http://www.j-wave.co.jp/original/jwavespecial/2010/10/00.html
ナルオタの皆様こんにちは。
菊地成孔、ざっくり言うとジャズミュージシャンであり文筆家、彼が2000年代初頭に手掛けたエレポッププロジェクト、所謂「第二期Spank Happy」に絡めて、Perfumeと相対性理論のヒットの理由を語ったくだり。この「第二期Spank Happy」は、当時まだアングラサブカル誌だった「Quick Japan」にデビュー前に特集されたりして、とにかくカルト的な人気を博したのだが、自分にとってはそれはもう不快で不快でたまらない存在でもあった。当時のクラブに根ざしたテクノ/ダンスムーブメントの楽観主義を知っている人には、「Spank Happy」の醸し出すデカダンな退廃美が、80年代初頭に蔓延したあの気持ちの悪いアカデミズムやロマンティクスを連想させる、というこの気持ちを理解してもらえるだろうか。
とにかく菊地成孔は自分の苦手な類の人なのだが、このくだりについては、何故自分が彼を嫌いなのか、何故今Perfumeと相対性理論が持て囃されるのか、あまりにも明確な答え、これまであまり指摘されなかった側面からの答えを提供してきたので、正直言葉を失っているというところだ。
このね、Spank Happyも、解散しちゃって、再結成はもう今のところ、おそらく私自身の予定では、永遠に無いと思うんですけども、再結成は。こう、なんか、好きな方が多いんですよこのバンドは。物凄い。分かりやすいですしね。あのー、萌え声の女の子の歌が聴こえてきますし(笑)、私の他の活動を見たら「よく分かんねえなあ、難しいなあ」みたいな感じが全くないんで、その、えー好きな方多くてですね、勢いなんかこう、過大評価ってかね。「相対性理論やPerfumeの先駆けなのでは」って言う方いるんですけど(笑)、凄い言われるんですよね、「早すぎた、10年早かった」ってね。今デビューしてればどうのこうのって、まあ永久にそういう事言われ続けるんじゃないかなと、私は思うんですけど。あのー、そんな立派なもんじゃないですね。その、今局側から、「あの二つが何で売れてるのか、コメントしてください」っていう、厳しい、あの、質問が来ましたので。
えー、あれですけど、あの、Perfumeは、こう、まあなにせ、誰が聴いても分かるのは、あのヴォコーダリゼーションというか、声を、ああいうロボ声にしちゃってる訳ですよね。で、えー、まあなんて言ったらいいんですかね。「生々しい人間の声のアニメ化」っていう。機械化ですよね。まあ「アニメ化」って言った方が近いと思いますけど。あれはまあ、Spank Happyもちょっとやってるんですよね、それでなんかあの、先走った人に先駆と言われるけど全然(笑) さっきも言ったように、先駆でも全然何でもないんですけど、その、あの徹底的に推し進めたという事ですよね、一つは。
後もう一つは、まあその、踊りがやっぱ圧倒的でしょう。あの、要するに、踊りってのは、凄ーく薄めたセックスみたいなもんで、非常にセクシーなもんなのよね。で、その、全く新しいその「Man Machine」的な可能性を、非常に高いクオリティで実現してますよね。
こう、日本人てのは特に、セックスの代わりの物っては、踊りだけじゃなくて他にも一杯あるんですけど、日本人が一番おしとやかで、抑圧がでかいんですよね、こう声高に議論したりしないしね日本人て(笑)。 だから、その、こう胸に秘めて静かにしてる国民じゃないですか。そうすると、勢いね、代替品が凄いありがたくなるもんなんですけども、振付のある踊りっていうのは、これは日本人に限らず人類は皆好きですけれど、あの、Perfumeは、その「東京クール」っていう事をその集団のコレオグラフで、端的に表現したってのが、凄いことで。
で、まあ音楽は何でもいいかって言うと全然そんなこと無いわけで音楽素晴らしいですけど。そのー、やっぱり、踊りが凄いし、しかも「片手マイク」だっていうね。片手マイク、もう「Man Machine」だっていってアニメーションだっていうんだったら、こう、今、それこそ口パクできますし。えー、Spank Happyはだらしなく口パクにしちゃったんですけど(笑)。 あの、そういうんじゃなくて、片手マイクが残ってるっていうね。片手マイクってのはまあ、歌謡曲の、その何ていうんですかね、ガールズグループのその伝統、一つのその様式美みたいな物で、何でもかんでもバリバリに新しいわけじゃないよね。ある種の様式的な懐かしさがあって、それはまあPerfumeは片手マイクでしょうね。これ多分、私音楽史読まないんで、もうとっくに皆が言ってることを得意になってラジオで言ってる事になったとしたら、あの、恥ずかしいんですけど。まあ私が見る限り、Perfumeが片手マイクじゃなかったらあんなになってないと思いますし、振付の力が無かったらあんなになってないとは思いますね。
相対性理論はまあ、日本は最近韓国アイドルが出てきてるんで、非常に分かりやすいですけど、「ヘタウマの国」で、あのー、韓国なんか「下手」が無いですよね、「ウマウマ」ですよね。全てが上手い。踊りも上手い歌も上手い。日本は、こう、ヘタウマっていう、それは一つの「幼児性」っていうか、いい意味での、美としての幼稚さですけれども。それをこう愛でるっていう独特の文化があって、で、これはその本当にナショナリズムにも近い独特なもんで、それをまあ一番うまくやってるんじゃないですかね。演奏がヘタウマ、歌がヘタウマ。で、歌詞は、ヘタウマっていうより非常によく出来てて、あの、ポエジーっていうか、複雑な、漫画とかゲームの文化の中にあるような、複雑なSF的な発想とか、あと文学なんかにあるようなね、「多元宇宙」とかね、「可能世界」とか。ああいうその感覚を、歌謡曲の中で表現するっていうことが、今んとこ少ないので、大分少なくなっちゃって、椎名林檎さんなんかまあ、東京事変さんって言った方がいいのか、なんかがやってる方が数少ない方だと思いますけど。まあそれをもう全面的に展開した、あらゆる「東京クール」の、文学性とポエジーですよね。レトリックがみんな入った、圧倒的に素晴らしい歌詞で、で後は全部もうヘタウマっていうね。まあ作曲もヘタウマってね。ま、ほとんど同じ曲っていう。アルバム聴くと十何曲入ってて、そのうち九曲位がペンタトニックで出来てるっていうね。レミレドラって(笑) そういうのもまあ良いことなんですよね、悪いことではないですね、手法が決まってるって事は。
ある意味ちょっと完璧すぎるくらい、図式的じゃないの?って思う位に、今音楽を聴きたい人の、まあつまり、言葉冷たくなるようですけど、マーケットみたいなのがあったとして、マーケットターゲットを、ずばり打ったっていうか。なんかちょっと余計な物が、「雑味」って言うんでしょうかね、雑味みたいのが全く無いんですよね。完璧にその、あるマーケットを形成し、そのターゲットを打った っていう事をされてるので、お若いのに立派だなって思いますよほんとに(笑)。あの、私のSpank Happyなんかね今の例えでいうと、雑味だらけなんですよね(笑)。 美味しさもあるんだけど、美味しいんだけど、美味しいから食おうと思うと雑味が一杯あって、これはいらねえしこれは分かんねえしみたいな感じで、こう、食うのに疲れるんでしょうね。雑味が平気な「雑味フェチ」の人とか、SMでいうと「M」の人ね、えー、辛いのがいいんだという人は、雑味気にならないですから、寧ろ好きなんで、そいでこう、数寄者みたいな感じで嵌ってくんだけど、一般性を考えると、雑味無い方がいいですもんね今ね。
もうホスピタリティ高く、美味しくて良くて、自分の欲しいものだけが整然と並んでて、変な雑味とか、要らない薬味とか乗っかってて、「このパクチーは食えないよ」とかそういうのは嫌だっていう。「最初から取っておいてくれよ」っていうのがまあ、今のお金出して物買う人の基本的なメンタリティーだと思いますんで。だからまあ私は10年前の粗相とはいえですね、雑味が一杯入ってるもん作っちまったなと(笑)。 でまあ、最近の人は雑味が無い、素晴らしい「製品」でもあり「アート」でもある事やってるんで、とても立派だなあと思いますよ、ほんとに。
雑味を排した製品、それこそがPerfumeと相対性理論。それは本質的な意味でテクノだ。
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