようだ。



Perfume『新境地を様々な形で示した新曲とアジアツアーについて語る!』−ORICON STYLE ミュージック

http://www.oricon.co.jp/music/interview/page/159/


全体としては普通だが、インタビュアー個人の意見への回答が気になった。

−1人の音楽愛好家として意見を言わせて頂くならば、「好きなアーティストの、新しい一面が示される曲を聴きたい」っていう願望は、ファンなら確実に持っているんですよ。「Spending all my time」は、そういう願望を満たす曲になると思います。


か:「新しい一面が示される曲を聴きたい」っていうのは、私もよく感じます。


あ:新しいことをやるならば、勉強して分かった上でやらないといけないと思うんです。例えばラップをするにしても、その分野で極めている方がいらっしゃるから、きちんと勉強して分かったうえでやるのが礼儀。レッスンとか発表会とかでやってみるならば構わないけど、それがCDとして世に出るとなると慎重になって当たり前かな、と思います。でも、慎重になり過ぎて挑戦しないのも、良くないのかもしれない。長年やらせて頂いているからこそ、そういう部分は気になってきちゃいます。

当たり前のJ-POPに寄り添い過ぎても埋もれてしまう、クラブミュージックに寄り添い過ぎても見放されてしまう、そのあまりに難しいバランスを乗りこなし、結果どちらのファンも惹き付けるという偉業と言っていい成果を上げてきたPerfume。それゆえの、「575」のラップや、今回のシングルに対しての、変化に対する葛藤と欲求の絡み合った微妙な感情。髪形も楽曲提供者も振付師も、何も変わらないのがPerfumeでもあり、変化し続けるのもまたPerfumeだ。




Perfume - Spending all my time




Spending all my time

Spending all my time

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