観覧記録 Perfume「Perfume WORLD TOUR 1st」シンガポール公演ライブ・ビューイング@新宿バルト9
http://www.liveviewing.jp/contents/050_perfume.html
台湾/香港/韓国/シンガポールを回る、Perfume初の海外ツアーは無事全行程を終えた。
ネット上で現地報道を見ても、秋葉原の石丸電気や新宿タワレコのイベントスペースで踊っていた彼女達が、先日まで日本国外でワンマンツアーを回っていた、そういう実感はいまだに得られていない。週末になると何本ものアイドルのライブがustreamで中継される時代になり、在宅でありながらも頻繁にライブ、今起きている事象に参加している気分を味わうことが容易になった現在だが、スクリーン越しに観たシンガポール公演での彼女達の姿は、東京ドームやさいたまスーパーアリーナで見る米粒のような姿よりも、むしろそういったニュアンスにおける「近さ」を感じることができたし、行われているライブといえば、笑ってしまうほど何も変わらないままで、実感として、あれが「シンガポール公演」だったという事すら希薄に思える。本当に、彼女達は、Perfume自身のやり方を何一つ変えないままに、異なる文化圏にそれを提示していた。
最初の海外ツアーにおける会場は、1000〜2000人規模のライブハウスが選択され、オールスタンディング公演が行われた。韓国公演では大規模な宣伝もなしに口コミで一次発売分1500枚を10分で完売したと報道されており、需要に大きく答えるよりも、Perfumeの魅力を着実に伝えることのできる規模が優先されたのだろう。*1 箱のサイズは感覚的には恵比須リキッドルームから渋谷AX辺りのような感じだが、直角二等辺三角形TOURで活躍した三面LEDボックスの簡易版を帯同して「edge」を披露、「レーザーやCGと連動する視覚的なPerfumeのライブ」をコンパクトなサイズながらも実現していた。身体一つで出ていくロックフェスなどとは違う国内ツアー的演出を、考えられる最小限の会場、物量で実行した顔見世ツアーは、まずPerfumeのライブで観てほしいものとは何かを突き詰めた結果、Perfume陣営の持つ慎重さがいい意味で見られたと思う。逆説的に言うと、Perfumeのライブというのは、本当はこの位のサイズが限界なのだ。観客の誰もが、その奇妙で独特なダンスパフォーマンスを皮膚感覚で体感しうることが、なによりも言葉の通じない場所でアピールしうる最大の武器なのだから。
Perfumeのライブの三大要素、爆音/ダンス/MCのうち、一番現地対応が難しいであろうMC。Perfume陣営は、挨拶やコール&レスポンスの現地語パターンを幾つか作成したらしいが、覚えたての単語をカタカナ発音で何か言ってみても全く通じないのが関の山で、おまけに現地でわざわざPerfumeのライブを観に来るようなファンは、Youtubeやら何やらで日本の動画でのコール&レスポンスを観ている。結局、MCもコール&レスポンスも「日本語そのまま」で行われるというところに落ち着いていた。ユニバーサルのインターナショナル・マネージング・ディレクターのインタビューで、「Perfumeのライブにおいて我々が探し出さなければならない『即時翻訳テクノロジー』のような適切で未来的なアイディア」と言っていたものはどこかで出てくるのだろうかとちょっと期待して観ていたのだが、「日本語を理解できる現地のファンにライブ中いきなりマイクを渡して通訳させる」という、「未来的なアイディア」の正反対を行くあまりにも強引なやり方で、ツアー全公演のMCを乗り切ったのには唖然とさせられた。同時通訳というのはそれなりにスキルが必要とされるもので、一部会場では上手くニュアンスを乗せて訳せていなかったとの話を聞くと、通訳者の仕込みなどなく、本当にその場でいきなりマイクを渡し、あとは西脇さんによる世界共通レベルのフィジカルコミュニケーションで何とかこなしてしまったのだろう。そういえば、こういうファンとの距離感が昔のPerfumeだったよな、という感慨もありつつ、慎重さと大胆さが共存する全く恐ろしい光景でもあった。
前半のMCは現地ファンの即席同時通訳で乗り越えたが、やはりどうしてもPerfumeが現地ファンに伝えたいメッセージもあり、それらは恐らく事前に台本として作られたものを西脇さんが日本語で熱弁するなか、後ろのLEDスクリーンに翻訳された現地語が字幕として表示されていた。特に、レコード会社の移籍に関してはっきりと伝えたことはとても印象的だった。「幾つもの障害を共に乗り越えてきた徳間ジャパンだが、国外へ音楽を発信することができず、ユニバーサルへの移籍に至った。辛いときにも常に支えてくれた徳間ジャパンに別れを告げるのは辛かったが、逆に徳間スタッフが『今しかない』と背中を押してくれた」という内容は、徳間ジャパンがこれまでPerfumeへ注いできてくれた情熱の大きさと、それに反比例する企業規模を知る日本のファンにとって、スクリーンに映る西脇さんと同様に、涙無しではいられない深い想いに至る言葉だった。
「もう1回!」というアンコールに促されてPerfumeがステージに戻ると、あ〜ちゃんは「初めての場所なのにこんなにたくさんの人に歓迎していただけて、愛していただけて、本当にありがたいです」と涙を浮かべながらコメント。このステージに立つまでの長い道のりを振り返り、つらい時期に支えてくれた以前までの所属レーベルへの感謝の気持ちや、数年前から海外のファンによるダンス動画や手紙が届くようになったものの当時のレーベルは日本国内にしか音源を発信する手段がなかったこと、映画「カーズ2」の挿入歌に抜擢されてアメリカに行き自分たちの熱心なファンの姿を目の当たりにしたこと、そして世界進出を心に決めてレーベル移籍を決意したことを来場者に説明した。これらのあ〜ちゃんの言葉は英訳され、後方のLEDモニタに字幕として表示。シンガポールのファンも涙を浮かべながらこの話に聞き入っていた。
商業メディアのレポートには残されていないが、「本当は国外へ出たくないけれど、来てほしいという人達がいるから届けに行く」、西脇さんの言葉の中にあったこの一言が本音なのだろうと思う。共通の意識と言語、そして「和」という名前の「暗黙の秩序と安寧」に守られた、この平和で閉じた島国から、あえてその建前の通用しない世界へ飛び出す理由は、「ハリウッドで売れたい」「大リーグで活躍したい」「自分がどこまで海外で通用するのか試したい」といった外向きの攻撃的なベクトルではなく、「私達を通じて日本を知ってほしい」という、海外から日本へと収斂する意識のハブになろうとする、どこまでも「しなやかな保守」性であった。Perfumeを取り巻くクリエイター達の、既存の保守的な価値観に挑戦しようとする過激な意識と、彼女達の持つ「しなやかな保守」という相反する関係性が、それこそテクノポップに反発していたあの頃から、ずっとPerfumeの魅力そのものであったし、これからもそれは続いていくのだろう。
シンガポール「SCAPE」現地ライブレポートは、ナタリーとロキノンを読んでおけばお腹一杯という感じなので、初めてのライブビューイング体験を書いておこう。
ナタリー - Perfume初の海外ツアー、フィナーレを約3万人が目撃
http://natalie.mu/music/news/80503
Perfume @ シンガポールSCAPE | 邦楽ライヴレポート | RO69(アールオーロック) - ロッキング・オンの音楽情報サイト
http://ro69.jp/live/detail/75399
2010年の年末に福山雅治の年越しライブが劇場中継され、そこで得たノウハウや協力体制を元に、Amuseがファミリーマート/博報堂/WOWOWとの合弁でパブリックビューイングシステム会社「ライブ・ビューイング・ジャパン」を立ち上げたのが2011年05月12日。*2 それこそPerfumeがこのシステムのこけら落としになるのではないか、あるいは2011年の上半期に行われた「JPN」ツアーのどこかが中継されるのではないかと思ったが、Perfume初のライブビューイングはそれにふさわしい、海外ツアー最終公演となった。
「Perfume WORLD TOUR 1st」シンガポール公演 ライブビューイング
で、そのライブビューイングだが、まず音が絶望的に小さい。映画に特化したスピーカーに対して音楽ライブ並みの大音量と重低音を求める事にそもそも無理があって、だからこそライブ用のスピーカーを劇場に持ち込む「爆音映画祭」というイベントに需要がある。さらに国内だけでライブビューイングが行われた会場は70近くあり、会場ごとの音響スペックはそれこそ千差万別だ。それぞれの会場にPerfumeのライブ音響コントロールを多数手掛けるMSIの「爆音姉さん」こと佐々ふみさんを張り付けてチューニングする事も出来ない。相手の環境がばらばらの所へリアルタイムに動画を供給し音を鳴らすなど、システム屋の脳味噌には想像しただけでも恐ろしい。機材の故障が発生した越谷レイクタウン以外、酷い音割れなど聴くに堪えない状況が発生しなかっただけでも奇跡のように思える。
先程書いたPerfumeのライブの三大要素、爆音/ダンス/MCのうち、爆音が欠けてしまうのは必然であったが、ライブビューイング自体圧倒的に満足度が高かったのは、もちろんPerfumeのダンスを近年無いほどに堪能できたからに他ならない。Perfumeのパフォーマンスとはすなわちダンスであって、この魅力を観客に伝えるには、ある程度の会場規模の制約がある。しかし、現実におけるPerfumeは、ダンスを観客に見せるにはあまりにもその会場規模が大きくなりすぎてしまった。かつてはその息を感じられる程の距離でその迫力を感じる事のできたものが、東京ドームで米粒よりもさらに小さいダンスを観ることになった時は、ある種の絶望感に囚われた。今回、例えスクリーンであっても、Perfumeのダンスを最前列で何の障害もなく堪能し尽くせるというのは、どうしようもない音響の弱さに勝る感動があった。勿論これは、記念すべき初の海外ツアー、そしてそのツアーの最終公演を、現地と共有しているという意義が付与されていて、国内ツアーをライブビューイング「だけ」で観たいかと言われたら、いくらスクリーン前に特等席を用意されても同意する人もいないと思うが。
バルト9の最前列で、ライブは完全にスクリーンを見上げる形となり、視界の半分は三人の引き締まったアスリートのような脚を下から眺めるというスタイルになったが、リアルタイムで行っているであろうカメラスイッチングのセンスは抜群に良く、「カメラで撮ったものを見せられている」、というストレスも殆どなかった。各メンバ歌唱時の個人アップ、ダンスの決めポイントアップ、そして肝心のダンス全体像の引きの三者のバランス、とても生中継の仕事とは思えない、事前に相当なレベルで練り込まれた仕事で、観たいときに観たいものが映らないことで起きる現場との心理的距離感を殆ど感じなかった。これは本当に素晴らしい事だと思う。日本のテレビ番組にPerfumeが出演する際も、事前に入念なカメラテストは行われているが、実際にオンエアを見ると「もう正面固定の方がよほどPerfumeの魅力を伝えられるんじゃないか」とやきもきすることはPerfumeファンなら少なくない経験だろう。
ステージを動き回り、しかも頻繁に歌割の変わるグループアイドルというジャンルは、やはり一つの画面に観客が見たい画を収めることは非常に困難で、今歌っている人が映っていない、決めポーズに間に合わない、そういった不評を某アイドルのライブビューイングではちらほら耳にした。逆に、2010年のフランス「JAPAN EXPO」でのモーニング娘。ライブにおける、歌割や振付に完璧に沿った上でさらに効果的な演出まで魅せる日本人スタッフの撮影技術は、仏技術者に高く評価を受け、仏のポップカルチャー専門ケーブル局「Nolife」の番組「SUPERPLAY ULTIMATE」でその技術が熱い口調により解説された。これは自分の様な素人が生で行われているその技術の素晴らしさを理解するのに非常によくできたコンテンツだ。
MORNING MUSUME。Live at Japan Expo Nolife presente SUPERPLAY ULTIMATE
そういえば、自分の観た新宿バルト9は、半数程度が着席のままスクリーンを眺め、一方で騒ぎたい集団は最後列に固まるなどしていたようなのだが、久しくPerfumeの現場で聞いていなかった、所謂オタ芸「ミックス」が、「エレワ」「Dream Fighter」、さらには「FAKE IT」にまで入れられたのには驚いた。AKBやももクロの台頭でも市民権を得たとは流石に言い難い「ミックス」、Perfumeの現場から排除されたカルチャーを、よりによって初の海外ツアーの場で聞くことになるとはちょっと驚きだった。
コンパクトな形で行われた初めての海外ツアーは、無事海外ファンの中に小さな橋頭堡を築けたようだ。そのツアータイトルに「1st」と名付けたように、ファンがいる限り継続して行っていきたいという意思も示されている一方で、日本国内では5回目の紅白出場、大衆という広い層に向けての大仕事が待っている。国内のファンだけを相手にするのとは全く異なるストレスもまた増えてくるだろうが、今回のツアー規模を見るに、レコード会社が無理に戦線を拡大させてPerfume自身を疲弊させてしまうこともないだろうという楽観的観測も得られた。何はともあれ、本当にお疲れ様でした。
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