今でこそ、PerfumeがCDをリリースすれば、「What's IN?」や「オリ★スタ」、「CDでーた」などのJ-POP雑誌、或いは「音楽と人」や「Rockin' on JAPAN」のようなライトなロック雑誌が記事としてそれらを取り扱ってくれる。しかし、Perfumeが「ポリリズム」でブレイクする前に、彼女達を紙面で大きく扱っていたのは、それら音楽雑誌ではなく、また、可愛い女の子のグラビア写真が沢山載っているアイドル雑誌でもなかった。
かつて、ブレイク前の彼女達に複数ページを割いていたのは、ハイカルチャーサブカル誌「Studio Voice」、元々は芸人雑誌ではなくアングラサブカル誌であった「Quick Japan」(現「QJ」)、TV雑誌の皮を被ったサブカル&音楽誌「TV Bros.」、Perfume楽曲のリミックスを7インチアナログでプレスしたクラブミュージック専門誌「REMIX」などであった。
Perfumeが、それまでの「アイドル」文化圏の「外側」から注目を浴びるに至った要因は幾つも挙げられるだろう。しかし、ブレイク前夜にその評判を高めたのは、やはりその独特なサウンドであった。Perfumeのサウンドはデビュー当初から明確な方向性を持っていたが、サブカル人脈やクラブミュージックリスナーの目を引くに至ったのは、やはり彼女達自身が認めるように、「コンピューターシティ」、そして「エレクトロ・ワールド」のリリースだった。
「シティ」「エレワ」の登場が、当時いかに衝撃だったかを、当時を知らない人に言葉で伝えるのは難しい。しかし、2006年当時盛り上がりつつあった、フランスを中心としたエレクトロシーンに対する日本からの回答が、アイドルのリリースした楽曲だった、その事は、それまで全くアイドルというものに興味を持つ事の無かったクラブミュージックリスナーの頬を激しく平手で引っ叩く様な衝撃的な出来事だったのだ。
2010年の年末にクロスビートから出版された世界初の「エレクトロ」のガイド本、「ELECTRO BOOK 2010」には、2000年前後のエレクトロクラッシュから2010年の最新盤まで400枚もの音盤が掲載されているにもかかわらず、「中田ヤスタカ」あるいは「Capsule」、そして当然「Perfume」にも、一切触れられていない。それは、石野卓球と野田努がテクノの歴史を語った「テクノ本」に、YMOが一切出てこないのと似た様なものだ。わざわざ触れる必要も無いと思うが、Perfumeと中田ヤスタカの仕事は、世界のエレクトロシーンの潮流の中心となるものではないが、日本におけるエレクトロへの「入り口」として、非常に大きい役割を果たしたことは確かだろう。
しかし、あの当時の衝撃は、やはり言葉では伝えられない。2004年前後から一気に盛り上がり、そして2008年に飽和して終わったエレクトロシーンと並行して、Perfumeが如何に存在したかを、敢えてエレクトロシーンと同列に置き、時系列に並べることで見てみようと思う。
2004年
リリース日 | 作品 | これ |
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01/06 | Hell / NY Muscle |
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06/09 | Capsule / S.F.sound furniture |
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07/10 | Justice vs Simian / Never Be Alone |
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08/17 | Mylo / Destroy Rock & Roll |
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09/21 | Annie / Anniemal |
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12/06 | Alter Ego / Rocker |
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2005年
リリース日 | 作品 | これ |
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02/04 | Daft Punk / Human After All |
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02/05 | Capsule / NEXUS-2060 |
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04/10 | Christopher & Rahael Just / Popper |
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04/25 | Vitalic / Ok Cowboy |
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05/02 | Tiga / Sexor |
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05/17 | Coltemonikha / Coltemonikha |
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09/12 | Soulwax / Nite Versions |
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09/20 | Mr. Oizo / Moustache (Half a Scissor) |
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09/21 | Perfume / リニアモーターガール |
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09/21 | Capsule / L.D.K Lounge Designers Killer |
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10/03 | Kitsune Maison | ![]() |
10/04 | Jackson and His Computer Band / Smash |
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2006年
リリース日 | 作品 | これ |
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01/11 | Perfume / コンピューターシティ |
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05/01 | Adam Sky / Ape-X |
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05/10 | Capsule / FRUITS CLiPPER |
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06/21 | Peaches / Impeach My Bush |
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06/26 | Kitsune Maison 2 | ![]() |
06/28 | Perfume / エレクトロ・ワールド |
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07/18 | MSTRKRFT / Looks |
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07/31 | Justice / Waters of Nazareth |
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08/02 | Perfume / Complete Best |
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10/30 | Bodyrox / Yeah Yeah |
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2007年
リリース日 | 作品 | これ |
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01/23 | Resume - Selected & Mixed By Citizen Crew |
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02/02 | Housemeister / Enlarge Your Dose |
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02/10 | Surkin/ Action Replay |
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02/14 | Perfume / ファン・サーヴィス[sweet] |
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02/21 | Capsule/ Sugarless GiRL |
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02/25 | Riot In Belgium / La Musique |
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02/26 | Alex Gopher / Dust |
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04/10 | ED Rec vol.2 | ![]() |
06/05 | Simian Mobile Disco / Bugged Out! presents Suck My Deck |
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06/06 | Justice / Cross |
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06/19 | Digitalism / Idealism |
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09/11 | Simian Mobile Disco / Attack Decay Sustain Release |
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09/12 | Perfume / ポリリズム |
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09/17 | Federico Franchi / Cream |
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09/25 | Boys Noize / Oi Oi Oi |
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10/10 | Capsule/ capsule rmx |
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12/05 | Capsule/ Flash Back |
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こうして時系列で眺めてみると見えて来るものが沢山ある。エレクトロと言えば、その最も特徴的な要素として、ディストーションのかかったバキバキのシンセベースと、コンプの強いビートが挙げられるが、そのイメージを確立させたJustice「Waters of Nazareth」のリリースよりも、「エレクトロ・ワールド」は一ヶ月早く、「コンピューターシティ」に至っては半年前のリリースだ。しかもこれが、サイクルの非常に早いクラブミュージックシーンからではなく、J-POP/アイドルソングとしてリリースされたのだ。
それまでPizzicato Fiveフォロアーと言われるほどにラウンジポップだった中田ヤスタカが、2005年に突然エレクトロの要素を自分の作風に取り込み始める。自分の持ち味であるポップセンスとエレクトロの融合を果たし、ヴィレッジヴァンガードが似合う趣味的ラウンジポップ「NEXUS-2060」からたった3ヶ月で箱庭ファンタジーエレクトロ「Coltemonikha」に至る急旋回。そしてよりエッジの立ったエレクトロとキュートなポップをミックスさせた実験作「L.D.K」で確信を得て、2006年初頭にエレクトロとガールポップの高次元での昇華を描いて見せた衝撃作「コンピューターシティ」を出すまでの強烈なフルスロットルの加速感。その加速度のままに、コンセプトもサウンドも巷のロックバンドよりも確実にぶっ飛んでいた、ハードパンチのような渾身の一撃「エレクトロ・ワールド」。「エレクトロ」という言葉の定義にシーンが絡め取られるよりも早く、「エレクトロ×アイドル」という全く新しい概念をPerfumeは提示した。
翌2007年、Justice/Digitalism/Simian Mobile Discoの三者が1stアルバムをリリースし、エレクトロシーンの盛り上がりが頂点に達したのとほぼ同タイミングで「ポリリズム」はドロップされ、お茶の間レベルへとエレクトロを届けた。そしてJusticeの1stアルバムを超えられない模倣作の氾濫でシーンが一気に飽和する2008年のその春に、あの金字塔「GAME」をリリース。(ちなみにエレクトロを世界レベルでブレイクさせたLady Gaga「The Fame」のリリースは2008年8月)
最先端のエレクトロシーンと最先端のアイドルポップが先を争って耳に雪崩込んでくる、その目まぐるしいほどの流れは感動的だったとしか言いようが無い。
そして2008年頃からエレクトロは求心力を失い、フィジェットハウスやトライバルビート、エレクトロバンドへと拡散していくが、Perfumeサウンドも明確な方向性を失い2008年末から2009年に迷走する。古参/新古参と呼ばれたPerfumeのアーリーアダプター達も、キャズムを超えた「GAME」以降のアーリーマジョリティも、2008年末の武道館を頂点に、其々の新しい居場所を見つけ、拡散してゆく。
そしてその頃ようやく勃興した日本国内のエレクトロシーンとは同調することなく、2010年には再び自分の立ち位置を見つけたかのようにPerfumeは独自の路線を描き、レイトマジョリティ達を巻き込んで、東京ドーム公演を成功させた。
この先Perfumeは、再び沸き起こるであろうクラブミュージックシーンの全く新しい流れを先取りして、かつてのアーリーアダプター達をまた驚かせてくれることはあるだろうか。それとも、同じ事務所のサザンオールスターズのように、伝統芸能のように独自の世界を築き続けていくのだろうか。Perfume自身にとっては、後者の方がいいかもしれない。しかし、自分はもう一度前者が見たい。その時代にしかありえない、あの狂った熱気を、もう一度感じてみたい。