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Aerodynamik - 航空力学

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観劇記録 「シリアスマン」(A Serious Man)アメリカ 2009年公開 PG-12

movie



ヒューマントラストシネマ渋谷にて鑑賞。
コーエン兄弟作品、アカデミー賞ゴールデングローブ賞にノミネートされ全米映画批評家協会賞も受賞という宣伝文句も付くはずのこの作品が、なぜこのタイミング、つまり、彼らの新作「トゥルー・グリット」公開を待つまで日本で公開されなかったのか。それは一重に、この作品があまりに濃厚な「作家性」に満ち満ちたものだったからだ。
スピルバーグが製作総指揮に名を連ね、商業的にヒットを収めた新作「トゥルー・グリット」を先に観たのだが、世間の評価ほどにこの作品を楽しむことは出来なかった。別にコーエン兄弟が撮らなくてもいいし、コーエン兄弟作品である必然性をそれほど感じられなかったからだ。もちろん有り体の西部劇ではなくてそれなりに面白かった、でも、だってそうだろう、「なんとなく面白そう」という気分でコーエン兄弟作品を観にいく映画ファンなどいない。「バートン・フィンク」の、「ファーゴ」の、「ノーカントリー」のコーエン兄弟だからだ。


そして、自分がコーエン兄弟作品に求めるものが、「シリアスマン」には全て詰まっている。しかも超濃厚に。どうしようもない不条理と、気味の悪い不穏さと、人間の悲哀と、とことんシニカルなブラックユーモアが、コメディという殻に包まれて、クールでハイテンポで凝りに凝った編集によってぎっちりと詰め込まれた、濃密なる作家性の結晶のような、まるでプライベートフィルムを観ているような、「これぞコーエン兄弟作品」と宣伝したくてたまらなくなるような、そんなトラジコメディ作品だ。もう作品を観ている途中から、とんでもなく面白いものを観ているという興奮で足が震えてしまうくらいだった。観終わってからは、ただただ「凄いこれは凄い」と、ひたすらその興奮だけを延々と連れと共有しあった。


トゥルー・グリット」とこの「シリアスマン」は、デヴィッド・リンチ作品に例えれば、「ストレイト・ストーリー」と「インランド・エンパイア」のような関係になるだろう。どちらも同じ監督の作品だが、両極端に位置するという意味で。そして、僕はこの「シリアスマン」が大好きだ。