2007年から続く、バレンタインの時期に合わせて行われるPerfumeの「ファンサーヴィス」キャンペーン。今年は以下の4つが行われた。
- NHK「Music Japan」に「チョコレイト・ディスコ」で出演
- 既存の映像をモバイル限定配信(4日間限定)、実質的には購入特典の待ち受けFlashの販売
- 「シングルを4月に出す」という情報の解禁
- 公式サイトのリニューアル(新コンテンツはいまのところなし)
まあお粗末だとは言わないが、微妙すぎる。2/10まで情報が出てこないと分かった時点で、もう大きなことは無いのだろうと諦めてはいたものの、第二弾まで発表された時点では、あまりのつまらなさにファンの大半が呆れ返っていた。2/14当日に出された、ほぼ一年ぶりとなるシングルのリリース情報は嬉しいが、「いやいや情報発表とかサイトリニューアルが『ファンサーヴィス』とかおかしいだろ」と言っても決して過剰ではあるまい。
Perfumeを知らない人にとっては、「ファンサーヴィス」の内容ごときでなにをぴりぴりしているのかと思うだろう。そう、Perfumeファンの期待する「ファンサーヴィス」には、特別な意味がある。そして、現在提供されている「ファンサーヴィス」との温度差、事務所の考える「ファンサーヴィス」という看板の捉え方との間には、相当な隔たりがある。
「ファンサーヴィス」の初出は2007年だ。まだブレイク前、それどころか売れなすぎて解散説も囁かれていた当時の状況としてはおおよそ考えられないほどの、豪華で贅沢な二つのパッケージが発売された。高級チョコレートの装丁を模した贅沢で凝ったパッケージに包まれた、写真集とDVD付きシングル「Fan Service [sweet]」、そして「ネタ出し尽くし」と銘打たれた、大判の写真集が付いたPerfume初のDVD作品「Fan Service [bitter]」。解散寸前のユニットに対してどこにこんな予算があったのかと驚くほどに、内容、デザイン、全てに手を掛けて作りこまれた豪華なこの二点。ともにサイズも大きくてCDショップの什器に納まらないというデメリットすら吹き飛ばして起死回生の一手となり、そしてその半年後に「ポリリズム」によってPerfumeは遂にブレイクを果たす。翌年には、新たに増えたファンのために、既に廃盤状態だったインディーズ時代の音源をまとめて、さらに新規の特典映像まで付けたボックス「Fan Service [prima box]」が、再び「ファンサーヴィス」としてリリースされた。
つまり、ある種記念碑的な位置を持つ、そしてとても魅力的なパッケージ作品のリリース群、そういうものに、「Fan Service」の名前が冠されてきたのだ。
単なるシングルやDVDのリリースではない、特別な意味を持つアイテム。そして、「ファンサーヴィス」が含む重みはそれだけではない。
「サーヴィス」、あくまで「サービス」ではなく「サーヴィス」だ。若いファンは知らないかもしれないが、この言葉は、YMOの解散記念アルバムのタイトルであり、往年のテクノポップファンなら一発で「解散」をイメージする強烈なワードである。それを、解散が噂された(本人達も後に解散危機を認めている)あのタイミングで出してきたという、まるで西脇さんの当時のMCのような、その途轍もないシニカルでアイロニカルなユーモアのセンスも、Perfumeの持つ圧倒的な面白さの一つだったのだ。
しかし、「Fan Service」はいつの間にか、単なる「チョコレイト・ディスコ」の販促イベントになってしまった。しかも、「チョコレイト・ディスコ」関連の新たなリリースがあるわけでもなく、売り物は既存曲の着うたや既にリリースされたDVDと同じ着ムービー。それにおまけで携帯用の待ち受けFlashが付きます、と言われても、使える携帯端末も限られる、などという以前に、何ともつまらない、味気ない「Fan Service」になり果ててしまった。
それでも、ここ2年の「ファンサーヴィス」、つまり「携帯用の待ち受けFlash販売」のような物でも満足している、「ファンサーヴィス」という言葉の重みに拘らないファンもいるだろう。
しかし、昨年とは大分状況が変わって、iPhoneやAndroidといったスマートフォンユーザーが、今年はもはや少数派ではない。にもかかわらず、スマートフォンユーザーや、あるいは普通の携帯でも古い機種のユーザーは、サーヴィスを受けることすらできない。Perfume3人の思いが込められているであろう「メンバーの直筆メッセージ」も見ることはできない。モバイル配信で525円という、一見とても敷居の低そうなシステムであるにも関わらずだ。AmuseとKDDIが提携しているからどうのこうのは、ファンの知ったことではない。
また、「着うた世代」は特に気にもしないかもしれないが、携帯端末に落としたそのサーヴィスは、機種変更で移行もできない。記念碑としても残らない、使い捨ての代物なのだ。
結局予算配分の都合で、シングルリリースとツアーを控えたこのタイミングに資金を投入できないのは目に見えている。2007年と今では置かれている状況もまるで違う。だから、かつての様な挑戦的なことは求めようがないのは分かっている。しかし、「ファンサーヴィス」は、予算の大小で満足度が決まるわけではない。売れないけれどスタッフに愛されたアイドルに、最後の一手となるかもしれない豪華なパッケージをリリースさせた、その挑戦に匹敵するような、そんな「スタッフの本気の気持ち」が欲しいのだ。
「ファンサーヴィス」という特別な言葉に対するファンの期待に、「本気の」サーヴィス、そしてそのシニカルなユーモアのセンス、その二つを共に持ちえる企画をAmuseが思いつかないのなら、もうその言葉はこのキャンペーンに相応しくない。この時期に「チョコレイト・ディスコ」の販促をかけたいのは当然のことだ。ならば、来年は「チョコディス大作戦2011」とでもすればいい。
ファンの特別な期待の想いが込められた「Fan Service」に応える事ができないのであれば、なにもこの言葉を使わなければいいだけだ。それならファンもここまで落胆させられる事はない。それは寂しいことではあるけれども。