- 20130630「Aira Mitsuki ワンマンLiVE in Glad」@渋谷Glad
気付けばAira Mitsuki名義の音源はもう3年近くもリリースされていなかった。2010/08/31「アイドルユニットサマーフェスティバル2010」でスマイレージ福田花音が言及したことで一気に認知され、そして2011/06/19 私立恵比寿中学のライブで宮崎れいなにより狭義の終焉が宣言された「アイドル戦国時代」というバズワード。(ちなみにこの時宮崎はエビ中が率いる「アイドル新時代の幕開け」を宣言している。) そういう季節を、事務所に飼い殺されたように過ごした彼女の事を考える。もっとも彼女自身は自らをアイドルと定義付けることに興味はなかったけれど。
久し振りのワンマンライブは、事前に「重大発表があります」と告知されていた。ある程度の察しがつくとしても、そもそもデートピアという事務所がユニットをまともに収束させた試しはほとんどなく、大抵は告知もなにもないまま活動が見えなくなってしまうのが通例である以上、その「察し」を信じ込んでしまうわけにはいかなかった。
6年間続けても全く成長しなかったぐだぐだで空気の凍りつくようなMC、エレクトロに寄り過ぎてしまったために音色が古くなってしまったゼロ年代トラックと、逆に3年経ってもまだ新鮮さを保っている「???」、そして音色に関係なくエバーグリーンですらあるキャンディーポップなメロディー。いつもの彼女らしいライブが展開される。
しかし、その時は来る。アンコールの際に告げられたその内容とは、2013/08/21にラストアルバムのリリース、そして2013/09/28-09/29のGladライブをもって活動休止。「活動休止すること自体よりも、ファンのみんなに活動休止を自分の口から言うのが精神的に辛かった。」と。たどたどしく語る彼女の言葉を受け止めて凍り付いた様に静まり返ったフロアも、まだ彼女が話しているというのに空気も読まないスタッフがバックのスクリーンに映し出したラストアルバムのタイトル「I'LL BE BACK」には流石に笑いが起きた。勿論「ターミネーター」のあれだというが、最期までデートピアらしいというかなんというか。
この日のライブでは事前から“重大発表”を行うと宣言していたアイラ。彼女はライブ本編終了後、アンコールを受けて再びステージに上がると「Aira Mitsukiは、2007年の8月8日に『カラフル・トーキョーサウンズ・NO.9』でデビューしまして、今年でもう6年の活動になります。この6年間は本当に言葉で言い表せないくらいいろんなことがありました。でも、一番うれしかったのは、ファンのみなさんと出会えたことでした。私、Aira Mitsukiは2013年9月29日のワンマンライブをもって活動を一旦休止にしようと思います。長い間、応援してきてくれたファンのみなさんにはありがたい気持ちでいっぱいです。こんな私を応援してくれて本当にありがとうございました」と集まったファンに感謝の言葉を述べた。
もともとデートピアのアイドル達は、その皮肉と諧謔と悪ふざけに満ちたプロモーション戦略のためか、多くの勘違い、誤解、偏見の上に成り立っていたと言ってもいい。それがそもそもの戦略なのだから、それを理由にアイドルポップスシーン上で正当な評価を得られなかった事に対してはとても残念だが、その悪ふざけを「デートピアらしい」と言って楽しませてもらったのもまた事実なので、その点は何とも形容しがたい複雑な思いをデートピアのファンは皆抱えていると思う。
ゼロ年代前半の田舎くさいトランスブームに乗っかった「トランス歌姫発掘オーディション」で選ばれたにもかかわらず、Perfumeが巻き起こすであろう一大テクノポップブームを見越して急遽テクノポップ路線に切り替えてデビューすることになったAira Mitsukiは、同じくデートピアが送り出したSaori@destinyと同様に、Perfumeサウンドのイミテーションから始まり、試行錯誤の末に別次元へ到達した。
デートピアの嗅覚は鋭かった。そもそも、テクノポップなデビュー曲「カラフル・トーキョーサウンズ・NO.9」は「ポリリズム」より先に世に出た。Perfumeが中田ヤスタカと一蓮托生を決め込む中、2008年時点でやけのはら/Cherryboy Function、2009年には口ロロ/Traks Boys/tofubeats、そして2010年にはFUNKOT伝道師高野政所といった日本のクラブミュージックのトラックメーカー達を制作に巻き込み、アイドルポップスにセオリーなど無視して面白サブカル音を突っ込んだもの勝ちの空気を醸成した。Ed Banger Recordsを丸々パクったごりごりのエレクトロから、ドラムンベース、ブロステップ、2STEP、レイヴ、チップチューン、生フュージョンバンド、面白そうなサウンドに片っ端から手を出した。tofubeatsをライブ前座でリキッドルームデビューさせた。Aira本人の歌よりも環ROYのラップの方が長い曲すらある。
この流れが無ければ、ももクロ×前山田健一の「行くぜっ!怪盗少女」に始まる快進撃は起こりえなかったかもしれない。ファッションでも、ももクロパーカーでアイドルオタにもお馴染みとなった「galaxxxy」とのコラボは、2008年の80_panから始まっていた。ももクロがサブカルと接触する下地はデートピアが作ったと言ってもいい。
Saori@destinyの2007年年末のデビューシングルでは、その年の夏に発売されニコニコ動画で火が付いたばかりの「初音ミク」を初めて商用利用した(はずだったが、当時まだクリプトン側でも権利関係方針が整理されていなかったためうやむやに。) 2010年の夏に少女時代とKARAがダンスポップを引っ提げて日本へ上陸した時には、ほぼ同タイミングでトッププロデューサチームSweetuneに楽曲提供を依頼した。
2012年のBerryz工房と℃-uteの2曲同時再生で一つの曲「超HAPPY SONG」になるネタも、多くの実験的ミュージシャンが試みるものだが、恐らく大抵のサブカルの頭にあるのは1997年のThe Flaming LipsのCD4枚組「Zaireeka」と、同年のCorneliusアナログ2枚組「Star Fruits Surf Rider」だろう。Aira Mitsukiは2008年にそれをモバイル配信曲でやってみせた。携帯電話2台というデバイスを選んだ時点で最も新しく、かつ最も聴かれないものとなってしまったが。
ドラムを叩き、ショルキーを弾き、テルミンも演奏した。DJもやってみた。フロア用にリミックスされたライブトラックや、Aira自身が作成した荒削りなエレクトロトラックもリリースされた。ノンストップで連続曲披露のライブも昨今のアイドルにはよくある「全力」演出だが、2008年時点で既にAiraもSaoriもライブトラックは「DJミックスのようにエディットされたノンストップ」だった。
とにかく、それまでの既成概念であった「アイドル」が手を付けていない面白そうで刺激的なことに片っ端から手を出した。デートピアの嗅覚だけは常に世間の三年先を行っていた。ただ、その試みを面白がってやっているだけで、まともなプロモーションに繋げたり、継続して個性にしたり、という発想が全く欠け落ちていたのがこの事務所の最大の欠点だったが。
そうやって目新しいものを追いかけてばかりの薄っぺらさだけではなかったのが何だかんだとデートピアの愛される所以で、Ed Banger Recordsのアレンジを丸パクりしたトラックに乗るメロディーは、大西輝門ビーイング譲りのどキャッチーなキャンディーポップに彩られていた。一方で、AiraやSaori自身が手掛ける作詞は正視できないほどの独自の虚無と鬱に包まれ、極端すぎる両者の異様なバランスはあまりにもオリジナルなものだ。結局それがデートピアの社長のお遊びみたいな趣味的なものだったとしても、直観的にダンスフロアに正直で、それでいて超キャッチーなキャンディーポップなんて早々作れるものじゃないし、舌っ足らずな上にそのままでもAutoTuneをかけたようなAiraの発声も他には無いキュートな個性だった。
Perfumeはダンスも楽曲もMCも感情表現も演出も前向き過ぎるモチベーションも、何もかもがいつだって完璧なアイドルだけれど、Airaはアイドルを演じるにはあまりにも根暗で不器用過ぎて、彼女がステージで輝いたり、MCで場を凍らせたり、太ったり痩せたり、その人間臭すぎるプラスティックドールと、新しくて面白いけれど全くトリートメントされていない凸凹したダンスポップチューンと、そういう完璧さとは程遠いアンバランスさの塊が好きでした。
Aira Mitsuki「BARBiE BARBiE」
Aira Mitsuki「ロボットハニー」
Aira Mitsuki「プラスティックドール」
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