Aerodynamik - 航空力学

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観覧記録 Raster-notonレーベル ジャパンツアー「R-N EXPRESS」@渋谷Womb

http://www.raster-noton.net/japantour/



電子ノイズとエレクトロニカとデザインをどこまでもミニマムな形で追及し、独自すぎる美学を貫くドイツのCarsten Nicolai率いるRaster-notonレーベル。坂本龍一との共演のおかげでcommmonsレーベルが作品を輸入展開していたが、なかなかライブを見る機会には恵まれなかった。今回のレーベルショーケースはWombで開催されたのだが、よりによって同日にUnitでやはりドイツのエレクトロニックサウンド総本山KOMPAKTレーベルのイベントが開催されていた。Michael MayerのDJも観たかったが、色々悩んだ結果、Raster-notonを選択。


その日は夕方映画を観て、一旦帰宅し仮眠を取っていたら、案の定寝過ごし。慌てて渋谷に向かい、会場入りは24時頃。AGFもAoki Takamasaも見逃した模様。フロアは、連休の中日にもかかわらず、ガラガラ。唯でさえ少ない電子音響好きが、さらにKOMPAKTと割れたせいか。




音響詩人Anne-James Chatonが詩を読んでいる。無機質なポエトリーリーディングの上に、切り刻まれた自身の声がサンプリング&ループされ、呪術のような様相。バックには重たい電子音のリズムが単調に鳴り続け、前後不覚のカオスな感覚に陥る。





続いてフィンランドからSasu Ripatti。今日は彼目当て。Basic ChannelのサブレーベルChain Reactionの時から観てみたかった。Moritz Von Oswald Trioのメンバーとしては観ているのだが、ソロを観るのはこれが初めて。まずはVladislav Delay名義のノイズから。押し寄せる大音量のノイズのドローン、深海の底を這い回るような深さと、成層圏を飛んでいるような突き抜けた空間の広がりが同居する不思議な音。観客は皆腕組みをして、目を閉じている人も多い。瞑想しているようだ。後半はタイトで硬質な電子音がブレイクビーツを刻み始める。Autechreのライブに似た感じではあるが、それよりももっと冷酷で冷めた感触。





そして、全く汗を書かないフロアに、レーベルオーナーCarsten NicolaiのAlva Noto登場。さすがにこれは凄い。鈍器のように全身を打ち付ける凶暴な電子ノイズのビート。膨大なノイズの塊が隙間なく空間に敷き詰められる。圧巻。



最後に、英語三文字のロゴが高速で映るなか、淡々とその三文字が読み上げられる謎の快感を伴う名曲「uni acronym」で会場を沸かせて終了。





Byetoneは、他の単調さで圧倒するノイズ達と比較すると、ノイズを純粋な電子楽器というよりもギターのメタファーのように扱う展開や音作りで、寧ろ聴きやすい位。激しいリズムを繰り出しフロアを踊らせる。




そして再びSasu RipattiのLuomo名義でのライブ。Pitchforkで10点を付けた、氷のように冷たく、そしてセクシーな、完璧なまでの音響ハウス、それを一番楽しみにしていたのだったのだが、間違いなく今回のワーストアクトだった。妙にドタバタしたリズム、サンプリングはごちゃこちゃしていて、リアルタイムに差し込むブレイクも手際の悪さばかり目立った。四つ打ちハウスが鳴ってるのに、フロアの足は完全に止まっている。これにはがっかり。ライブ向きではないのかなあ。





ラスト、Alva NotoとByetoneが並んでブースに入ると、その前には蛍光灯を持った男が。何とシークレットゲストにOptronの伊東篤宏。Byetoneがその場でランダムにリズムトラックを出し、伊東篤宏が蛍光灯を振り回しインプロビゼーションで答える。とにかく凄まじい電子ノイズの嵐。びりびりと全身が震え上がる。激しく点滅する蛍光灯。神妙にノイズに聞き入っていた観客も、ここぞとばかりに声を上げる。最後にいいものを観た。





5時きっかりにライブ終了。アンコールを求めるも、「時間だからごめん」といったポーズでそのままフロアが明るくなる。脳味噌から全身の血液まで電子ノイズで満たされたまま、まだ真っ暗な渋谷の街へ。円山町が、道玄坂が、いつもと違ったように見える。まるで現実感のない、マトリックスによって作られた仮想空間のようだった。




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