http://natalie.mu/music/news/106550
http://www.barks.jp/news/?id=1000097981
http://nailhacoblog.seesaa.net/article/385214999.html
それは光によって紡がれた美しい物語だった。
Perfumeのライブの魅力を最も単純化して定義付けるなら、「爆音/ダンス/MC」の三要素だという意識が自分の中にずっとあって、ブレイクと共に肥大していくPerfumeのライブ会場は、その定義から「爆音」と「ダンス」を奪っていった。視界の中のPerfumeはどんどん小さくなっていくばかりで、圧倒的なまでに統制された肉体の躍動たるダンスは、小指の爪よりも小さい像で見るか、ステージサイドのスクリーンを通して切り取られた一部を観ることしかできなくなっていった。どんなに優秀な音響スタッフと最高の音響機器を揃えても、Perfumeのサウンドを芳醇なるダンスミュージックとして機能するレベルで鳴らすのは、せいぜい新木場StudioCoastの吊るしスピーカーを全部降ろした時が最大の規模だろう。Perfumeの最大の魅力であった爆音とダンスが失われていくとき、Perfumeに何ができるか、それは最後の要素である「MC」を変化させていくことだった。いつしか、しつこいほどの客弄りや、「PTAコーナー」といった観客参加型の時間、あるいは観客をいくつかのグループに分けてのコールアンドレスポンスがライブに組み込まれるようになり、それは彼女達から物理的に遠ざけられた観客の心を一つにする効果を得た。
しかし、そういった「パフォーマンス外」のMCでライブを盛り立てようにも、Perfumeのライブ会場で鳴っていたあのサウンドと、目の前で繰り広げられた肉体とコレオグラフィの奇跡に夢中になった自分は、パフォーマンス自体の魅力が物理的/心理的な距離と共に只々失われていくことに虚しさを覚えるしかなかった。Perfumeのパフォーマンスの見せ方も、そしてなにより自分の感情も、会場の肥大する速度に追いつく事ができなかった。
あ:小さなライブハウスでずっと活動してきたから、自分たちは特別な機材とかが何もなくてもライブをやれるって、なんとなく思ってたんです。でもアリーナとか大きいところでライブをやらせてもらえるようになって、どんどん演出がすごくなったときに、MIKIKO先生が「Perfumeのライブは演出がないと大きなアリーナでは難しい」っていう話をしてくれて、実はすっごい傷付いたんです。「あ、演出がないと、うちらもうステージ立てないんだ」って、すごいショックだったんです。だからこれから、ライブハウスでやったときに「こんなもんか」って思われて、イメージダウンしてしまうかもしれないっていうのをすごい恐れてるところがあって。
これは、Perfumeが久し振りにキャパ1000前後、恵比寿リキッドルームと同等規模のライブハウスで公演を行った2012年末の東アジアツアー「Perfume WORLD TOUR 1st」についての発言だ。ライブハウスの距離感でPerfumeが無敵なのは誰もが想像し得ることであろうし、西脇さんがここで心配していた「こんなもんか」は全くもって杞憂でしかない。一方で、MIKIKO先生の言う「Perfumeのライブは演出がないと大きなアリーナでは難しい」もまた真理だ。
会場規模は肥大化し、そのPerfume三人自身のパフォーマンスそのものの魅力を会場の全てに届けることが難しくなっていく一方で、それに反比例して進化し続け、Perfumeのライブを支えていくことになるのは、照明演出だった。SWEET STUFF松井幸子といえば、Perfumeファンにもその名を知られるアストロホール時代からの照明プランナー/オペレータだ。確か「チョコレイト・ディスコ」リリースイベント当時、「レーザー酔いで気持ち悪くなる」と西脇さんがステージ上で辛そうにしていて心配になったのを覚えている。その後ひたすら数を増やしていくムービングライトと緑レーザーは、いつしかPerfumeのステージの代名詞になっていく。アイドルブームと共にアイドルライブの定番となったカラフルなサイリウムの海。しかし、Perfumeのライブでは演出の妨げとなる発光体自体の持ち込みが禁止され、その照明演出効果の最大化が図られてゆく。「Edge」「レーザービーム」での緑レーザーが網の目の様に観客の頭上を埋める飽和的演出は、一般的に知られたPerfumeのライブのスタイルだろう。2010年の東京ドーム公演では、マルチカラーレーザーがいち早く導入された。当時は非常に高価で希少なものだったらしく、わざわざベルギーから輸入したということで、西脇さんにより「ワッフルレーザー」という愛称が付けられた。
アリーナサイズでの緑レーザー飽和演出に圧倒された後では、東京ドームの空間はあまりにも巨大すぎ、また通路側照明を消せない都合上、終始ある程度明るいままの会場、初回東京ドームではこれまでのような照明術が太刀打ちできず、狭く限られた光量に非常に物足りなさを感じたが、「JPNツアー」で披露された「GLITTER」では、床下から天井へ向かって照射されるレーザーとコレオグラフが同期し、まるでPerfumeのダンスがレーザーを自在に操るかのようなその姿に驚愕し、また「スパイス」では敢えて照明を絞り込むことでその楽曲に孤高な空間を与えるなど、巨大な空間で限られた照明を寧ろ如何に演出するか、その進化を目の当たりにすることになり、巨大な会場で失われるパフォーマンス要素を補って余りあるステージをPerfumeが手に入れたのだ、自分がそう確信できるようになったもこの「JPNツアー」だった。
初回東京ドーム以降、本格的にPerfumeプロジェクトに参画してゆくRhizomatiksチームにより、スクリーンやステージセット、そしてPerfume自身に投影されるビジュアルも大幅な進化を遂げた。TAKCOMの描く、ストイックでミニマルで記号的で抽象的、かつ加速度と流動性を伴うという、テクノサウンドに非常に親和性の高いビジュアルは先進的なPerfumeのイメージを加速させ、スクリーンを離れて投影されるその映像は、遂にはPerfumeの動きをリアルタイムでトラッキングして動的にPerfumeのダンスに合わせたプロジェクションマッピングとなり、さらに衣装パーツごとに反射率の異なる素材を用い、映像解析によって衣装パーツや身体の部位ごとに個別の映像を投影することで、まるで映像そのものを着て踊っているような、そんな不思議な演出すら可能になっていった。AutoTuneヴォーカルや複雑で特徴的なコレオグラフなど、個の生的な主張を捨て去りフィギュア化を徹底する過程で幾つもの他者にはない圧倒的なオリジナリティを獲得し続けてきたPerfumeが、2013年には遂に照明を落として暗闇の中で自らをスクリーンとすることで動的に映像と一体となる、更なる表現の拡張に辿りつき、それは「紅白」のステージで日本中の大衆へとアピールされた。
今回の東京ドームで印象的だったのは、なにより光の演出だった。見たことも無いような巨大で繋ぎ目すらない白い球体にTAKCOMの鋭角な映像が投影され、まばゆく輝くその繭の中から現れる三人、ライブは終始幻想的な光の演出の中にあった。光と配色、それはこれまで以上に徹底した統制がなされていた。「LEVEL3」のモチーフとなった三原色の三角フィルムを散らしたグラフィックは衣装でも用いられていたが、この衣装には中心点があり、体の中心から集中線のようにその流れは広がっていた。まるでPerfume自身が多色の光を放つように。クリスマスライブという事で中盤にはサンタクロースの衣装を着るというアイドル演出も忘れなかったが、あれほどに上品で落ち着いた配色と質感のサンタクロース衣装をかつて目にしたことは無い。彼女達が投影されるスクリーンも、あれほどに巨大でありながら高精細なものは初めて見た。前回は残念にしか思えなかった暗がりの中で点灯したままの通路照明すらも、まるでそれが演出に組み込まれるように会場全体が穏やかに光を放つような柔らかい明るい光に満たされる時間が多かった。Rhizomatiksによる「Spending all my time」での動的プロジェクションマッピングは短期間で更に進化し、Perfumeの前面背面共に光の幾何学模様が飛び交った。ライブ全体に、光と配色の一貫性を感じたのは今回が初めてだ。
そして今回、光と共にあったのは、最初から最後まで一貫して意図を持って紡がれたストーリーだった。繭の中から出で、アメーバのように有機的な形をした花道を進み、花道から離れた小島へ渡り、最後はまるで大きな羽衣を纏った天女の様な姿となって青白い光を浴びながら、空から雪のように降ってきた白い風船に客席が目を取られている中、静かにまた光の繭の中に帰ってゆく。見る人によってその姿は違えど、巨大な繭たる子宮から、卵管の様な花道、離れ小島は卵巣のように配置され、ステージ自体が巨大な母性のメタファーであるように思えた。そもそもこの東京ドーム自体が、かつては「ビッグエッグ」の愛称で呼ばれた巨大な「卵」であった。アルバムの一曲目、そして今回のライブのオープニングとなる「Enter the Sphere」、ここで使われた「Sphere」は、語源であるギリシア語を受け継ぐ「球体」から、転じて地球、あるいは天空、天球までを指し示す。勿論これはステージ上の繭であり、東京ドームであり、卵であり、母なる地球であり、世界を構成する天球でもあった。
このツアーの最後にお約束めいたアンコールはなく、Perfumeにとって常に最後の挨拶である「それでは、Perfumeでした」の言葉を先に発し、そしてそのエピローグとして奏でられた「Dream Land」。数時間にわたって「花の香りが引き寄せる」「光が包む 痛みのない国」「終わりの無い国」「全て完璧な場所」を見せてくれた三人が、降り注ぐ雪と幻想的な光の中で、今目の前にあるこの風景が「夢の中」「偽りの世界」で「気持ちのないやさしい言葉の毒」でできているのだと伝え、「まだ戻れる」「キミの腕をボクが引くから」「負けないで」と、余韻を残したまま皆を静かに夢の世界から現実に引き戻していく。三人が光の繭の中へ消え、客電が点された時、かつてこれほどに幻想的でかつ現実的な夢を見たことがあっただろうか、この夢うつつを彷徨う微睡の時間を忘れたくない、そう強く思った。それは、初回の東京ドーム公演で「GISHIKI」と名付けられたオープニングよりも、遥かに厳かな儀式だった。現実と夢、生と死、初期の近未来三部作で描かれた仮想のユートピア/ディストピアへの旅、そして帰還。Perfumeに手を引かれて余韻の中で緩やかに静かに現実へ帰ろうとしていたはずのその美しい時間は、直後に始まった事務的な整列退出のアナウンスで台無しになったが。
- Enter the Sphere
- Spring of Life(Album-mix)
- Magic of Love(Album-mix)
- MC
- 1mm
- Clockwork
- ポイント
- MC
- ふりかえるといるよ
- Sleeping Beauty
- Party Maker
- Spending all my time(Album-mix)
- コンピューターシティ
- MC
- エレクトロワールド
- ジェニーはご機嫌ななめ
- ワンルーム・ディスコ
- 未来のミュージアム
- PTA
- だいじょばない
- ポリリズム
- チョコレイト・ディスコ(2012-Mix)
- MY COLOR
- Dream Land
風船に書かれていたメッセージ。
世界は愛でできている
愛で世界は変えられる
私たちで変えていく
一緒に未来に
見たことない世界へ。
あなたの誠実さやひたむきな姿は
きっと誰かが見てくれとる。
明日はきっと素直になれる
そしてもっと優しくなれる
あなたがみてくれとったけん
私はここに立てた。
だれかが必ずみてくれとる。
そのまま誠実に 自分を信じて
のっち
きみは誰の腕を引く?
次はあなたが誰かの腕を引く番
Perfume 4th Tour in DOME 「LEVEL3」 (Teaser)