Perfumeのダンスは、アイドルの新しい地平を切り開いた@サイゾー2010年8月号
モー娘。からAKBまで、アイドルにとってダンスの意味とはなんなのか?
今、イケてるダンスがアイドル人気を決する!!
というサイゾーらしい視点の特集。ハロプロの夏まゆみやAKB48の牧野アンナらの振付師やアイドルダンスの系譜などを解説。
現在のアイドルダンスは、
- おニャン子クラブからAKB48へ繋がる集団素人ダンス
- 東京パフォーマンスドールや南青山少女歌劇団からモーニング娘。へ受け継がれるアンチ素人のプロフェッショナリズム
- 沖縄アクターズスクールをルーツとするAVEXヒップホップ・リア充ダンス
- ピンクレディーのダイナミックさと、Winkの変な踊りに、フォーメーションを加えたPerfumeのアイドルアート
と分類できるようだ。
また、サイゾー選「アイドルダンスドリームチーム」には、Berryz工房の清水佐紀、℃-uteの中島早貴、SKE48の松井珠理奈、AKB48の大島優子、Perfumeの西脇綾香、ももいろクローバーの有安杏果が選ばれている。「夏DOKIリップスティック」を歌う矢島舞美のバックで清水佐紀と中島早貴が踊りまくる映像は、ハロプロを知らない自分にも「何だか凄いことになっている」という噂が届き、その映像を見たことがあるが、確かに異様な気迫に満ちた光景だった。Perfumeからは「Perfumeの長」として西脇さんが選ばれているが、後の五人がダイナミックな迫力を売りにするタイプなので、バランス的にはグルーヴ感のある大本さんを推してみたい。
Berryz工房の清水佐紀のダンスを大絶賛しているダンスカンパニー・コンドルズ(NHK「サラリーマンNEO」のサラリーマン体操などでお馴染み)の勝山康晴氏インタビューから、Perfumeについての言及部分。
−振り付けに関しては?
ハロプロは子供の頃からレッスンを積んでるんで、たまに「オッ」って技を挟んでくるんですけど、そうじゃないあまたのアイドルグループは弱いですね。その点、Perfumeはスゴイとこ突いてきましたよね。ジャズダンスとかヒップホップダンスには依拠してなくて、むしろモダンやコンテンポラリーダンスに近い気がするんですよ。フォーメーションも、3人が決められた立ち位置を崩さずに入れ替わるだけじゃないですか。あれはお見事ですよね。一体感も当然ありますけど、コンサートのビジョンに3人が必ず一緒に映る。立ち位置が離れたら個々に抜かなきゃいけないでしょ。
−その意図って結局・・・?
「3人の世界」だと思うんですよ。3人が内側を向いて楽しそうに歌って踊るところが多々あったり、女の子3人が仲良くしている部屋を観客が覗き見してる感じ。まさに「ワンルーム・ディスコ」ですよね。演者と観客の視点の設定が上手い。
正直自分はダンスについて門外漢過ぎて、「女の子の部屋を覗き見している」といわれても全くピンと来ないのだが、「1Perfume=90cm」間隔を基準に立ち位置が固定されるシステムや、メンバーが向き合って踊るフォーメーションがあるというのは一般的には珍しいことなのだろうか?
−Perfumeは、ダンスにも定評がありますよね。
すごいテクニック持ってますよね。アクターズスクール広島で鍛えられただけあって。でも、やっぱり振り付けが抜群にいいんです。あれでヒップホップばかり踊っても、売れなかったと思いますよ。あの振り付けもね、ぶっちゃけかなり前にモダンダンス、コンテンポラリーダンスでやりつくされた事のようにも見えるんです。だけど、それをアイドルに乗せたっていうのが斬新ですよね。ま、僕はBerryz工房のほうが好きなんですけど。(笑)
あと、Perfumeが斬新だったのは、アイドルグループにありがちな、大きな踊り、元気な踊り、明るい踊り至上主義なところを崩して見せたところ。どうせファンは、コンサート会場でもステージの後ろのビジョンを観てるわけじゃないですか。その意味で、ビジョンに映ることを前提にしたPerfumeのキャッチーな、手先だけ、指先だけの振りは、ツボを得てますよね。
ステージ栄えする大きな動作の振付から、ビジョン映りを前提とした手先を使った細かな振りつけへ、という視点は、舞台をプロデュースする立場の人間だからこそ見えるところか。Perfume×MIKIKOのあのスタイルは、当然ながらライブでビジョンを見るしかないような大きな箱を前提にして出来上がったわけではなく、結果的に現在そういう効果を生んでいるだけなのだが。
「大きな踊り、元気な踊り、明るい踊り至上主義」というのは、PerfumeにおいてもPaniCrewのメンバーが振付けたとされる「おいしいレシピ」などに見られるスタイル。Perfumeの場合はまずその前提となる楽曲が「アップテンポで元気な曲」という地点から離れていくため、それに合わせて振付がそうならざるをえなかった過程が先にありそうだ。ゆえに、「スウィートドーナッツ」でもまだ振りは大きいが、「モノクロームエフェクト」からは極端な変化が見て取れる。
−Berryz工房が大好きだけど、Perfumeは認めざるを得ない、と(笑)。
そうですね。Perfumeは新しい地平を切り開いてしまったわけです。だってあれ、コンサートはダンスパフォーマンスがメインにも見えますよね。お客さんも、他のアイドルグループに比べ、ダンスを見ることにもかなり比重を置いてると思います。そういう客層が存在するってことは、アイドルという存在の間口が凄く広くなってるってことですよね。AKB48みたいにファシズム的な踊りでファンを高揚させていく手法のグループもいれば、Perfumeみたいに全く新しい形のダンスを見せることに成功したグループもいる。だからね、僕が個人的に応援しているBerryz工房も、もっと面白いことができると思うんですよ。
Perfumeのダンスは凄い、いやああ見えて簡単だ、そういう不毛な議論がブレイク当時には散見された。まあ結局、ダンス自体が難しいから云々、Perfumeの三人のダンススキルが云々などという話ではなく、あのようなフォーマットとして斬新なダンスを提示してきた所が凄い、という話に尽きるのだろう。*1 エレクトロサウンドもコンテンポラリーダンスもそれ単体では特段珍しいものでもないが、それらをともにアイドルというフォーマットに落とし込んだアイディア自体に最大の功績があるのだ。
エレクトロサウンドが、高い高いアイドル愛好家という垣根を越えてテクノリスナーを引き込み、アイドルファンの世界を変えたように、あのダンスも、アイドルのステージングのフォーマットを変えてしまった。それはヴォイスエフェクトという建前を持って、表向き歌うことを切り捨てたことによって成り立つ部分も大きいだろう。*2 当然下らない批判も沸くのだが、「全部含めてパフォーマンス」という割り切った姿勢を貫く選択をした事も、アイドルに徹底したエレクトロサウンドを持ち込んだ事と同じくらいに重要な決断だったと言えるだろう。
※参考
Perfumeブレイク期のMIKIKO先生のインタビュー
http://d.hatena.ne.jp/aerodynamik/20071101/p1