Aerodynamik - 航空力学

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観覧記録 Autechre@Differ有明



有明コロシアムの程近く、プロレスオタにはお馴染みのDiffer有明。湾岸の倉庫を改装して作られた洒落っ気ゼロの箱で、天井も非常に高く、まさにウェアハウスパーティーといった趣き。今日はFunktion-Oneのサウンドシステムが導入されていると聞き期待が高まる。


ダークなブロークンビーツのManatholに続いてBoredomsのEYE。ストレンジでプリミティブ、ガバのように歪んだリズムの上に、サンプリングヴォイスと攻撃的すぎるアシッドが飛び交う狂気のプレイ。ちょっとテンションが上がりすぎて0時前だというのにここでかなりの体力を使ってしまう。


Claude Youngは今時珍しいほどのハードミニマルテクノからダブステップ、Jazztronic「Samurai」やらディスコティックなものまでバラエティに富んだ選曲でフロアを沸かしていく。残念ながら何時もこの人のプレイはどうにもツボが合わず、今回も後ろの方でのんびり休む。


25:30、Claude Youngのプレイ終了とともに、フロアのムービングライト、レーザー、あらゆる照明が全て落とされる。巨大な倉庫空間が、完全に闇と化す。漆黒の闇とともに、Autechreのライブが始まった。視覚を失う事で否応なく聴覚だけが研ぎ澄まされるなか、ループを拒む複雑怪奇な痙攣するビートとノイズの塊が暴力的なまでに全身を打ち始める。普段の作品とは全く異なる不規則で暴力的なリズムに、単調に踊る事すら許されず、闇の中で、自分の立っている場所も、どれくらい時間が経っているのかも、もう全く分からない。真っ暗闇の中で延々と往復ビンタをされてるような感じが延々と続く。視覚を奪われているため、異様な速度で思考が巡る。今いる場所はダンスフロアではなく、何かの実験をしている現場ではないのか、そして自分はその立会人ではなく、被験者なのではないか。今流れている、ランダムに生成されているのではないかと思えるノイズの塊は、PCの中で生まれた有機的な生命の鳴き声なのではないか。
時折誰かが携帯電話で時間を確認する、その一瞬の僅かな光でふと音に引き戻される。周りは皆ただただ圧倒されて立ち尽くして音に浸っているように見えた。それでも無理矢理踊ろうと痙攣の様に細かくビートに乗ろうと試み、そうしては短い時間で体力を消耗し、再び音の暴力に打ちのめされていく。


時間の感覚も失い、永遠のように感じられた75分のライブが終わり、再び照明に火が入る。Juan Atkinsが何かを回し始めるが、全く耳に入ってこない。全てが常識を逸していた異様な空間に、何が起こったのか、それすらよく脳内を整理する事すらできず、しばらく呆然としたままラウンジで放心していた。とにかく凄いものを体感した、ということしか頭が働かない。


かなりの時間をラウンジで過ごし、ようやく自分を取り戻したのでフロアに戻る。Juan Atkinsは相変わらず繋粗いけれどもパワフルなプレイ。ハードミニマルを中心にファンキーでトライバルなトラックを挟むミックスで、Greg Gow「The Bridge」などではフロアは盛り上がっていたが、正直Autechreの衝撃の後では全てが希薄に思えてあまり体も動かず、ぼんやりと踊る客達を眺めていた。このまま四つ打ちが続くなら、今日はもう帰ろうかな・・・と思っていると、始発少し前に流れが変わる。Donna Summer「I Feel love」、Sylvester「You Make Me Feel」のディスコクラシックを挟んで、なんと怒涛のエレクトロクラシック祭りになった。ようやく自分も興が乗ってフロアに下りる。Kraftwerk「It's More Fun to Compute」、Cybotron「Clear」「Alleys of Your Mind」、Model 500「Future」「Nightdrive」「I Wanna Be There」「Starlight」、Channel One「Technicolor」など、往年のエレクトロがスピンされ、結局最後までフロアに残ることになった。


全てが終わり、Differ有明から一歩出た瞬間に、いまだ開発が進まずがらんとした湾岸の広い空と朝日が目を刺す。いつものクラブ明けとはまた違った感触。自分の体に現実感が無い。やはりAutechreのショックを引きずっていた。